二人の関係?
焚き火が爆ぜる音で、ふと意識が浮上した。
目を開けると、ネコショウ(美少女モード)の膝枕に預かっている。
「あれ……ここは……」
体を起こそうとして、周囲を見渡す。
森の中。どうやら野営中らしい。焚き火の明かりが木々の影を揺らしている。
仲間たちは既に眠りについており、
ネコショウだけが起きて、俺の頭をそっと撫でていた。
「あ、リョウカ様。起こしてしまいましたか?
すみません……」
「ああ……そうか……」
記憶がゆっくりと戻る。
アグリアスの腹パン。その直後――気絶したんだっけ。
「ここは、テウザ山の麓の森です」
「なるほど……。
あれ? デュナンとステラさんは?」
焚き火の周りに視線を走らせるが、二人の姿が見当たらない。
「お二人は、周囲の見張りをしてくださっています」
「そうか……ネコショウは寝なくていいのか?」
「私は夜行性なんですよ」
「ネコだから、そりゃそうか」
仰向けになったまま、何気なくネコショウの頬に触れる。
「ネコショウ。
いつも運んでくれて、ありがとう」
「んっ……リョウカ様、くすぐったいですよ」
ふっと、ネコショウの瞳が緩む。
だが、その奥に――ほんの一瞬、哀愁の色が宿った。
「……リョウカ様」
ネコショウは、ためらうように言葉を選んでから続けた。
「リザリー様は……去り際に、何か言っていませんでしたか?」
――やっぱり、か。
誰よりも彼女のことを気にしているのは、ネコショウだ。
「……いや。なにも言ってなかった」
「……そうですか」
少しの沈黙。
「……リョウカ様。
勝手なお願いかもしれませんが……」
ネコショウの声が、微かに震える。
「リザリー様を……殺さないでください」
俺の頬に、冷たい雫が落ちた。
「ああ……。
そもそも、お前の知ってるリザリーは、簡単に殺られるようなタマじゃないだろ」
ネコショウの目を見る。
「むしろ、俺たちの方を心配してくれ」
「……ふふ」
ネコショウは、小さく笑った。
「そうですね。
やっぱり、リョウカ様と一緒にいると……何だかホッとします」
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
「ネコショウ。
一生、俺の傍にいてくれ」
次の瞬間。
ネコショウが勢いよく立ち上がり、
膝枕を失った俺の頭が、地面に叩きつけられた。
「いでっ!」
「あっ……す、すみません!」
慌てて頭を下げるネコショウ。
「で、でも……リョウカ様が、変なことを言うからです。 私は化け猫です。眷属というか……魔物みたいな存在で……」
視線を伏せ、小さく続ける。
「……そんな相手に……」
「え? そんな変なこと言ったか?」
正直、よく分からない。
ネコショウは、家族みたいなものだ。
――少なくとも、俺はそう思っていた。
いなくなったら、きっと寂しい。
できれば、ずっと傍にいてほしい。
それは、そんなにおかしな感情だろうか。
「まったく……」
ネコショウが、ぷいっと顔を背ける。
「そういうところが、アグリアスさんを“ヤキモキ”させるんです!」
「なんで、アグリアスの話になるんだ?」
「もう知りません!」
ネコショウは、尻尾を夜空に向けてピンと立て、
そのまま背を向けて横になってしまった。
……女心は難しい。
いや、メス猫心か?
再び睡魔に引きずり込まれそうになった、その時。
「……私も、人間だったらよかったのに……」
小さな呟きが、風に紛れて聞こえた気がした。
その言葉は俺の耳には届かなかった。
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野営地から少し離れた高台。
デュナンとステラは並んで腰を下ろし、周囲を警戒していた。
「ふぅ……今日は、風のマナが落ち着いてていい夜だね」
エメラルド色の瞳が、野営地の焚き火を静かに見下ろす。
その横顔を、ステラがじっと見つめていた。
「……デュナン。
あなた、変わったわね」
「そうかい?」
「昔は、もっとギラギラしてた。
狼みたいで……」
「狼、か。ひどい言われようだな」
軽く笑いながら、デュナンは続ける。
「それよりステラ。
キミの父君には、許可を得てここにいるのかい?」
「うっ……」
ステラは、露骨に言葉に詰まった。
「まったく……。
キミは昔から変わらないね」
ため息混じりに言う。
「もう少し、周りのことも考えたらどうだい。
父君に、あまり心配をかけないように」
その瞬間。
ステラは、デュナンの胸に顔を埋めた。
そして、拳でその胸を軽く叩く。
「……ステラ、どうした?」
「どうした、じゃないわよ……」
声が、震えている。
「あなた……自分のことは棚に上げて……」
言葉が溢れ出す。
「前回も……そして今回も……
どうして、何も言わずに私を置いていったのよ……」
拳が、再び胸に触れる。
「どうして、家を出たの……
どうして、婚約を破棄したの……
どうして……私じゃ、ダメなのよ……」
「…………」
デュナンの口元が、微かに震えた。
「……何とか言いなさいよ……」
「ステラ……すまない」
それ以上、デュナンの口が動くことはなかった。
虫の鳴き声に紛れて、
すすり泣く声だけが、静かな夜に広がっていた。




