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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
二章 新居編

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変態家を買う?

翌日、アグリアス邸。

殺風景な部屋の床には、昨夜の話し合いの後、そのまま仲間たちが雑魚寝で転がり、規則正しい寝息を立てている。


当然のように、リザリーの姿もあった。

――昨夜の決定を、全員が受け入れた証拠のように。

 

……あれ?

早朝だというのに、アグリアスの姿が見当たらない。普段から、彼女は誰よりも早く目を覚ます。


玄関先の石レンガの塀を抜けた瞬間、

甘い――金木犀きんもくせいの香りが、鼻先をくすぐった。


この匂い……アグリアスだ。

胸の奥が、少しだけ落ち着いた。


古びた木のベンチに腰を下ろした彼女は、

まだ動き出す前の街並みを、静かに眺めていた。


朝の風に揺れる金色の髪が、やけに綺麗だ。


「こんなとこで黄昏たそがれて、どうした?」

声をかけると、アグリアスは俺を視界に収め、少しだけ顔を背ける。


「普段はあれほど賑やかな街も、こうして寝静まると静かなものだ。

私は……この朝の静けさが好きなのだ。

そして――」

言いかけて、飲み込んだ。


彼女は俺を見つめ、それ以上は何も言わなかった。


「俺も最近、楽しいんだ。

生きてるって感じがしてさ……」

そう言ってアグリアスの横に腰を掛ける。


「ふふっ。なんだそれは」

アグリアスは肩を竦める。


「お前は単に、美女が増えて嬉しいだけだろう。まったく、単純な男め」


……いや、図星だけども。

やっぱり俺、彼女には変態認定されてるんだろうか。


「アグリアス……」

青い瞳に、俺の情けない顔が映る。

彼女の目を見ていると、

昨日の不安が、少しだけ遠のいた気がした。




――その瞬間。

「コホン、コホン、コホン、コホン」

「エホッ、ゴボッ、グフぁ、ウフン」

上品な咳払いをするカサンドラと、

もはや咳払いかどうかすら怪しい、

美少女モードのネコショウが、

俺たちの間に強引に割り込んで座ってきた。


「いってぇ……!

お、おい! せっ、狭いんだよ!」

ベンチの手すりの金具が、横腹に食い込む。


「ちょっ、カサンドラ! 一体どうしたというのだ!」 アグリアスも完全にテンパっている。


「姉様の貞操の危機を感じましたので!」

「リョウカ様の童貞の危機です!」

二人は揃って、よく分からない“危機”を察知している。


……ていうか、ネコショウ。

なんで俺が童貞だって知ってるんだよ。


「ふふ。僕だけ仲間外れだなんて、ズルいじゃないか」

気が付くと正面に、デュナンがニヒルな笑みを浮かべて立っていた。


「我が秘技を見るがいい!」

――“風精霊の戯れ(シフルフィードダンス)


「ちょ、馬鹿野郎! やめろぉぉぉ――!」

俺の断末魔と同時に、

風を纏ったデュナンが、水泳の飛び込みよろしく豪快にダイブする。


朝の静けさは完全に粉砕され、

激しい土煙と共に、ベンチは原型を留めず大破した。



「……まったく。貴様にはモラルというものがないのか?」

腕を組み、呆れた顔で説教を始めたのは――

魔王軍の幹部という、一番“人の道”から遠いはずのリザリーだった。


「近所迷惑も考えろ。ここは王都の外れとはいえ、人は住んでいる。それに、ベンチはどうする?

公共物を壊すとは何事だ」


「まったく、おバカさんなんだから」

ミザリアがそう言って、

俺の頬についた土煙を、優しくタオルで拭ってくれる。


「わ、私がやろう!」

なぜかアグリアスが割り込んできて、

今度は俺の顔を遠慮なく磨き始めた。


「いだっ……!

アグリアス、痛い! 待って、痛いって!」


「ふふっ」

それを見て、ミザリアがイタズラっぽく笑う。


やがてアグリアスは、手を動かしながら思い出したように言った。

「ああ、そうだ。皆に報告がある」


俺たちは改まって、床に座る。

「私の叔父、グリミナ公が、持て余している別荘がいくつかあってな。

その内の一つを、一億G(グエン)で買い取った」


「さすが、仕事が早いな!」

口に出していたのは俺だけだったが、

全員が期待に満ちた視線を、アグリアスへ向けていた。


日が高く昇り、

俺たちは早速、その“新拠点”へ向かう。



王都バルフォネアから北に四里。

ガルザス剣山の麓――

そこに、我らが城が建っているはず……だった。


……あれ?

アグリアスに案内されて辿り着いた先。

目の前にあったのは、

木造二階建ての、長屋風の屋敷だった。


「あの……アグリアスさん。

ここ、ですか?」

恐る恐る尋ねる。


「ああ! ここだ!」

なぜか彼女は、目をキラキラ輝かせている。


率直な感想を言おう。

時代に取り残された、古びた校舎のような外観だ。

良く言えばおもむきがある。

悪く言えば――ボロい。


……思っていたのと、だいぶ違う。

けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


「どうだ?」

恍惚とした笑みで振り向くアグリアス。


……間違いない。

これ、彼女の好みに直撃している。


他の皆も、アグリアスの手前、

余計な感想は飲み込み、曖昧に頷くだけだった。



「魔界の牢獄に似ているな――!」

その瞬間、俺は反射的にリザリーの口を塞いだ。


――ここで否定されたら、

この居場所そのものが、否定された気がしてしまう。


「ぐっ、貴様、なにをする!」


「お願いだから、余計なこと言わないでください!

アグリアスが、せっかく準備してくれたんですから!」

必死に口を押さえる。


「がはっ……!

わ、分かった、分かったから……それ以上は……!

くっ……口は……弱いんだ……!」

やがて、リザリーは大人しくなった。




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