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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
三章 逃亡編

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終わりと、始まり?

夜が来る――。


言い知れぬ不安が胸を締め付ける中、俺はエアリー王女の手を引き、レオンハート邸を目指していた。


「――っつ!?」

突如、繋いでいた腕に焼けるような熱が走る。


「きゃあ!!」

悲鳴に反射的に振り返った瞬間、

そこには――異変そのものが立っていた。


長い黒髪。

長い刀。

鋭く切れ込んだ細い目。  

黒衣に包まれた華奢な体躯。


そいつは、エアリー王女を抱えたまま、こちらを見下ろしている。


――なんだ、こいつ……。

どこから、現れた……?


「おい! エアリーを放せ!!」


「貴様は何者だ?」 淡々とした声が返る。


「腕を切り落とすつもりだったのだが……浅かった?」


言葉に導かれるように自分の腕を見る。

――遅れて、痛みが来た。


血が流れている。

だが――

よかった、動く……。

震える指を確かめるように、握って、開いた。


「何者かは、俺のセリフだ!」


「……そうか」 男の目が、僅かに見開かれる。

「お前、転生者か」

好奇心に濡れた視線。


どうやら、まともに会話をする気はないらしい。


「魔王様――その娘を連れ、お下がりください」

聞き覚えのある声が、男の隣に立った。


「……リザ……リー……」


そこにいたのは、仲間ではなく

――魔王軍幹部の顔をしたリザリーだった。


「嘘だ……嘘だろ、リザリー!!」


「おい、邪魔をするな」

魔王と呼ばれた男が舌打ちする。


「この男は、俺が斬る」

刀の切っ先が、俺を捉える。


「魔王様、お戯れを」

リザリーは冷静に、淡々と告げた。


「間もなくこの男の仲間が来ます。

 万一、エアリー王女に傷でも負わせれば……

 ライザルド公がお冠になりますよ」


「……ちっ」

魔王は忌々しげに舌を鳴らす。


「煩わしい盟約だ。あのボンボンめ……」

そう言い残し、

魔王と呼ばれた男は闇夜へと溶けた。


――ライザルド公。

――盟約。

まさか……

魔王軍と、ライザルド公国が手を組んでいる……?


「待て!!」

追おうとした俺の前に、リザリーが立ちはだかる。


「冗談だと言ってくれ、リザリー」


「私を仲間に引き入れた時点で」

彼女の口から、氷のような声が零れ落ちる。

「こうなることは、分かっていたはずだ」


リザリーは、手を前に構えた。


「……お前には、俺は倒せねえ」

それはラッキースケベへの過信じゃない。

――信じたいからこそ、出た言葉だった。


「そうね」 リザリーは静かに頷く。

「妾では……リョウカは倒せぬ」


――《大突風ワイルドブレス》。

暴風が夜を裂き、クリステラ全体を揺るがす。


――くそっ、前が……!


視界が晴れた時には――

リザリーも、エアリー王女も、魔王も、

すべてが消えていた。


「リョウカ!! 何があった!」


「リョウカくん、大丈夫!?」


アグリアス、デュナン、次々と仲間が駆けつける。


――喉が、張り付く。

「……エアリー王女が……攫われた……」



ガンッ!!

レオンハート邸の客間で、アグリアスが水晶の壁を殴りつけた。


「魔王が王女様を攫い!

 リザリーが裏切り!

 ライザルド公が魔王と手を組んでいるだと!?

 冗談も大概にしろ!!」


――冗談なら、どれだけよかったか。

最悪のハッピーセットだ。


頭を冷やそうと、

どうでもいい言葉が浮かぶ。


……ダメだ。心が、追いつかない。


「まあまあ、アグリアス。落ち着きなさい」

ミザリアが場をなだめる。


「これが、落ち着いていられるか!」

アグリアスは剣を掴む。

「今すぐ王都へ向かう!」


「お姉様、待ってください!」

カサンドラが両手を広げ、行く手を塞ぐ。


「どけ、カサンドラ」


「アグリアスさん、今は――」

デュナンも割って入る。


「足踏みしている時間はない!

 私一人でも行く!!」


「――お待ち下さい!!」

ネコショウの叫びが、部屋を裂いた。

頬を、涙が伝っている。


「頭を冷やしてください、アグリアスさん!

一人では無理です。相手には魔王軍がついているんですよ!!」


初めてだ。ネコショウが、みんなの前で感情を露わにしたのは。


リザリーのことで一番辛いのは彼女のはずなのに。


「ライザルド公はエアリー王女を政治的に利用するつもりだ」

デュナンが静かに続ける。

「処刑や無碍な扱いはされないよ」


「そうよ」

ミザリアも頷く。

「準備を整えて……みんなで助けに行きましょう」


「……お姉様……」

カサンドラが、涙目で見上げる。


「……済まなかった」

アグリアスは深く息を吐いた。

「少し、頭を冷やしてくる」


「大丈夫よ、カサンドラ」

優しく言って、微笑む。

「一人で先走ったりしない」


張り詰めていたカサンドラの手から、力が抜けた。


アグリアスは、そのまま外へ出ていった。


戦いは、まだ始まっていない。

だが――もう、戻れないところまで来ている。

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