ラッキースケベとは?
砂のジャリ……そんな異物感より、空腹のほうが勝った。
味なんて、もうどうでもよかった。
食べること自体が、目的になっていた。
食料を求めて今日も街中を彷徨う。
もうダメだ。限界だ。
視界はぐらぐら揺れ、足取りも覚束ない。
「そこの貴様!――止まれ!」
鋭い声が背筋を貫き、俺はふらつきながら振り向いた。
絹糸のように長い金髪。切れ長の青紫の瞳。
そして、剣をこちらへ向ける女騎士。
見た瞬間に分かった。
この人に触れたら、終わる。
「……なんでしょう?」
「我が名はアグリアス・ライオット・ホーン。
バルフォネア王国の騎士だ。
貴様だな、近頃あちこちで市民に暴行しているという不埒者は?」
「暴行……まあ、間違いではないか…」
否定できないのが、余計に辛い。
「ほう、素直に認めるか!
いいだろう、大人しく投降しろ!」
アグリアスはジリジリと距離を詰めてくる。
マズい。マズすぎる。
騎士様にラッキースケベが発動。
その次に来るのは――処刑。
未来は、はっきり見えすぎるほど見えた。
「動くな! それ以上は危険だ!」
「脅しか?」
違う。違うんです。
あなたの“身の安全”のためなんです。
「お願いです。本当に、近づかないでください。
あなたを傷つけたくないんです……!」
俺の言葉が、どう聞こえているかは想像できた。
それでも、事実なんだ。
これ以上、誰かに嫌われたくないんだ!
涙目で懇願する俺に、アグリアスは忌々しげに舌打ちした。
「チッ、情けない奴め。
ならば大人しく投降しろ」
「したいんですけど、物理的に……無理なんです」
人と接触したらアウトなんです。
「わがままな……。
仕方ない。我が愛剣クラリウスで、貴様を軽く戦闘不能にして――」
アグリアスが剣を構え、鋭い突きを放ってきた。
速ぇ!
それ本気で来てない!?
このままじゃ死ぬ!
驚いて後ろに躓いた俺は、仰向けになり――
開いた口のまま、飛んできた剣の“腹”が――
視界いっぱいに迫り。
そして、舌で――
ペロッ。
アグリアスの動きが止まる。
「……き、貴様……
今……私のクラリウスを舐めた、のか……?」
沈黙。
そして――
「うっ……うわああああああん!
クラリウスーーーー!!」
まさかの大号泣。
しかも町中で。
この時点で、嫌な予感はしていた。
さらに俺は気付いた。
――俺のラッキースケベ、「物」にも発動する。
……最悪だ。
周囲の野次馬がざわつき始める。
「ちょっと……騎士様に何したのあの変態……」
「私の胸に顔を埋めてきたのもあいつよ」
あの時のバニーちゃんまで!?
違うんだ。今回も不慮の事故なんです。
「おい、貴様! お姉様に何をした!」
ミント色のサイドテールにビキニアーマーの少女が、怒鳴りながら登場した。
増援。しかも、こっちも敵意丸出しだ。詰みだ。
「許さん!」
少女はショートソードを構え、飛びかかってきた。
しかし剣は俺の目の前で空振りし、彼女は一回転。
そして――モシャッ
彼女のサイドテールが、俺の口にダイブした。
「もがっ!? ……ん? 甘酸っぱい?」
サイドテールの少女は固まった。
「きゃぁああああああ!!」
また泣いた。
二人で抱き合って号泣し始めた。
……不憫すぎて胸が痛む。
たぶんこれは、同情じゃない。
俺が一番、自分の状況を呪ってるだけだ。
「その……ごめん……本当に……」
思わず歩み寄って手を差し出す。
助けたい、という感情は本物だった。
それが一番、残酷だった。
――善意すら事故に変える、この呪われた力。
「……あ、終わった――」
遅かった。俺は足を滑らせ、盛大に躓き、
二人の騎士へ ダイブ してしまった。




