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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
四章 テウザ山編

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救世主?

カサンドラの麻痺も抜け、黒髪でお団子頭の少女も動けるようになった。


俺たちは仲間と合流すべくテウザ山を移動する。


「毒を吸い出すなんて…あなた…一体何者なんですか?」

お団子頭の少女は興味津々に俺を見る。

その視線は好奇心だけでなく、どこか品定めするような鋭さを帯びていた。


復帰したカサンドラの回復魔法もあり、毒に蝕まれた体は、ほぼ寛解かんかいしていた。


「ははは…」

何者かなんて、むしろ俺が知りたいぐらいだよ。


「きゃああああ!」

静まり返る山中に、静寂を切り裂くように悲鳴がこだまする。


この透き通るような声は…ネコショウ! 反射的に声のする方へ走り出す。


「待ってください! リョウカさん!」

カサンドラからの声を振りほどき、全速力で駆ける。


ネコショウ! お前の身に何かあったら…俺は…。


目の前に白い霧が立ち込める。

しかし、不自然に溶け出した木々は、明らかな異常を示していた。


迷わす霧の中へ飛び込む。


これはラッキースケベへの過信じゃない。

ネコショウが危ないってのに、立ち止まれるかよ。


幸いにも、というか、ある程度予想通りであったが、不可思議な白い霧は、影響の無い俺の体とは裏腹に、服のみを少しずつ侵食していった。


布地が溶け落ち、地面に落ちた瞬間、微かな音を立てて煙を上げる。


いた!


ネコショウの目の前に、不気味な魔物が迫っていた。毛の無い腐敗した剥き出しの肌。


ネコショウとの間に飛び込み、噛みつこうとする獣の顎を片腕で掴んだ。


「俺の愛猫になにしてやがる!」

初めてかも知れない…初めて腹の底から、どす黒い感情が込み上げてくる。


渾身の一撃を毛の無い狼の頰に見舞う。


「キャンッ!」

獣は子犬みたいな悲鳴をあげ、仰け反る。

しかし、反応とは裏腹に、さしてダメージは与えられていないようだ。

拳に返ってきた感触が、生身とは思えないほど硬い。


「リョウカ…様…来てくださったのですね…」


彼女の手が俺の服を掴み、

背後で、か細い声が消えた。


「ネコショウ…っつ…」

酷い…。振り向くとネコショウの剥き出しの肌が焼けただれ、意識を失っている。


焼けた肌の匂いが鼻をつく。三本の尻尾が、力なく地面に垂れていた。


…胸が締め付けられる。仲間を失いそうになる、この嫌な感覚。


…だめだ、落ち着け。

ネコショウの命は、俺の選択にかかっている。

ネコショウを早くカサンドラの元に連れて行かないと。


…しかし、周囲には酸の霧…。

仮にネコショウを抱えて突っ切ったとして、

俺は無事でも、ネコショウがどうなるかは分からない。


ラッキースケベの加護がネコショウまで及べば、無事に抜けられるかも知れないが、彼女が瀕死なこの状況で、そんな危ない橋は渡れない。


「グルルルル…」

そして、目の前に対峙する毛の無い狼。


明らかに俺を警戒している。

ふと、獣の背後で、異様な気配を発している光る紋様が視界に映る。


あれは…退魔の剣…?

そうか、ネコショウが背負ってた剣は、退魔の剣だったのか。


そういえばデュナンが、誰に渡そうか悩んでたっけ。


あれを使えば、酸の霧を退けられる。

ただ、これで、確実にネコショウを連れて逃げられるだろうが、問題が一つある。


この剣は、俺のラッキースケベまで打ち消してしまうことだ。

あれを手に取れば、確実にやつの攻撃を凌げなくなる。


それでも――今は、それしかない。


「グァァァァ!」

毛の無い狼が突っ込んできた。

ネコショウを抱きかかえたまま、すり抜けるように躱す。


即座にネコショウが身につけていたソードホルスターを外し、自身に付け替え、退魔の剣を背に差す。


さて、ここからが正念場だ。

既に獣は態勢を立て直し、こちらを警戒している。


退魔の剣を背負っている限り、酸の霧や麻痺毒など、マナ由来の攻撃は気にする必要は無い。


問題は爪と牙。

物理攻撃に関しては、正直、分からない。


………っ!

一瞬、イエティに退魔の剣で斬られた瞬間がフラッシュバックする。


駄目だ。怖気付くな。ネコショウを助けないと。

ネコショウを抱きかかえている手に、力が入る。


「グァァァァ!」 毛の無い狼が飛びかかる。


…その瞬間、姿勢を低くし、斜めに走り獣の爪を躱す。


退魔の剣により、ラッキースケベの加護がどうなっているかは分からない。

それでも、紙一重で回避して、俺は白い霧に飛び込む。


退魔の剣で白い霧は霧散していくが、

背後から、再び唸り声が迫っている。


カサンドラの元へ、早く!


「ぐぁっ……!」

直後、背中に衝撃が走る。


そのまま、ネコショウごと地面に倒れ込む。


「グルルルル」

獣の唸り声が背中に覆いかぶさり、生温い吐息が首筋を撫でる。


くそっ…ここまでか…。

俺はネコショウを、強く抱きしめる。


フワッ…。

突如、目の前の霧が晴れた。


朦朧とする意識を前方に向けると…お団子頭の少女が、拳を構え立っていた。

その構えは、無駄がなく、異様なほど洗練されて見えた。


「まったく…一人で突っ走って…」

次の瞬間、少女が消えた。

同時に、背中にのしかかる重みと気配が消える。


「ギャォォォォオン…!!」

毛の無い狼が、断末魔と共にぶっ飛ぶ。


薄れゆく意識の中で、拳を突き出す凛々しい少女の姿が、目に焼き付いた。

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