無双?
「くっくっくっ……矮小な人間が」
巨大な黒猫の頭上で、魔族の女が嗤う。
三本の尻尾がしなる。
空気が裂けた――次の瞬間には、俺の頭上へ叩きつけられていた。
「うおっ!!」 反射で手を前に出す。
……尻尾に当たった。
普通なら両腕が粉砕される威力のはずだが――なぜか無傷。
衝撃は確かにあった。
なのに、痛みだけが抜け落ちている。
今の一撃で、生きているのが異常だと分かった。
ラッキースケベって……ダメージ軽減効果もあるのか?
……いや、そんな説明は受けてない。
「フニぁあん」
――……は?
突然、巨大な黒猫が文字通り猫撫声をあげた。
空気が、一気に変わった。
「なんじゃネコショウよ!? どうしたのだ!」
次の瞬間――黒猫が光に包まれ、縮んでいく。
現れたのは、尾が三本の愛らしい子猫。
「フニぁ~ん」
そして何故か俺に頬ずりを始めた。
誰も状況を理解できていない。俺を含めて。
「貴様……ネコショウに何をした!」
「いや、俺も状況がまったく……」
「いったい何がどうなってるの…」
「わかりませんわ」
「同感だ」
カサンドラもアグリアスも呆然としている。
魔族の女が子猫の前で屈む。
「にゃにゃにゃにゃににゃな」
「フニぁ~ん。にゃお~ん」
なんか……猫語で会話始まった。
話が、完全に別次元へ滑っている。
これってどういう状況?
「貴様ぁーーっ!!」
いきなり魔族の女が真っ赤になって怒鳴った。
どうやら、理解したのは彼女だけらしい。
――そして、その内容は口に出せない類のものだ。
「ちょっと落ち着けって。何がどう――」
俺の言葉に魔族の女は頬を赤らめる。
「そ、そんな事言えるわけないだろうが!
ネコショウにあんな事をしておいて…はっ、ハレンチな!」
「ちょっと待ってくれ、俺が何をしたっていうんだ。ちゃんと説明してくれ」
「きっ、貴様、まさか女である私にそんな事を言わせて、愉しもうというのか?
お前は何という変態なのだ」
後ろから冷たい刺すような視線。
そっと振り返ると――
「キモ」
「……ほんとですわね」
アグリアスとカサンドラの視線がゴミムシを見るそれだった。
完全に、立場が逆転していた。
「おい! せっかく助けに入ったのにあんまりだろ!」
「許さん!」 魔族の全身からドス黒いオーラが噴き出す。
交渉の余地は消えた。
「死ねぇっ!」
魔族の女の腕が槍のように伸び、俺の顔面へ突き刺さり――
……口の中に入った。
「もがっ!? もがががが!?」
しょっぱい。
「ぎゃああああああっ!?
貴様、私の腕を舐め回してっ……うう、き、気持ち悪い……」
「これって、おれのせいなのか……」
「ならば遠距離魔法で処すのみ!
獄炎球!」
巨大な火球が生成される。
本気で殺しに来ている。
「うわっ、避け――」
爆炎が俺に直撃――した、と思った瞬間。
……火球が消えた。
「……あれ?」
攻撃が成立していない。
「ま、まさか……魔法を……果てさせるなんて……変態……」
「いやだから意味が分からん!!
魔法が果てるって何だよ!」
「この屈辱、必ず晴らす! 覚悟しておけ!」
魔族の女は涙目で叫び、煙のように消えた。
敵は撤退したが、理由は分からないままだ。
「…………ふぅ。とりあえず、生きてるな」
勝ったというより、やり過ごしただけだった。
この力が制御できない以上、次はどうなるか分からない。
「フニぁ~ん」
子猫は俺の足にすり寄ってくる。
振り返る。
アグリアスもカサンドラも若干ドン引きした顔。
「……あ、ありがとう」
「助かりましたわ、あっ!」
次の瞬間、カサンドラが俺に飛びついた。
いや、正確には倒れ込んできた。
「ぶっ……!?」
ビキニアーマーの胸部の突起が俺の胸に刺さる。
痛い。普通に痛い。
状況は収束したが、根本的な問題は何も解決していない。
……けど、とりあえず一件落着だ。
――今日のところは。




