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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
三章 逃亡編

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目的?

――翌日、ようやく砂漠のオアシスを囲む町が見えてきた。


砂を塗り固めたような簡素な建物が並び、照り返す陽光が容赦なく体力を削ってくる。

息を吸うたび、喉の奥が焼けるようだった。


「あぁ~アツい……暑すぎる!」

アグリアスの鎧の隙間から、滝のように汗が滴り落ちている。


「そんなに暑いなら鎧を脱げばいいのに……」


「この鎧は騎士の証なのだ!

そうやすやすと脱ぎ捨てる訳にはいかぬ!」


――ん?

ふと気づくと、デュナンとリザリーは汗一つかいていない。


「お前ら……なんかやってるだろ?」

二人を睨みつける。


「何かとはなんだ、人聞きの悪い。

妾は魔族だ。もともと熱には耐性がある」


「僕は真空で熱を遮断しているだけだよ。

 長時間は無理だけどね」


「なんだそれ……ずるい……俺にもやってくれ!」

「なっ! リョウカ抜け駆けはよくないぞ!」

アグリアスと並んでデュナンに詰め寄る。


「ふ、二人ともすまない。

他人に使えるほど、マナの操作に慣れていないんだ」

肩を落とした、その時だった。


「お・ね・え・さ・ま〜!」

弾む声とともに、カサンドラが目を潤ませてアグリアスに飛びつく。


「おお、カサンドラ! 他の者は?」


「はい、他のみんなも無事です。

宿屋に泊まってますので、ご案内しますわ」

別れてから、さほど時間は経っていないはずなのに。ひどく懐かしく感じた。


カサンドラの案内で、オアシスに隣接した宿屋へ向かう。


客室に足を踏み入れた瞬間。


「リョウカさん!」

エアリー王女が駆け寄り――

飛びつこうとした、その動きをアグリアスが制した。

エアリー王女は、一瞬だけ唇を噛みしめた。


「エアリー王女。申し訳ありませんが、

リョウカは今、疲れていますので……」


「む……」

一瞬だけ、エアリー王女とアグリアスの視線がぶつかる。


……なんだ、この微妙な空気は。


「リョウカ様――」

今度はネコショウが、目に涙を浮かべてこちらに歩み寄ってくる。


「お前がいて、助かったよ」

黒髪をそっと撫でると、ネコショウは嬉しそうに目を細めた。


すると、なぜかミザリアも無言で近づいてきて、頭を差し出す。

「な、なんだよ……」


「あら? 私にはご褒美は無いのかしら?」


「まったく、相変わらずマイペースな奴だ」

仕方なくミザリアの頭も撫でてやる。


――……ん?

視線を感じて顔を上げると、アグリアスとエアリー王女がこちらを睨んでいた。


「ふふ、しばらく会わないうちに、面白い関係になったものよ」

リザリーが含みのある笑みを浮かべる。


「コホン……これからどうするかも含めて、話し合いましょうか」

カサンドラが咳払いをし、場を整えた。



俺たちは、それぞれの情報を共有した。


「まさか、騎士団長がライザルド公についたなんて……」

カサンドラは青ざめている。


「合流するまでの間に、簡単な依頼をこなして、軽く資金調達はしていたわ」

ミザリアの報告に、エアリー王女がぴょんっと立ち上がる。


「私もお皿洗いのお手伝いをしたんですよ!」


「そうか……えらいな」

高貴な頭を撫でる。

――てか、なんだこの流れ。流行ってんのか?


「資金も足りない、兵力も不足している。

これからどうするんだい?

…というか、僕らの目的ってなんだい?」

デュナンが核心を突く。


生きるために逃げ続ける?

王都を奪還する?

それとも――魔王を倒す?

考えが頭を巡る。


「皆の目的は、そもそもなんだ?」

アグリアスがさらに問いかけた。


「僕はリョウカくんと一緒にいたい。

ただ、それだけだ」

「――私もです」

デュナンとネコショウが、迷いなく言い切る。

……なんだか、むず痒い。


「私はリョウカさんっていうか、行き場が無いから、ここにいるだけよ」

ミザリアは軽く肩をすくめる。


「私はエアリー王女を掲げ、王都を奪還したい!」

「わたくしも同じですわ」

アグリアスとカサンドラの声が重なる。

故郷を奪われた者の覚悟だ。


「私は……まつりごとには、もう巻き込まれたくないです……」

エアリー王女が、恐る恐る口を開く。


その言葉を聞いた瞬間、

アグリアスは強く歯を噛みしめた。

「――くっ!

貴方は……貴方は、勝手だ!」

机を叩く音が、部屋に響く。


「ひっ……」

エアリー王女が肩を震わせる。


「……すまない。

――少し、頭を冷やしてくる」

そう言い残し、アグリアスは部屋を出て行った。


扉の閉まる音が、やけに大きく響いた。

誰も、すぐには口を開けなかった。


アグリアスにも、思うところがあったのだろう。

だが、エアリー王女を責める気にはなれない。


彼女もまた、政略に振り回され続けた被害者だ。


「どのみち、ここにいてもすぐ追っては来る。

一晩休んで、明日ここを発つぞ」

重苦しい空気のまま、話し合いの場は解散となった。


「リョウカ……そういえば、お前はどうするんだ?」

その場に残った俺に、リザリーが静かに問いかける。


「俺か?

――一応、魔王を倒すこと、かな」

最近はラッキースケベの勃発も減ってきたし、

困っているわけじゃない。


強いて言えば、それくらいしか目標が無い。

女神様の話じゃ、魔王からの解放は転生者の役割でもあるらしいからな。


「――っ」

一瞬、リザリーの表情が揺れた。

……そうだ。こいつは魔王軍の幹部だった。


「悪い。今のは忘れてくれ。

それより、リザリーはどうする?

やっぱりネコショウについていくのか?」


「妾は……」

リザリーは言葉を止め、視線を逸らす。

その先には、月明かりを映すオアシスの水面があった。


沈黙は短かったが、

そこには迷いよりも、どこか決意に近い重さが滲んでいた。


肌寒い夜風が、砂漠の町を吹き抜ける。

俺たちの状況とは裏腹に、オアシスの夜は静寂に包まれていた。

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