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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
二章 新居編

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夜の来訪者?

月の無い夜――

地下の部屋に、弱々しくランタンの灯りが明滅していた。


方針は決まったが、禍根は残った。

今さらだが、俺たちのパーティーって舵取り役がいないんだよな。


強いて言うならアグリアスだが、暴れ馬が多い。

あいつが手綱を握るのは、正直かなり大変そうだ。


舵取りをするにも才能、性格、経験、

全てが揃っていないといけない。


俺には無理だ…。


ひた、ひた、と素足が石段を下りてくる。


「え、エアリー王女っ!?

どうしたんです、こんな夜更けに……」


「リョウカさん……少し、お話できますか?」

レースのパジャマ姿のエアリー王女が、鉄格子の扉の前に立っていた。


「ええっ……まあ、大丈夫ですよ」


落ち着け、俺。ここは冷静になるんだ。

余裕のない男は女性に嫌われると誰かが言っていた。


弱々しく微笑むと、彼女は俺の隣にそっと腰を下ろす。

「すみません……皆さまにご迷惑をお掛けして……」

レースの裾をぎゅっと握りしめ、エアリー王女は目を潤ませている。


「大丈夫だよ。俺は可愛い子が増えて、むしろ嬉しいくらいだ」


冗談で誤魔化さないと、彼女の不安も、自分の迷いも、全部まともに受け止めてしまいそうだった。


「ふふっ……リョウカさんは、やっぱり面白いですね。リョウカさんの周りには、いつも人が集まって来ます」


少し間を置き、言いにくそうに続ける。

「ただ、魔族まで仲間にしていたのには……さすがに驚きましたけど」


確かに、今思えば、魔王軍の幹部を引き入れるなんてどうかしている。


でも、ネコショウとリザリーにも安心できる居場所を作ってやりたい。


そういえば最近、ラッキースケベの暴発、少なくなった気がする。多少、コントロールできるようになった?

いや、そんなわけないか……。


「お~い、お~い……」

耳元で声を掛けられ、我に返る。


「あっ……ごめん、なんだっけ?」


「ふ~ん。女の子が話しているのに、上の空とは何事ですか」

エアリー王女は、可愛らしく鼻を曲げる。


「ごめんごめん。少し考え事をしていたよ」

そう笑うとエアリー王女の表情がふっと陰った。


「やっぱり……私だけ、わがままを言う訳にはいきませんよね」

ぽつり、と続ける。


「――私、ホントは王女なんてしたくなかった。

政略だの、責務だの……もう、うんざり……」

溜め込んでいたものを吐き出すように、言葉が溢れる。


「普通に好きな人と結婚して……

普通に暮らしたい……」


彼女は生まれながらにして居場所が与えられていた。しかし、その居場所がエアリー王女を苦しめている。


「くちゅんっ!」

エアリー王女が、可愛らしくくしゃみをする。


「ここ、寒いんだよな。ほら、これ羽織ってな」

俺は毛皮の掛布を取り、彼女と自分に掛けた。


――彼女はそっと、俺の肩に頭を寄せる。

「あったかいです……リョウカさん……」


少し間を置き、囁くように続けた。

「……このまま私と、遠くの地で暮らしませんか?

私の事を誰も知らない土地まで……二人で逃げましょう」

……俺は、言葉を失った。


選べば、何かを失う。

逃げれば、誰かを裏切る。


迷っていると、一瞬だけ――

アグリアスの悲しむ顔が脳裏を過った。


「……今、他の女の事を考えてたでしょ?」

「ギクッ!? す、鋭すぎる……」


「ふふっ……あまり、リョウカさんを困らせてはいけませんよね……」


その言葉を最後に――

張り詰めていた糸が切れたように、

エアリー王女はすやすやと寝息を立て始めた。


その瞬間――

ランタンの灯りが、大きく揺れた。


バキッ! ガシャアアン!

激しい物音で、俺は跳ね起きる。


「きゃああああ!」

な、なんだっ!?

天井の穴から、毛むくじゃらの長い腕が伸びていた。


次の瞬間――

エアリー王女の腕が掴まれ、宙へ引き上げられる。


「エアリー王女っ!?」

必死に掴みかかるが――

俺の手に残ったのは、引きちぎれたレースの袖。

  

エアリー王女は、そのまま天井の闇へ吸い込まれていく。


くそっ……!

守れなかった、という実感だけが残った。


俺は慌てて階段を駆け上がった。


「リョウカさん、大丈夫ですか!?」

「何事だ!」

エントランスに飛び出ると、

リザリーとネコショウがいち早く駆け寄ってくる。


「エアリー王女が連れ去られた!リザリー、俺と来い!ネコショウ、みんなを起こしてくれっ!」


玄関の扉は、無残に破壊されていた。

状況は分からない。でも、なんとしても取り戻す!


「……魔の気配がするな。北だ」

俺とリザリーは頷き合い、北へ走り出す。


そして、視界の先に現れたのは――

気高くそびえ立つ、ガルザス剣山だった。

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