表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/133

黒猫?

二人の騎士の胸に顔を埋める。


……痛い。

鎧とビキニアーマーで、普通に痛い。

全然ラッキースケベでも、何でもなかった。


笑えるはずなのに、

胸の奥が冷えていく感じしかしなかった。


「きゃあああああ!」

「ぎゃあああああ!」

二人は叫び声を上げ続ける。


状況は最悪だったが、主導権は完全に向こうにあった。


その後、組んず解れつの二回戦に突入し、

よく分からないまま、俺は縄で拘束された。

……多少、事故もあった気はするが、覚えていたくなかった。


状況を整理する余裕はなかった。

反論も、弁明も、選択肢も――

気づけば全部、置き去りにされていた。


やがて、抵抗する間もなく、

俺は王城の謁見の間に連れてこられていた。


話は、俺の想像を超えた場所まで転がっていた。


白髪に髭面の大男。赤いマントに豪奢な服。

ちょっとサンタクロースにも見える。


「アグリアスとカサンドラだな。

して……これは何事かね?」

王様が、縛られた俺を見下ろす。


この場にいる全員が、俺を見ている。

――いや、正確には「見ていない」。

視界の端に引っかかった、

処理すべき異物を見る目だった。


左右でアグリアスとカサンドラが頭を下げる。


「はっ、市街で民に暴行を働いておりまして!」


王様は大きくため息をつく。

「そのような些末な問題は君たち騎士団で解決したまえ。今は近隣村まで迫っている魔王軍の対応で忙しいのだよ」


どうやら俺の問題は、国の事情の前では取るに足らないらしい。


「はっ、それでは牢獄へ──」

そう言ってカサンドラが俺を肩に担ぐ。

しかし──

「うわっ!」

カサンドラが手を滑らせ、俺の体は弧を描いて落下する。


……痛くない。むしろ柔らかい。

「きゃあああああ!」


気付けば俺は、

カサンドラの腰から伸びるスパッツとお尻の隙間に、逆さ吊りで頭を突っ込んでいた。


何がどうなってる? 

柔らかい。でも……息が……。


嬉しいとか以前に、

普通に呼吸が危うい。


俺はそのまま気を失った。



目を覚ますと、薄暗い牢獄の中だった。


鉄格子の前に、石のように硬いパンと

カビの生えたチーズが置かれている。


……メシだ!!

剣も、距離も、視線もない。

ここが安全圏だと、体が理解していた。


夢中で頬張る。


――こんな場所で安心している自分が、少しだけ怖かった。


「……ぐずっ、ぐずっ」

涙がぽろぽろ溢れてきた。


「こんなことなら……

誰にも触れられない力なんて、要らなかった……」


そう思わずにはいられなかった。

少なくとも、この夜までは。


こうして王都の夜は更けていく。



翌朝。

鉄格子の窓から差し込む光で目を覚ます。


「うーん! よく寝れた!」

野宿と空腹が日常だった俺にとって、

ベッドと屋根があるだけで天国だった。


皮肉にも、今までで一番まともな朝だった。


「ここでの生活も悪くないな……」


そう思いかけた瞬間──カンカンカンッ!!

けたたましい鐘の音が鳴り響く。


「魔王軍が城門まで迫ってるぞ!

騎士団もギルドも応戦中だ! お前も来い!」

見張りが呼ばれて走っていった。


嫌な予感しかしない。


何事かと鉄格子を掴んで覗き込む。

……あれ?


ぬるん。

俺は鉄格子の隙間をすり抜けていた。


「おい、嘘だろ!?

鉄格子にラッキースケベ判定ってなんだよ!」


もはや何に発動するのか、自分でも分からない。


訳もわからず脱獄し、城外へ出ると──

気づけば、王城の外門だった。

 

突如、兵士の波に飲まれた。

完全に流れに逆らえない。


「早く城門へ急げ!」  


「うおぉ!?」

兵士の鎧や筋肉に揉みくちゃにされながら

運ばれていく。


……こんな時まで発動しなくていいんだよラッキースケベ。むさ苦しいのは嬉しくない。


やがて兵士の足が止まる。

気付けば王都の外まで運ばれてしまったみたいだ。

そこには、巨大な黒猫がいた。


城門よりも大きい巨体。


戦う、という発想自体が間違いだと。

恐怖が、思考より先に答えを出していた。


三本の尻尾が空気を裂き、兵士たちを軽々と吹き飛ばす。すれ違うだけで地面が抉れ、黒い毛が雷のように静電気をまとっていた。


「フハハハ!

人間共よ、我が眷属ネコショウを前にひれ伏すがよい!」

魔物の背に立つ赤髪の魔族女が高笑いする。


事態は、完全に戦争の規模だった。


「行くぞクラリウス!」

聞き覚えのある声が響く。


「あれは……アグリアス!」

金髪が戦場に輝く。


アグリアスが黒猫へ跳び上がる。


「はあああああッ!!」

——覇光斬。

眩い光とともに彼女の剣が巨大化し、

斬撃が黒猫へ迫る。


だが──

黒猫の尾が三方向から鞭のように襲い、

光が砕け散り、アグリアスは地面に叩きつけられた。


「ぐっ……!」

 

切り札でも、通じない。


「姉様!!」

カサンドラが駆け寄る。


黒猫の巨体が影を落とし、二人へ迫る。


「ここまでか……

カサンドラ、お前は逃げろ……!」


「嫌です!

姉様と一緒に……!」

泣きながらアグリアスを抱きしめる姿に、

胸の奥がズキンと痛んだ。


理由は分からないが、目を逸らせなかった。


今まで俺をボコボコにしていた相手なのに。

それでも──放っておけるわけがなかった。


だって、女性は俺の憧れで……

どれだけ扱いが雑でも、冷たくされても、

目の前で傷つけられるなんて、絶対にイヤだった。


これは理屈じゃない。ただの性分だ。


気づけば、足が勝手に前へ出ていた。


「おいおい……俺、何やってんだよ……!」

アグリアスとカサンドラを庇うように、

俺は黒猫の前へ立ち塞がる。


三本の尻尾が唸り、ただの風圧で肌が裂ける。

普通なら震えて動けないはずだ。

喉が勝手に鳴って、息の仕方を忘れていた。


でも――

不思議と、足は一本の棒みたいに固まっていた。


逃げる選択肢は、もう消えていた。


「……来いよ、化け猫。

この呪い、使い切ってやる」

拳を握りしめる。


女神から与えられたチートが、

本当に役に立つかなんて知らない。


死ぬ確率の方が高い。

それでも、立ち止まるよりはマシだった。


巨大な黒猫と真正面から対峙した。

ここから先は、引き返せない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ