騎士団長?
「―何だか、私だけ蚊帳の外みたいだな。これは話し合いではなく……戦争、なのだろう?」
リザリーはそう呟くと、両手を高らかに掲げ、天高く舞い上がる。
「災害乱流」
雷を纏った無数の竜巻が天から降り注ぎ、瞬く間に兵士たちの包囲網を蹴散らした。
「ふっ……魔王軍七幹部は伊達じゃないな」
仲間が吹き飛ばされているというのに、アーサー騎士団長は感嘆の声すら漏らす。
「――ぜいっ!!」
大剣を一振り。
……これは、剣圧!?
周囲を荒れ狂っていた竜巻が、嘘のように掻き消えた。
「今の一振りで、近くにいた僕らが無傷なのが……末恐ろしいね」
デュナンは冷や汗を浮かべる。
そういうことか……。
今の剣閃は、目の前の俺たちじゃない。
狙いは、竜巻そのものだった。
「気をつけろ。アーサーは魔法を使わない」
アグリアスは歯を食いしばり、クラリウスを強く握る。
「剣一本で、ここまで上り詰めた男だ」
突如、アーサー騎士団長が予想外の行動に出た。
「皆の衆、退却だ! 王都まで引き返せ!」
命令を受け、兵士たちは一斉に踵を返し、王都へと駆け出していく。
「なんだ……退却? ここで逃げるのか?」
「いやなに。他の雑兵では相手にならないと思ってね」
アーサーは肩をすくめる。
「ここで無駄に兵を失うわけにはいかない。
退却命令は出したが……代わりに、私が残ろう」
そう言って、アーサーは大剣を構えた。
――たぶん、こいつとまともに対峙できるのは俺だけだ。剣だけで言えば、デュナンやアグリアスより数段上!
「デュナン、アグリアス、リザリー!
俺が隙を作る、追撃頼む!」
大地を踏みしめ、俺はアーサー――いや、アーサー本人へ突っ込んだ。
「ほう? 単身で突撃か。
動きはまるで素人……だが、無謀な手を打つほど
馬鹿にも見えん……」
アーサーは大剣を、俺の頭上から振り下ろす。
――だが。
斬撃は俺の体をかすめるように通り過ぎ、虚しく空を切った。
「馬鹿な!!」
動揺を隠せないアーサーの頬へ、拳を叩き込む。
「痛ッてー!?」
悲鳴を上げたのは――俺の拳だった。
頬骨に直撃し、拳が悲鳴を上げる。
……だが、いい。
役目は果たした。
「――“覇光斬・聖剣墓標群”」
輝く十字の墓標が次々と現れ、狼狽するアーサーの鎧を貫き、拘束する。
「……く、動けぬ…」
直後――静寂が包んだ。
誰の呼吸音すら、聞こえない。
――なんだ?
――風が、止んだ?
「天帝、大気嵩張り支配せよ!」
デュナンが、丁寧に詠唱を始める。
「雷帝、空を満たし闊歩せよ!」
重ねるように、リザリーが詠唱を紡ぐ。
「まさか……二重奏…!」
墓標に囚われたアーサーから、驚愕の声が漏れた。
「祖は威光、祖は天啓、祖は絶望……」
デュナンの言葉を、リザリーが引き継ぐ。
「祖は失墜、祖は迷妄、祖は希望……」
「「雷天混ざりて、圧殺せよ!!」」
「「五芒の彼岸!!」」
空に五芒の雷鳴が走る。
――次の瞬間、空が堕ちてきた。
「うわっ!?」
膨大な空気圧が大地へ叩きつけられ、五芒の烙印を刻む。
広範囲にわたり、地盤そのものが押し潰されていた。
「まったく……何が何だか……」
「リョウカくん! 今のうちに逃げるよ!」
デュナンは俺を抱きかかえ、空へ飛び上がる。
アグリアスは、リザリーに抱えられ同じく上昇した。
「おい……今ので、さすがに死んだんじゃ……」
――直後。
背後から、濃密な殺気。
潰れた大地の中央から、上裸のアーサーが立ち上がった。
さして、致命的なダメージを受けた様子はない。
遠目にも分かる。
肩口から腹部にかけて、古い切り傷が刻まれている。
「ふふふ……つくづく、面白い連中だ……」
俺たちが遠ざかる中、アーサーは大剣を構え、天へ振り上げた。
無数の剣閃が天を穿ち、遥か上空へ放たれる。
大気圏を突破した剣閃は折り返し、流星となって降り注ぐ。
「――大気剣・流閃群」
「おい! まだ終わってないぞ!」
アグリアスが叫び、リザリーですら息を呑む。
「……なんだ、あれは……」
炎を纏った無数の剣閃が降り注ぎ、
大地は剥がれ、熱で歪む。
俺たちは必死に躱しながら、西へと逃走した。
「くっ……」
――あれが、騎士団長の力。




