告白?
夕刻、ネコショウが息を切らして屋敷へ戻ってきた。
皆、言わずもがな談話室で待機している。
「はぁ……はぁ……みなさん………大変です」
「落ち着いて」
リザリーが歩み寄り、ネコショウの背中に手を添える。
「まずは呼吸を整えなさい」
「……はい」
深く息を吸い、吐き。 ネコショウは顔を上げた。
「王都で、ライザルド公が直接、騎士団に指示を出している場に出くわしました。
騎士団と兵士が、総出でエアリー王女を探しています」
談話室の空気が、一段冷える。
「理由は……」
ネコショウは一瞬、言いよどんだ。
「王女を迎え入れれば、民草の信頼を得やすい、と」
「……そんな」
エアリー王女が口元を押さえ、言葉を失う。
「胸糞悪い話だ」
アグリアスが机を叩いた。
「最初から、王女を“道具”としか見ていなかったというわけか……」
「ですが」
カサンドラが不安げに続ける。
「騎士団は本来、副団長以上の命がなければ動きません。お姉様がここにいらっしゃるのに…
…どういうことでしょうか」
「……騎士団も、ライザルド公の手に堕ちたと思った方がいい」
デュナンが静かに言った。
「そんな……」
アグリアスの声が震える。
「東の国境には、騎士団長殿が……!」
「――静かに」
ミザリアが一歩前に出る。
「考える時間は、もう残ってないみたいよ」
「……その通りだ」
リザリーが低く言った。
――直後。
ドンッ!!
凄まじい爆音が屋敷を揺らした。
窓ガラスが砕け、熱風が吹き込む。
「来たか――!」
「ネコショウ!」
「はい!」
ネコショウの身体が瞬時に膨れ上がる。
巨大な化け猫となった彼女は、燃え広がろうとする炎へ体当たりし、壁ごと叩き潰した。
「エアリー王女とカサンドラを先に!」
アグリアスが即座に指示を飛ばす。
ネコショウは三叉の尻尾で二人を器用に背に乗せた。
「お姉様! 私も残ります!」
カサンドラが必死に手を伸ばす。
「行け」 アグリアスは振り返らない。
「……足手まといだ」
一番、効く言葉だ。
カサンドラはその言葉で涙目で手を引っ込める。
「リョウカさん……私、待ってますから」
エアリー王女がこちらを見る。
それ、フラグだからやめて。
俺は後ろ手に軽く手を振った。
「私も行くわ!」
ミザリアが身支度した荷物を放り投げる。
「ネコショウちゃん、お願い!」
「うにゃっ!」
巨体が跳ね、ネコショウは西側へと突っ込んだ。
屋敷の外、夕焼けに照らされた赤黒い甲冑が、完全に包囲している。
「……ライザルド公国の兵」
アグリアスが歯を噛みしめる。
「うにぁああん!」
ネコショウの巨大な前脚が振るわれ、西側に突破口が開いた。
「行け!!」
――そして。
一人だけ、兜を被っていない男が前へ出た。
肩まで伸びる銀髪。鋭い眼光。
額の古傷と、鎧の上からでも分かる鍛え抜かれた体躯。
「……アーサー、騎士団長」
「よもや、魔王軍と手を組んでいたとはな」
男は冷ややかに言った。
「……堕ちたものだ、アグリアス」
「なぜです……なぜ裏切ったのですか!?」
アグリアスの声が裂ける。
「魔王に与する君に、言われたくはないな」
――その瞬間。
アグリアスの手が震えた。
クラリウスの穂先が、定まらない。
迷っている。
剣ではない。
彼女自身が。
俺は一歩、前に出た。
「魔王軍の幹部を引き入れたのは俺だ。
アグリアスは、一度も正義を曲げちゃいねえ」
「ほう」
騎士団長の視線が、俺に向く。
「原因は君か」
――直後。
大剣が、叩きつけられる。
「――デュナン!」
デュナンが俺の前に立ち、剣でアーサーの一撃を受け止めた。
「もう二度と、リョウカくんを傷つけさせないと誓ったんだ!」
剣戟が火花を散らす。
「双方やめてくれ!!」
アグリアスの叫びが戦場を裂いた。
「我々の望みはただ一つ」
騎士団長が言い放つ。
「エアリー王女の身柄だ。
……それと、その小僧の首も追加しよう」
大剣の切っ先が、俺を指した。
「嫌だ……」
その時。
アグリアスが、震えるまま、一歩踏み出した。
「リョウカは……」 声が掠れる。
「リョウカは――」握り締めた拳が、白くなる。
「私の最愛の人なんだ!!」
――沈黙。
風の音すら、止まった。
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
デュナンが、静かに俺の隣へ立つ。
「……なら」 彼は剣を構える。
「僕の愛だって、誰にも負けない」
騎士団長の口元が、緩んだ。
「なるほど……」
視線が、完全に俺に定まる。
「つくづく、人誑しな男だ」
――戦場の空気が、変わった。




