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ラッキースケベが思ってたのと違う ~ハーレムのはずが世界を巻き込む能力だった~  作者: 那須 儒一
15章 公国編

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第178話 氷姫?

月夜に照らされ、四方から青い壁が迫りくる。

天を覆う津波だった。


高波は天を覆うほどの高さで、兵も遺体も民も、全てを飲み込もうとしている。


領土全体を覆うほどの規模。

……こんな魔法、存在していいのか。


――誰もが慌てふためく中、一人の男が大剣を構える。


「いや……私の出る幕ではないか」

アーサーはそれだけ言葉を残し、剣を下ろした。


「ウェイン公……まさかこのような暴挙にでるなんて」

透き通るような声が絶望の中に響いた。


白銀のドレスに流れる銀髪。

美麗な女性が、氷の結晶が飾られた細剣を天に向ける。


――静寂。

時が止まったかのように、誰もが固唾を飲んだ。


女性の白い吐息が漏れる。

大気が凍てつき、津波は一瞬にして凍りついた。


「ふんっ!」

続けざまに、アーサーが大剣を振るう。

周囲を囲む氷塊は砕け散り吹き飛ぶ。


煌めく氷の結晶が星空に溶ける。


「シュウスイ……ウェイン公爵を甘く見ていましたね」


女性が口を開くと、シュウスイと呼ばれた男が銀の指揮棒を持って歩み出る。


「申し訳ございません。完全に私の見立てが甘かったです。城下町の民は私のタクトで防ぎましたが……郊外の領民は……」

シュウスイはそこで言葉をつぐむ。


「反省は後です。今は領民の救助を優先しましょう」


「お言葉ながらヴァレンタイン公。私がウェイン公なら、ここでさらに追撃をします」


「わかりました。

――聞きましたか七幹部たち。

今すぐ橋へ向かい防衛を固めてください」


ヴァレンタイン公と呼ばれた女性は七幹部に命じる。


「――御意に」

アーサーが頭を下げると、七幹部はネコショウとリザリーを残して、橋へと向かった。


「あの……リョウカ様、私も向かわないと……離していただけますか?」


「嫌だ」


「イヤだって言われても……」

ネコショウは困った顔でリザリーに助けを求める。


「リョウカ、ネコショウを離してくれ……事情ならことが済んだら説明する」

リザリーが間に入るが、断固として拒否する。


「いやだ!」


「駄々をこねないでください……」

ネコショウの尻尾が心なしか跳ねている。


「まったく……私たちの存在をすっかり忘れているだろう」

アグリアスがアリサと歩いてくる。


「アグリアスさん……ありがとう。光の爆発から守ってくれて」

アリサが小さくお礼を言う。


「ああ、礼を言われるほどのことではない。

それよりリョウカ。今は事態の収拾を優先しよう」


アグリアスの言うことはごもっともだが……

ネコショウはもう絶対に離さないと決めた。


腕の中の温もりが、まだここにある。


もう、一人にしない。

今度こそ、離さない。


「君たちは、昼間の侵入者か?」


ヴァレンタイン公とシュウスイがこちらに歩み寄る。


白銀の瞳と視線が合う。


「貴方は?」


「俺はリョウカだ。ネコショウの夫」


「私はカタリーナ・ヴァレンタインだ。貴殿の目的は?」

カタリーナは軽く会釈をする。


「家出した妻を連れて帰りに来た」


「なら、あなたたちはウェイン公の刺客ではないと?」

カタリーナはアリサを睨む。

少なくとも彼女とは面識があるようだ。


「……はい。ウェイン公に嵌められました」

アリサはおずおずと答える。


「確かにウェイン公ならやりかねません」

シュウスイはそっとカタリーナに耳打ちをする。


「なるほどな。ともかく貴殿らの処遇は保留だ。

本当にウェイン公の刺客でないなら、戦って信を得てみせよ。さもなくば、ここで氷の墓標となるぞ……」

カタリーナの目は本気だ。


「承知致しました。

元より我らが招いたことでもあります。

迎撃に加わります」

アグリアスはカタリーナに深々と頭を下げる。


「橋は三方あります。アーサー殿は北東の橋に一人で向かわれました。

ガラハシャット殿、アリス殿、ジェーン殿、ウリアナ殿は南東の橋に……できれば、アーサー殿の援護に向かってください。

兵たちには領民の救助にあたらせます」


シュウスイが確認のため、カタリーナを見やると、彼女はこくりと頷いた。


「あれ、橋ってもう一つあるんじゃ?」

ミザリアが指摘するとシュウスイは首を横に振る。


「あと一つは東にある、中央の大公の居城に続く橋です。今は無人ですが、彼らがしきたりを無視して居城から攻め込むとも考えづらい。

でも、万が一の時は私が対処しましょう」


シュウスイの言葉に、皆納得し、俺たちはネコショウとリザリーを連れて、アーサーのいる北東の橋を目指す。

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