第181話 愛?
霧とともに仲間の動きが止まる。
「おい! みんな何やってんだ!」
霧の中から虚ろな目をした兵士たちが襲ってくる。
……なんだ、操られているのか?
くそっ、仲間には近づけさせねえ!
迫りくる敵を殴り飛ばしていく。
たいしたダメージは与えられておらず、
すぐに兵たちは立ち上がり、剣を振ってくる。
なんとか、注意をこっちにむけさせないと。
今は、みんな無防備だ。
――牽制を繰り返していると、背後で仲間が動き出す。
「すまない。リョウカ……遅れてしまった」
「別にいいって――っ、危ない!」
アグリアスの腕を引っ張り引き寄せる。
アグリアスの立ってた位置に、漆黒の爪が振り下ろされた。
土煙と共に大地が揺れる。
「ネコショウ……」
ネコショウは虚ろな瞳でこちらを見ている。
「みんな、リザリーも操られているわ!」
ミザリアの声でリザリーに視線を向ける。
彼女は空に舞い上がると、巨大な竜巻が振り注ぐ。
俺たちはすかさず距離をとる。
ネコショウや兵たちが竜巻に巻き込まれ、吹き飛ばされていく。
「くそっ、まとまって戦うとリザリーとネコショウが互いに傷つけあってしまう」
なんとか二人を引き離さないと。
「リョウカ!
こいつは元第三師団長のラフォスタよ。霧で幻を見せるわ」
アリサが叫ぶ。
「――能力がわかってたなら、
どうしてアリサちゃん動かなくなったんだよ!」
「仕方ないじゃない!
私だって、こいつの能力の種までわからなかったのよ」
「アリサさん。能力の系統的に術者が近くにいるのよね?」
ミザリアがアリサに尋ねる。
「ええっ、どこかに隠れていると思うわ!」
「ネコショウとリザリーは、互いに巻き込まないように、分断して足止めしたい」
俺はアグリアスに視線を送る。
「ふぅー、まったく仕方のない。
私がリザリーを足止めするから、リョウカはネコショウを頼む!」
アグリアスの配慮に救われる。
「ミザリア、アリサちゃん!
術者を探してくれ!」
俺の言葉よりも早く、二人は散開した。
ベンヌの羽を広げ、
俺は虚ろな目のネコショウを無理やり抱き上げる。
ネコショウの手に影のようなものがまとわりつき、槍のように鋭くなる。
ラッキースケベは、
心を許している相手ほどダメージが大きい。
……腹の奥まで抉られるような痛みが走る。
くそっ、やっぱり痛ぇな。
でも――だからなんだ。
この痛みごと、お前を抱きしめてやる。
なんとか、アグリアスとリザリーから引き離すと、ネコショウを地上に降ろした。
「さあ……ネコショウ。最初で最後の痴話喧嘩だ」
俺は幾何学模様の紅い羽を広げ、拳を構える。
ネコショウの虚ろな瞳に俺の姿が反射する。
彼女から一切の感情は窺えなかった。
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再生の焔と共に、ネコショウから受けた傷を癒す。
ネコショウの影から無数の漆黒の武器が出現する。
彼女が手をかざすと一斉に射出された。
……初めて見る力だ。
七幹部のスキルなのか?
漆黒の武器は不自然に軌道を変え俺の体をかすめる。
――俺は死なない上に、再生する。
なら、妻の攻撃を避ける理由がどこにある。
――攻撃を受け、再生を繰り返しながらネコショウに近づく。
……彼女を抱きしめた。
もがく彼女を優しく包み込む。
ネコショウの爪が、俺の肉に食い込んだ。
「ぐっ……ネコショウ」
俺は痛みのなかで笑った。
「俺は幸せ者だ。
キミをずっと抱きしめていられる」
――彼女の匂い。
――彼女の温もり。
――彼女の吐息。
……ラッキースケベに感謝しないとな。
「ネコショウ……愛しているよ」
包容と破壊、再生が循環する。
「大丈夫……大丈夫だから……」
疲れたのか、マナ切れなのか、ネコショウは次第に動かなくなった。
彼女の虚ろな瞳が視界いっぱいに広がる。
――彼女の目から一雫の涙がこぼれ落ちる。
「ネコショウ。ごめん。
タカミヤにあれだけ啖呵を切ったのに、俺がお前を泣かせてしまった」
「……」
ネコショウの口が微かに動く。
「……様」
「リョ……様」
「リョウカ様……」
彼女の口元は確かにそう囁いていた。
「ネコショウ、今度こそお帰り……」
俺の言葉にネコショウの体がビクンと跳ねる。
「リョウカ様っ!」
ネコショウの瞳に光が宿り、俺の背中に彼女の手が触れる。
俺の胸に顔を埋め、彼女はひたすら泣いていた。
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どれだけ、抱き合ってただろうか。
幸福な時間が過ぎてゆく。
「……コホン。そろそろいいだろう?」
背後でリザリーの声が響く。
気づけば、仲間が全員揃っていた。
「す、すみません!」
ネコショウは慌てて俺から離れる。
……ちぇ。
「みんな無事ってことは、ラフォスタって奴は見つかったのか?」
俺の言葉にアリサが目を背ける。
「え、ええ……ミザリアさんが、術を解かせたわ」
「なんだよ、えらく歯切れが悪いな」
「まあまあ、無事に解決したからいいじゃない」
ミザリアが話をまとめにかかる。
「いやいや、なんだその反応……気になるじゃないか」
「ちょっとお仕置きしただけよ……」
ミザリアがイタズラな笑みを浮かべる。
「お仕置き……ね」
アリサの反応が物凄く気になる。
「私なら、あの責め苦は耐えれないわね……」
「何だそれ……もしかして、凄いプレイなのか?」
俺の反応を見てアグリアスはため息をつく。
「まったく、こんな状況だというのに、お前は変わらないな……」
「リョウカさん。そんなに気になるなら今晩、試してあげましょうか?」
「えっ! いいの?」
「やめたほうがいいわよ……私なら死んだ方がマシよ」
アリサの目がマジだ。
たぶん、本当にやばいやつかもしれない。
「リョウカ様……不潔です」
後ろでネコショウの声が落ちる。
――戦いはまだ続いているが、ようやくネコショウを取り戻せた気がした。
15章はここで終わりです。
章全体を整えてから続きを執筆致します。
第4部はこれまでの関係性や伏線が収束していく話になります。いつもご愛読いただいている皆様には感謝しております。
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