迷子の子猫?
ふぅ……朝日が眩しい。
生きて朝を迎えた、という実感が遅れてやってくる。
なんだ、体が重い。だけど……誰かの温もりを感じる。アグリアス……か?
昨夜までの戦いが夢だったかのように、感覚が鈍い。
目を開けると――
デュナンが下着姿で俺に足を絡ませていた。
「うぎゃぁぁぁぁああ!!」
完全に想定外の光景だった。
「どうしたの!?」
勢いよく扉が開き、ミザリアが慌てて飛び込んでくる。そして、俺とデュナンの密着を見て――
「あら……あなたたち、そういう関係だったのね……」
ミザリアは“ごゆっくり”とだけ言い残し、静かに扉を閉めた。
誤解が訂正される未来が一切見えない。
「いやいやいや違う! 誤解だ!!」
「やぁ、リョウカくん。気持ちのいい朝だね!」
デュナンがアマイマスクでウィンクする。
やめろ。お前はヒロイン枠じゃない。
頼むから、そんな目でこっちを見るな。
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「えっ!? 俺、五日も寝てたの……?」
気づけば、カサンドラの自宅のベッドに寝かされていた。
時間感覚が一気に現実へ引き戻される。
「そうですわ! あなたを運ぶの本当に大変でしたのよ。寝ているくせにイヤらしいことをしてきますから、デュナンに運ばせましたわ」
カサンドラがため息をつく横で、デュナンがキラキラした目で頷いている。
「ああ、リョウカくん……昨晩は凄かったね♡」
うっ…胃液が逆流した。
精神的ダメージが、肉体より重い。
「でも、アグリアスもリョウカさんを運ぼうとしたんだよね〜」
ミザリアが意地の悪い笑みで茶々を入れる。
「なっ、貴様! それは言わない約束だろう……!」
アグリアスは顔を真っ赤にして立ち上がった。
「アグリアス、キミには負けないよ!」
デュナンが真剣な眼差しを向ける。
「わ、私だって……!」
お前ら何の張り合いをしてるんだよ。
「ダメですわお姉様! くっ……リョウカのやつ……!」
四角関係(仮)が爆発寸前である。
完全に俺の知らないところで、戦線が拡大している。
「――あれ? ミザリアはなんでここに?」
ミザリアは机に頬杖をつき、小さく息を漏らす。
「……あの村では私、信用されてないのよ。
今回も真っ先に疑われて……もう、いたくないわ」
暗い影が落ちたその横顔を見て、胸が少しチクッとする。
ミザリアも俺と同じで居場所がないのか。
「それに……リョウカさんもいるし♡」
急に明るくなると、俺の腕に抱きつき、胸を押し当ててくる。
……うん、悪くない。
うっ、周囲の冷たい視線が痛い。
「あ、そういえばネコショウ見てないか?
体調崩してたから置いてきたんだけど」
無理やり話題を変えた。
この空気から逃げたかった。
「私の家も探したが見てないぞ」
アグリアスも他のメンバーも首を横に振る。
「ちょっと探してくる!」
俺は視線と修羅場から逃げるように家を飛び出した。理由は猫探しだが、本音は現実逃避だ。
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町中を駆け回ったが、ネコショウの姿はどこにもない。嫌な予感が、じわじわと広がる。
まさか……町の外か?
門を抜け、ネコショウと魔王軍の女と戦った場所へ向かう。
一番、嫌な可能性だ。
すると――
言い争う声が聞こえてきた。
「うにゃあん!」
「彼は悪くないですって?
あなた、傷つけられたんでしょう!」
「にぁんっ!」
「私が我慢すればいい?
そんなことしたって、彼は振り向いてくれないわよ!」
「にぁおん」
「いつか振り向いてくれる?
甘いわね。あいつは女ったらしよ?」
「にゃあ!」
「自分だけは特別?
さっきこっそりアイツを見てきたけど……
また別の女の子を連れてたわよ?」
安い昼ドラみたいなセリフが飛び交ってる。
内容が酷いのに、なぜか切実だ。
声の方に近づくと――
ネコショウと、あの赤い髪に紫の肌の魔族の女が、
恋愛相談みたいな空気で会話していた。
「なっ!?」
俺に気付いた魔族の女が、殺気を放って臨戦態勢に入る。
――最悪のタイミングで見つかってしまった。
ここから先、絶対に面倒な展開になる。




