お風呂イベント?
のぼせたデュナンを居室のベッドに寝かせた。
一息ついた時、一階からキャッキャウフフする声が聞こえてきた。
これは、いわゆる定番のお風呂イベントだ。
皆の関係性を理解するチャンスでもある。
決してやましい気持ちなんてない。
俺は背筋を伸ばし、体を捻りストレッチをする。
さぁ、我がラッキースケベよ!
この五体を駆け巡れ!
今こそ、その真価を発揮するのだ。
――湯気に包まれた脱衣所。
濡れた髪、火照った肌、無防備な素肌たち。
そんな幻視が一瞬、脳裏をよぎる。
堂々たる歩みで、かつ大胆に階段を降り、大浴場へ向かう。さあ行かん! 女の園へ――
飛び込む度胸のない俺は、廊下から脱衣所前の木扉に耳を当てる。
脱衣所から大浴場までは直通だ。
脱衣所に入った時点で俺の存在がバレる。
ならば、せめて音だけでも聞きたい……。
こんなことしているから、俺は嫌われるのか…、いやそれでも、この欲望には抗えない。
さあ、我がラッキースケベよ!
我が耳に最大限の恩恵を与えよ!
心なしか音がよく聞こえる気がする。
「リザリーさんって、憎たらしいぐらい胸が大きいわね〜」
「こ、こら、ミザリア! 妾の胸を揉むでない!」
「姉様だって、負けてませんわ!」
「カサンドラ、止めないかっ! ……あっ!」
非常にいい展開だ……!
この絶景を視界に収められないのが悔やまれる。
「皆さん、羨ましいです……」
ボソッとネコショウの声が漏れ聞こえる。
その後も盛り上がり、ガールズトークに発展する。
「ねぇねぇ、アグリアスはリョウカとどこまで進んでるのよ」
「み、ミザリア!? 別に何も進んで無いわよ!」
「あんたら、二人とも初心ね〜」
「ね、姉様にあんな変態男は相応しくありませんわ!」
「リョウカさんはそんな方ではありません」
「ネコショウ、意地になるでない。
あいつの顔を見てみろ!
歩く下心のような顔をしているではないか……」
リザリーさん、歩く下心はさすがに酷すぎるよ。
その後も、俺の褒め二割、陰口八割でお風呂イベントは終了した。
こんなことなら聞くんじゃ無かった……。
✡
「ふぅ〜、久々の風呂は気持ちよかった」
アグリアスと他の女性陣もお風呂から上がり、
談話室に集まる。
「リョウカ! どうした? 何を泣いているんだ」
「どうせ俺なんか……気持ち悪い変態野郎さ……」
心の傷が深い。
学校で女子が自分の陰口を話している場面に出くわしたような、そんな気分だ。
「な、なんだ、コイツは……気色の悪い」
リザリーさんが俺の泣き顔に引いている。
「ははーん」
ミザリアが何かを察したように声を漏らす。
「まったく、しょうがない子ね……」
ミザリアは俺の頭を抱え、自分の胸に埋める。
「ちょっと、ミザリアさん何をなさいますの?
そんなことしたら、汚れてしまいますわ!」
俺の陰口を話していたせいか、
想像以上に女性陣の言葉の切れ味が鋭い。
いくら変態とはいえ、こんなの辛すぎる。
カサンドラさん、それ以上言わないで!
オーバーキルなのよ!
俺のライフはゼロなのよ!
「ほらほら、泣かないの……いい子、いい子……」
俺の頭を、ミザリアの手が優しく撫でる。
……考えるのを、やめた。
今だけは、この温度に甘えさせてほしい。
ああっ――俺に新たなる扉が開かれた……。
「ばぶっ!」
本能に従い、ミザリアに飛びついた。
しかし、ミザリアは紙一重で躱し、
俺の体は勢いのまま床へと転がる。
この瞬間、ミザリアの回避能力が
俺のラッキースケベを上回ったのだ。
そのまま意識が遠のいていく。
最後に見たのは、
心配そうに覗き込むネコショウの顔……
そこで視界がアイリスアウトした。




