西の砂原?
俺たちは西へと飛び、草木がまばらに点在する砂原へとたどり着いた。
「リョウカくん。もう大丈夫だよ」
緑の髪を揺らしながら、デュナンが爽やかな笑顔を向けてくる。
しかも――お姫様抱っこされながらだ。
「やだやだ!
俺はリザリーに抱えられたかった!」
「なんだ? ガルザス剣山ではあれほど嫌がっていたではないか」
リザリーの一言に、アグリアスがわかりやすく反応する。
「なにっ!? 貴様ら、あの雪山で何をしていたんだ!」
緊張の糸が解けたからなのか、俺たちはいつも通りに戻っていた。
やがて日は暮れ、砂地が茜色に染まる。
荒れた大地にぽつりと立つ大樹の下へ腰を下ろした。
「ネコショウたちは、もう少し先の町で待機している。今夜はここで野宿し、明日合流しよう」
「なんだ、リザリーってそんなことまで分かるのか?」
「ああ。ネコショウは妾の眷属だからな」
「へぇ~、それは便利だな……」
その時、腹の虫が盛大に鳴いた。
「それにしても腹が減った……」
俺はそのまま地べたに寝転がる。
「食料は全部ミザリアたちが持っているからね……仕方ないよ」
そう言いながら、デュナンは大樹の笹のような葉を折り、器用に即席のコップを作る。
さらに木になっていた実を割り、果肉と果汁を絞り出した。
「今日はこれが晩ごはんだね」
四人分作り、それぞれに手渡される。
とりあえず口に含みつつ、俺たちは焚き火を囲んだ。
「アーサー騎士団長……噂に違わない化け物だったね。僕とリザリーの魔法でも倒せないなんて……」
――あの剣を、もう一度正面から受けたいとは思わない。
だが……次に会う時も、逃げ切れる保証はない。
「アーサー騎士団長は人類最強と名高い男だからな」
アグリアスは、どこか複雑そうな表情を浮かべる。
……一つ引っかかる。
魔王軍の幹部は千年もの間、誰一人倒されていない。
アーサーほどの実力があれば、何人かは普通に倒せそうな気もするのだが――。
「あっ、そういえばデュナン。
前に“詠唱は破棄するのが普通”とか言ってなかったか?」
「ああ。実は詠唱にはメリットもあるんだよ。
詠唱すると、魔法本来の威力を完全に引き出せるんだ」
「僕とリザリーは特殊だから、詠唱してもしなくても威力は変わらないけどね」
その言葉に、アグリアスが興味を示す。
「私も気になっていたんだ。
特にデュナンは、剣士でありながら魔法を剣技に組み込む稀有な例だ」
「……ん?
アグリアスは違うのか?
ほら、あの“聖剣なんたらー!”ってキメ顔で叫んでるやつ」
「き、貴様! 私を愚弄するか!」
頬を赤らめ、アグリアスが俺の肩をポカポカ殴ってくる。
最近、こいつの反応を見るのがやたら楽しい。
「わ、私の技は、このクラリウスがなければ使えんのだ!」
「魔装具ね……」
リザリーは飲み物を口に含みながら、金色に輝く聖剣を見つめる。
「……話を戻そう。
僕とリザリーで揃って詠唱したのは、互いのマナを同調させるためだよ」
「同調?」
「ええ。本来、二人で魔法を放つと異なるマナが反発し、威力が落ちるの」
リザリーが長い爪を研ぎながら補足する。
「……魔法って面倒くさいな」
…ん? アグリアスの体が大きく揺れている。
「う~、ひっく……
それより私は、お前の使っている変な加護の方が気になるぞ!」
突然、アグリアスが詰め寄ってきた。
なんだこのテンション……。
「あ、そういえば。このココナルの実、少量だけどアルコールが入ってるんだった」
「えっ? 俺は全然気づかなかったけど……」
葉の器に注がれた飲み物を嗅いでみる。
「彼女、お酒に弱いみたいね」
リザリーが小悪魔的な笑みを浮かべる。
「う~、ひっく!
それにだな、お前は突然、私の前に現れて――」
「それ、いつの話だよ……」
完全にベロベロだった。
「アグリアスは意外と情熱的よね。
あの騎士団長を前に、リョウカに告白するなんて……」
「……ああ、そんな展開ありましたね。
すっかり忘れてました」
次の瞬間、アグリアスが発狂する。
「むっぎゃあぁぁぁ!
わ、私はそういう意味では言っていないのだぞ!」
「あら。“最愛”なんて言葉、愛以外にどういう意味があるのかしら?」
完全に遊ばれている。
「や、やめろ!
リョウカ……そ、それは仲間として、友としての最愛だ!」
その反応が面白くて、俺も乗っかる。
「俺はアグリアスのこと、愛してるのに……」
わざと悲しげに目を伏せる。
「えっ……」
一瞬、空気が凍る。
アグリアスは恋する乙女みたいな顔で固まっていた。
……あれ、なんだその反応、思ってたのと違う…それにアグリアスって意外と…。
「リョウカくん……僕、なんだかアツいよ……」
デュナンが謎の対抗心を見せ、俺の胸に顔を埋める。
「お前はシラフだろ! 離れろ!」
「わ、私もアツいのらー!!」
アグリアスまで突っ込んでくる。
「ばかっ、やめろー!」
しばらくして、焚き火の爆ぜる音だけが砂原に残った。夜風が吹き抜け、揺れる炎が俺たちの影を静かに伸ばしていく。
空を見上げれば、雲一つない夜空に星が瞬いていた。
そんな俺たちを酒の肴に、焚き火のそばでリザリーは静かに微笑んでいた。




