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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
二章 新居編

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風を凪ぐ?

降りしきる雪の中、イエティは俺を見下ろしていた。


くそっ……!

ここにきて、頼り切っていた力の正体が、

まるで分かっていなかったことを思い知らされる。


「不気味な奴だ……お前の雰囲気、魔王様に少し似ているな」


……ダメだ。

退魔の剣が肩を裂いた瞬間から、痛みすら感じない。

ただ、血だけが雪の上へと滴り落ちていく。


「……とどめだ」

退魔の剣が振り上げられる。


――いやだ、死にたくない。

雪を切り裂き、剣が振り下ろされる。


俺は目を瞑った。


「僕のリョウカくんに手を出さないでくれ!」


ガキンッ!?

爽やかな声とともに、振り下ろされた剣が弾き返される。


「デュナン!?」

その声を聞いた瞬間、胸の奥の張り詰めていたものが、少しだけ緩んだ。


「大丈夫? リョウカくん……って、すごい血だね。早くカサンドラさんに診てもらわなきゃ。

安心してくれ、すぐに終わらせるよ」


「そいつの……剣は、魔法を打ち消す……」

ダメだ、舌が回らない。

声を絞り出すので精一杯だった。


「デュナン……どこかで聞いた名だ」


「魔物風情が、僕の名前を呼ばないでくれ」


――風が止んだ。

次の瞬間、イエティの背後にデュナンがいた。


「くっ!!」

イエティが反応するが、間に合わない。


「ぐおおおぉぉ!」

毛むくじゃらの腕が宙を舞い、雪の中へと消える。


「なんだ。首をねるつもりだったんだけど、存外、強いじゃないか」

デュナンは余裕の立ち振る舞いだ。


「お前……俺様の腕を……よくも……」


さらに間合いを詰め、デュナンは鮮やかに追撃する。


イエティも必死に剣で応戦するが、その剣速は

デュナンの動きにまったく追いついていなかった。


「どれだけ剣が凄くても、使い手がこれじゃ宝の持ち腐れだよ」


やがてイエティの動きは鈍り、

最後にはダラリと膝をつく。


「鉄血のバルバトスを……倒した……

西の英雄、デュナン……

手合わせできて……良かった……」

 

その言葉を最後に、デュナンの剣が一閃した。


首が落ちる音は、雪に吸い込まれていく。


デュナンは俺を抱きかかえ、風を纏って宙に舞う――俺の意識は、そこで途切れた。



――っつ!?

刺すような右肩の痛みで、目覚めた。


見慣れた暖炉に火が灯されている。


ここは……屋敷の談話室か。


辺りを見渡すと、ソファに寝かされていた。

さすがに怪我人の俺を、地下室に寝かせるほど無慈悲ではなかったらしい。


隣を見ると、アグリアスが俺に寄りかかり、

強く手を握っていた。


「……あ……リョウカ……目覚めたのか」


「すまない、アグリアス。心配をかけたな」


「まったくだ……バカモノ……。

私がどれだけ、どれだけ心配したと思っている……」


次の瞬間、アグリアスは俺に抱きつき――

「うっ……うっ……うわぁぁぁあん!」


「ぐ、いだだだだ!

アグリアス、嬉しいけど、痛い! 痛いって!」


「これぐらい、私の心の傷に比べたら軽いものだ。

我慢しろ……!」


さらに力いっぱい抱きしめられる。


「まったく……今回は見逃してあげますわ」

気づくと、カサンドラが傍に立っていた。


「このままだと本気で痛いので、

むしろ見逃さないでください。

アグリアスを引き剥がしてください……」


「……リョウカは……私のことが嫌いなのか……」

アグリアスは、さらに涙ぐむ。


「いや、そういう意味じゃなくて……」


「そういえば前に、

リョウカがお姉様のがさつなところが苦手と言ってましたわね」

カサンドラは悪い笑みを浮かべ、わざと耳元で囁く。


「いや、待て……っつ!」

弁明しようとしたが、痛みで声が詰まる。


「……そんな……そんな……」

アグリアスは、そのまま泣きながら寝室へと走り去ってしまった。


「ふふふ。

貴方なんかに、お姉様は渡しませんわよ」


カサンドラさん……助かったけど、悪巧みが過ぎませんか。


「まったく、目覚めたそうそう元気ね」

二階から、ミザリアがピンク色のセクシーなパジャマ姿で降りてくる。


「リョウカが先走ったせいで、行方がわからず、

後を追えなかったのよ」


「いだだだだ……ミザリアさん、痛いです。

傷口をツンツンするのはやめてください!」


「本当ですわ。

デュナンはデュナンで、リョウカの名前を叫びながら勝手に飛び立って行きますし。

統率も指揮もあったものではありませんわ」


「すまない……。

……それより、エアリー王女は?」


「低体温症に陥っていましたが、何とか一命は取り留めましたわ」


「あなたの無謀な選択が、彼女を助けたのよ。

まあ、本来は全員揃って行くのが安牌だったでしょうけど……」


「うにゃあん!」

二階から、猫姿のネコショウが俺めがけてジャンプする。


――まずい。

次の瞬間、俺の直感が全力で警鐘を鳴らした。


ネコショウは、着地するまでの間に美少女へとメタモルフォーゼし――そのまま、俺の上に落下した。


走馬灯がよぎる。


ネコショウ、気持ちは嬉しい。

だが、できれば猫姿のままで飛び込んでほしかった。

さすがに、少女姿のお前を受け止められるほど、

俺の傷は軽くなかった。


「うぎゃゃゃゃゃゃあ!」

最後に聞こえたのは、

自分自身の断末魔だった。

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