訃報?
「リョウカさん……!!」
翌朝、全身に衝撃が走り、俺は目を覚ました。
胸元に柔らかな重み。
金色の髪が散らばり、甘い香りが鼻をくすぐる。
「……エアリー、王女?」
「リョウカさん……リョウカさん……っ、くず……」
彼女は俺の胸に顔を埋めたまま、嗚咽を漏らしている。言葉になっていない。
「大丈夫だ。落ち着いて……何があった?」
背中に手を回し、言葉を待った。
しばらくして、エアリーは震える声で口を開いた。
「御父様が……」
「お父様……ロメオス王?」
「……亡くなりました」
「え……?」
一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
あの、歩くワイルドみたいな男が?
だが、悪い知らせはそれだけではなかった。
「ライザルド公国の……バルメトロ・ライザルド公が……瞬く間に、王都を占領したのです……」
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アグリアスの呼びかけで、俺たちは談話室に集まった。
「早朝、ネコショウには既に猫の姿で王都を偵察させている。夕方には戻るはずだ」
「雲行きが、かなり怪しくなったわね……」 ミザリアが腕を組む。
「エアリー王女の扱いは、どうなる?」 リザリーが核心を突く。
「誘拐という話が、ライザルド公にどう解釈されているか次第ですが……」
カサンドラも険しい表情で考え込んでいる。
「準備しておこう」
デュナンが静かに言った。
「魔王軍幹部と王女が一緒にいる時点で、
見つかれば反逆罪は免れない。
遅かれ早かれ、ここは嗅ぎつけられる」
アグリアスもこれに頷く。
「……逃げるなら西か。
北は魔王の地だし、東はライザルド公国の国境。南も湿原を抜けた先は海に面している……」
……皆が動いているのに、
俺だけが置いていかれている気がした。
魔王を倒して、チートを消してもらう。
そう女神に誓ったはずなのに――
今の俺は、何もできていない。
「リョウカくん、少しいいかな」
俯いていると、デュナンに声をかけられた。
二人で外へ出る。
――次の瞬間、空気が変わった。
デュナンが、明確な殺気を放っている。
「お、おい……デュナン?」
「本気でいくよ」
彼は腰の直剣を抜いた。
「待てって! 確かに俺は不甲斐ないけど――」
言い終わる前に、視界が閃いた。
――剣が振り下ろされる。
くっ……!
剣閃が頬をかすめたが、痛みはない。
……いつも通りだ。
「やはり……」
「やはり、って……」
「キミのそれは、加護に近い」
「加護?」
「神の恩恵を受けた者の力だよ。
僕も、生まれつき風精霊の加護を持っている」
……女神様も神様だもんな。
そりゃ、そうか。
「だから僕の剣は、ただの安物だ」
デュナンは直剣を軽く振る。
「マナで刃を補っているだけだからね」
さらっと凄いことを言うな。
「マナって、そんな簡単に使えるのか?」
「簡単じゃない」 デュナンは即答した。
「本来は契約が必要だ。詠唱や術式……
あるいは、魔装具を介する」
「……でも、ミザリアとか詠唱してないよな?」
「最初はする」 それだけ言って、デュナンは言葉を切った。
「慣れれば、省ける。それだけ覚えておけばいい」
……なるほど。
細かい理屈を聞く暇はない、って顔だ。
「で、このタイミングで俺を呼び出した理由は?」
デュナンは小さく笑い、背中からもう一本剣を抜いた。
「今後に備えてこの剣を、誰に託すか悩んでいてね」
「……退魔の剣」
「そう、イエティから拝借しておいた。
これは万能だが、加護持ちが使うと相殺が起きる。
キミや僕が持てば、むしろ足手まといだ」
「……俺の加護が消える、か」
一瞬、ラッキースケベが消えるなら――
なんて考えが頭をよぎる。
「それに、持ち主の魔法も阻害する」
「なら……現実的なのは、ネコショウかカサンドラだな。回復の時だけ置けばいい」
「うん、ありがとう——参考になったよ」
デュナンは素直に頷いた。
俺たちは別れ、それぞれ身支度を始める。
……嵐は、もうすぐ来る。




