表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
四章 テウザ山編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/133

ラッキースケベ②?

先ほどの喧騒が嘘のように、山は静けさを取り戻していた。虫の声も、鳥の鳴き声もない。

木々のざわめきすら聞こえず、まるで――山そのものが死んでいる。


洞窟内でカサンドラを横に寝かせ、怪我の具合を確かめる。

ビキニアーマーの隙間から、肌が裂けているのが見えた。細かい傷が多いな。

――特に左腕が深い。


衛生的に最悪なのは分かっているが、今は贅沢を言っていられない。


デュナンから借りた服を引き裂き、即席の布を押し当てて止血する。


幸か不幸か、麻痺毒のおかげで痛みは薄いらしい。


「カサンドラ……」

軽く肩を揺すると、ぼんやりと瞼が開いた。


「……なんですの……」

舌がもつれている。


「回復魔法、自分には使えないのか?」


「ええ……攻撃魔法が術者に効かないのと同じで……回復魔法も……ですわ……」

そう言うと、カサンドラは再び力を失っていく。


……そうだよな。

使えるなら、とっくに使ってる。


呼吸は浅いが、眠っている。

静かな寝息に混じって、荒い呼吸音が洞窟内に反響する。


――待て俺じゃない。

誰もいないのに、頭の中で言い訳が走る。


これ、完全に癖だな。

……音の方向、洞窟の奥だ。


カサンドラを抱え、もう少しだけ奥へ移動させる。

通りすがりの魔物に見つからないためだ。


薄暗い洞窟の奥へ、慎重に歩を進める。


「……っ」

声が出そうになり、思わず口を塞いだ。

目の前に横たわっていたのは、二メートルはある巨大な大蛇。


だが――動かない。

頭部は原型を留めておらず、生命の気配は完全に消えている。


そのすぐそば、洞窟の壁に寄りかかるようにして、一人の少女がいた。


黒髪のお団子。ホットパンツ。

首筋に穿たれた穴から、黒い亀裂が全身へと走っている。


「誰です」

鋭い声。

衰弱しているはずなのに、威圧感だけは本物だった。


「驚かせるつもりはなかった。俺たちは旅の者だ。この山に人探しで来た」


「人探し……ここで?」

息は荒い。

だが、目だけがやけに冷静だ。


「……ここには、私しかいませんよ」

なるほど。この状況で、この態度。

只者じゃない。


「その首の傷……」


「麻痺毒にやられたところを、そこのヘビに噛まれました。仕留めはしましたが……猛毒です。長くは持ちません」

淡々とした口調だった。


ん?……どこかで見た顔だ。

「すみません。仲間も毒にやられていて……隣で寝かせても?」


「構いません」

即答だった。カサンドラを彼女の隣へ寝かせる。

呼吸が、少しだけ落ち着いた。


問題は――この子だ。


「私は長くは持ちません…あなたに伝言を託しても…クリステラの友に……」


「友……もしかして、ステラさんのことか?」

少女の目が、わずかに揺れた。


「……知っているのですね。では、あなたたちが探していたのは……私ですか。

なら…ステラは?」


「……黒狼に襲われて、はぐれた」


「……そうですか」

一瞬だけ、目を伏せる。

「無事だと……いいのですが……」

この状況で、他人を気遣うのか。


「……泣いて、いるのですか?」

指が、俺の頬に触れ、涙を拭う。


「見ず知らずの私のために……」


「……」


「……ステラを、お願いしますね」


そう言って、何か言いかけた唇が止まった。

言葉にならなかった思いだけが、喉の奥に残ったまま――


「……くそ」

拳を地面に叩きつける。


――役立たずだ。


助けられない。

何もできない。

血を止めることも、毒を消すこともできない。


俺にあるのは――

偶然と、下劣と、笑い話だけだ。


こんな時に。

こんな場所で。

誰かが死にかけている、この状況で。


ラッキースケベなんて――


……いや。

ラッキースケベ。

ここで、ある仮説が浮かぶ。

何度も偶然に救われてきたから、分かる。

ラッキースケベが原因で、死や致命傷は起こらない。

対象がいること。“巻き込む”こと。

可能性があるなら……やるしかない。


一瞬だけ躊躇する。


俺は、少女の首筋の傷に口を当てた。

毒を、吸い出す。


「……っ」

微かな声。

黒い亀裂が、ゆっくりと引いていく。


「ちょ、ちょっと……なにを……!」


「毒を抜いてる! 動くな!」

必死だった。

必死で、唇を離さなかった。


「待って……これ以上は……」

そのまま、少女の体から力が抜けた。


恐る恐る、彼女の口元に手を当てる。

――呼吸はある。

黒い亀裂も、完全に消えていた。


「……助かった、か……」


女神様を、甘く見ていた。

ラッキースケベは、紛れもないチートだ。

――最低で、最強の。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ