目的?
――翌日、ようやく砂漠のオアシスを囲む町が見えてきた。
砂を塗り固めたような簡素な建物が並び、照り返す陽光が容赦なく体力を削ってくる。
息を吸うたび、喉の奥が焼けるようだった。
「あぁ~アツい……暑すぎる!」
アグリアスの鎧の隙間から、滝のように汗が滴り落ちている。
「そんなに暑いなら鎧を脱げばいいのに……」
「この鎧は騎士の証なのだ!
そうやすやすと脱ぎ捨てる訳にはいかぬ!」
――ん?
ふと気づくと、デュナンとリザリーは汗一つかいていない。
「お前ら……なんかやってるだろ?」
二人を睨みつける。
「何かとはなんだ、人聞きの悪い。
妾は魔族だ。もともと熱には耐性がある」
「僕は真空で熱を遮断しているだけだよ。
長時間は無理だけどね」
「なんだそれ……ずるい……俺にもやってくれ!」
「なっ! リョウカ抜け駆けはよくないぞ!」
アグリアスと並んでデュナンに詰め寄る。
「ふ、二人ともすまない。
他人に使えるほど、マナの操作に慣れていないんだ」
肩を落とした、その時だった。
「お・ね・え・さ・ま〜!」
弾む声とともに、カサンドラが目を潤ませてアグリアスに飛びつく。
「おお、カサンドラ! 他の者は?」
「はい、他のみんなも無事です。
宿屋に泊まってますので、ご案内しますわ」
別れてから、さほど時間は経っていないはずなのに。ひどく懐かしく感じた。
カサンドラの案内で、オアシスに隣接した宿屋へ向かう。
客室に足を踏み入れた瞬間。
「リョウカさん!」
エアリー王女が駆け寄り――
飛びつこうとした、その動きをアグリアスが制した。
エアリー王女は、一瞬だけ唇を噛みしめた。
「エアリー王女。申し訳ありませんが、
リョウカは今、疲れていますので……」
「む……」
一瞬だけ、エアリー王女とアグリアスの視線がぶつかる。
……なんだ、この微妙な空気は。
「リョウカ様――」
今度はネコショウが、目に涙を浮かべてこちらに歩み寄ってくる。
「お前がいて、助かったよ」
黒髪をそっと撫でると、ネコショウは嬉しそうに目を細めた。
すると、なぜかミザリアも無言で近づいてきて、頭を差し出す。
「な、なんだよ……」
「あら? 私にはご褒美は無いのかしら?」
「まったく、相変わらずマイペースな奴だ」
仕方なくミザリアの頭も撫でてやる。
――……ん?
視線を感じて顔を上げると、アグリアスとエアリー王女がこちらを睨んでいた。
「ふふ、しばらく会わないうちに、面白い関係になったものよ」
リザリーが含みのある笑みを浮かべる。
「コホン……これからどうするかも含めて、話し合いましょうか」
カサンドラが咳払いをし、場を整えた。
✡
俺たちは、それぞれの情報を共有した。
「まさか、騎士団長がライザルド公についたなんて……」
カサンドラは青ざめている。
「合流するまでの間に、簡単な依頼をこなして、軽く資金調達はしていたわ」
ミザリアの報告に、エアリー王女がぴょんっと立ち上がる。
「私もお皿洗いのお手伝いをしたんですよ!」
「そうか……えらいな」
高貴な頭を撫でる。
――てか、なんだこの流れ。流行ってんのか?
「資金も足りない、兵力も不足している。
これからどうするんだい?
…というか、僕らの目的ってなんだい?」
デュナンが核心を突く。
生きるために逃げ続ける?
王都を奪還する?
それとも――魔王を倒す?
考えが頭を巡る。
「皆の目的は、そもそもなんだ?」
アグリアスがさらに問いかけた。
「僕はリョウカくんと一緒にいたい。
ただ、それだけだ」
「――私もです」
デュナンとネコショウが、迷いなく言い切る。
……なんだか、むず痒い。
「私はリョウカさんっていうか、行き場が無いから、ここにいるだけよ」
ミザリアは軽く肩をすくめる。
「私はエアリー王女を掲げ、王都を奪還したい!」
「わたくしも同じですわ」
アグリアスとカサンドラの声が重なる。
故郷を奪われた者の覚悟だ。
「私は……政には、もう巻き込まれたくないです……」
エアリー王女が、恐る恐る口を開く。
その言葉を聞いた瞬間、
アグリアスは強く歯を噛みしめた。
「――くっ!
貴方は……貴方は、勝手だ!」
机を叩く音が、部屋に響く。
「ひっ……」
エアリー王女が肩を震わせる。
「……すまない。
――少し、頭を冷やしてくる」
そう言い残し、アグリアスは部屋を出て行った。
扉の閉まる音が、やけに大きく響いた。
誰も、すぐには口を開けなかった。
アグリアスにも、思うところがあったのだろう。
だが、エアリー王女を責める気にはなれない。
彼女もまた、政略に振り回され続けた被害者だ。
「どのみち、ここにいてもすぐ追っては来る。
一晩休んで、明日ここを発つぞ」
重苦しい空気のまま、話し合いの場は解散となった。
「リョウカ……そういえば、お前はどうするんだ?」
その場に残った俺に、リザリーが静かに問いかける。
「俺か?
――一応、魔王を倒すこと、かな」
最近はラッキースケベの勃発も減ってきたし、
困っているわけじゃない。
強いて言えば、それくらいしか目標が無い。
女神様の話じゃ、魔王からの解放は転生者の役割でもあるらしいからな。
「――っ」
一瞬、リザリーの表情が揺れた。
……そうだ。こいつは魔王軍の幹部だった。
「悪い。今のは忘れてくれ。
それより、リザリーはどうする?
やっぱりネコショウについていくのか?」
「妾は……」
リザリーは言葉を止め、視線を逸らす。
その先には、月明かりを映すオアシスの水面があった。
沈黙は短かったが、
そこには迷いよりも、どこか決意に近い重さが滲んでいた。
肌寒い夜風が、砂漠の町を吹き抜ける。
俺たちの状況とは裏腹に、オアシスの夜は静寂に包まれていた。




