仲間?
アグリアスが出たあと、誰も口を開かなかった。
「行ってきなさい……」
立ち尽くす僕の背中を、ミザリアが叩く。
短い彼女の言葉に、思いのすべてが詰まっていた。
軽く頷き、アグリアスのあとを追って客間を出る。
レオンハート邸を出てすぐ、彼女は見つかった。
仄かな光を灯すクリスタルのそばで、アグリアスは腰を下ろし、遠くを見ている。
「夜は魔蟲ってのが地上で蠢いてるから、危ないらしいぜ」
「……そうなのか」
俺の言葉は、彼女の耳には届いていなかった。
「私は、どこで道を違えたのだろうか……
……魔族を仲間にしたことか?
王女を匿ったことか?
それとも――リョウカ、お前と出会ってしまったことか……なあ、教えてくれ?」
顔を伏せるアグリアス。
地面に、大粒の涙が落ちていく。
彼女の言葉が、胸に重く突き刺さる。
それでも――それでも俺は、ここまでの道のりが間違いだったなんて思わない。
「アグリアス……俺は、みんなと出会えて幸せだった。アグリアスと出会えて、毎日が幸せだった。
楽しかったんだ。本当に」
アグリアスは、泣き腫らした目でこちらを向く。
「お前ひとりで背負う必要なんてない。
お前は一人じゃない。俺《《たち》》は、全員が仲間なんだ」
「それに、まだ道を違えたなんて決めつけるのは早いだろ? 俺たちの戦いは、これからなんだから」
「りょ、リョウカぁ……!」
金木犀の香りとともに、アグリアスが俺に抱きつく。
俺は、彼女の綺麗な髪をそっと撫でた。
「お前が悲しかったら、慰めてやる。
お前が辛かったら、一緒に背負ってやる。
お前が笑ったら、一緒に笑ってやる。
お前が怒ったら、殴られてやる。
……それで、寂しかったら――一緒にいてやる」
「だから、俺を頼れよ」
アグリアスは俺の胸に顔を埋め、こくこくと頷く。
そして、なぜか吹き出した。
「ふっ……よくもまあ、そんな臭いセリフをつらつら言えたものだ。
それに、なんだ……殴られてやる、とは……」
馬鹿にしたように笑う彼女。
「ちぇっ……」
少し拗ねて、顔を逸らす。
「リョウカ……」
……!?
声に視線を戻した、その瞬間。
唇に、唇が触れた。
「……ありがとう」
泣きながら笑うアグリアスの表情から、迷いは完全に消え去っていた。
✡
――翌日。
客間にて、皆が思い思いにくつろいでいる。
昨夜まで張りつめていた空気が嘘のように和らいでいる。
「いや〜諸君、今日も空気が美味いね」
「こんな状況だというのに、貴方は相変わらずです わね」
カサンドラが呆れたように、しかしどこか安堵を滲ませて睨む。
その時――
アグリアスが一歩前に出て、姿勢を正した。
「皆に、話がある」
自然と会話が途切れ、仲間全員の視線が彼女に集まる。
「皆……一人で突っ走って、済まなかった」
一拍、息を整え――
彼女は真っ直ぐに俺たちを見据えた。
「王都へ行き、エアリー王女を必ず取り戻したい。
どうか……皆の力を、貸してほしい!」
その言葉に、俺はなんとなく意地悪したくなってしまい――わざと、間延びした声を出す。
「……ええ〜、どうしよっかな〜」
「僕は構わないよ」 「私も」 「私も」
「わたくしもですわ」
俺を除いた全員が、即答だった。
……なんか、俺だけ子どもみたいじゃん。
「リョウカ……頼む!」
アグリアスは俺の冗談を真に受け、なんと、その場で土下座した。
昨日まで、自分だけを信じて意志を貫き通していた彼女は、もういない。
今そこにいるのは、目的のために仲間を信じ、頼ろうとするアグリアスだった。
全員の冷たい視線が、じわじわと俺に突き刺さる。
「じょ、冗談だよ!
全面的に協力するに決まってるだろ!」
「あなたが童貞なのは、そういうところがあるからよ?」
ミザリアから、容赦のない口撃が飛ぶ。
……ぐっ。
それを言われると、何も言い返せない。
「ふふふ」
ネコショウが、くすりと笑みをこぼす。
「これからは、具体的な計画を練る必要があるね」 デュナンは腕を組み、アグリアスへ視線を向ける。
「ああ。皆の意見を聞いた上で、決めていこう!」
こうして――
俺たちは、ようやく本当の仲間になった。




