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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

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女神?

幸いにもゴブリンたちはカリスの魔法で焼け焦げ、残党も気付けばいなくなっていた。


アグリアスの前で膝をつき、必死に回復魔法をかけ続けるカサンドラに近づく。


「悪い、デュナンにも頼む」

アグリアスの傷は峠を越えている。

今、優先すべきは命の危険が残るデュナンだ。


デュナンは胸の出血こそ止まっているが、まだ目を覚まさない。


「で、でも……お姉様が……」

カサンドラは今にも泣き出しそうだ。


確かにアグリアスの呼吸は乱れていない。

回復魔法が効いたのか、胸の傷もふさがってきている。


「アグリアスはもう大丈夫だ」

自分に言い聞かせるような言葉だった。

そうでも思わなければ、判断が揺らぐ。


俺はアグリアスの手を握った。

弱々しいが、握り返す指先にゆっくりと力が宿る。


閉じた瞼のあたりで、長いまつ毛が微かに震えた。

「……勝ったのだな……」


「あぁ。なんとか、な」


“勝った”という言葉が、ようやく実感を伴って落ちてきた。


「ふぅ……今回は助かったわ」

ミザリアが足を引きずりながらこちらに歩み寄ってくる。彼女もギリギリだったのだろう。


俺以外、誰一人、無傷ではない。

それでも全員生きている。それだけで十分だった。


その後の俺は大忙しだった。

一番無傷だったという理由で、怪我人を運び、残骸を片付け、もちろんチートスキルの妨害に悩まされながらも、どうにか混乱を収めた。


気がつけば、自然と自分が動いていた。

役に立っている間だけは、ここにいていい気がした。



夜霧が薄らいだ湿原に、星々の光が静かに落ちていた。


騒ぎが収まった今、張り詰めていたものが一気にほどける。


その夜、夢を見た――。


転生の間。

エメラルドの髪を波打たせる、美しい女神が微笑んでいる。


「……あれ? いつの間にか死んだのか?」

 

現実感がない。

夢だと分かっているのに、妙に生々しい。

――こういうのって、明晰夢めいせきむっていうんだっけ?


「こんばんは、コフク様。こんな形でお呼び立てしてしまい、申し訳ありません」

女神はどこかすました顔で言う。


「で? 何の用だよ」


「あら、出会った頃は私に飛びついてくるぐらい夢中だったのに、他の女に鞍替えしたのね。悲しいわ……」

言葉の割に、まったく悲しそうではない。


「あの時はまだ若かったんだよ……」

疲れているせいか、どうにも張り合う気になれない。


「ふふっ。若かったって、まだ二週間も経ってないじゃない。でも……そうね、少し大人びましたね」


「そんな感想を言うために呼んだのか?」


「いえ、本題はここからです。……正直、私はあなたをみくびっていました。

まさかこの短期間で魔王軍の幹部を一人倒すなんて……転生史上、前代未聞です」


褒められているはずなのに、素直に喜べない。


「チートスキルがあればこんなもんじゃないのか?」


女神は小さく首を振った。

「いえ。あなたがいる世界――メルフィナは、転生者の死亡率が最も高い世界です。

チートスキル持ちの転生者でさえ、千年間、魔王軍の幹部は倒せませんでした。

だから、希望でもない限り、ここには転生者を送らないのです。……まあ、過去に高難易度を求める好き者もいましたけど」


つまり、俺は場違いな場所に放り込まれている。


「ん? ちょっと待て。俺、転生先なんて選ばされてないぞ?」


女神は目を細めた。

「それは――あなたがスキルを授かった瞬間に、イヤらしい行動をしたからです。仕方なくメルフィナに飛ばしました。――キモかったのもありますけど」


最後のが一番の本音だろ。


「……半分は俺のせいだけどさ!

それでも酷くないか?」


「クレームは受け付けておりません」


反論する気も、起きない。

「……もう、その話は終わりでいい。

要件を言って寝かせてくれ」


「ほんとにもう……私と話せる貴重な機会なのに。

――魔王を倒した暁には、転生者の願いが一つ叶えられます」


「願い……チートスキルを無くすこともできるのか?」

女神の瞳が驚いたように見開かれる。


「まぁ……そんな願いを出したのはあなたが初めてです。念願のラッキースケベではないのですか?」


「いや……思ったより不便なんだよ。普通に生きたいだけだ」


ラッキースケベのせいで常に居場所を奪われる恐怖に苛まれている。


「でも、そのスキルが無ければ、あなたも、周りの人々も死んでいたかもしれませんよ?」


「それはそうだな。だから、魔王を倒して平和になれば――もう要らないんだ」


女神は、動物園の珍獣でも見るような目で俺をじっと観察した。

「……ふぅん。変わった人ですね」


そして、俺の手を取り、小さな光の粒をそっと握らせた。


「最初の説明不足のお詫びとして、これを差し上げます」


「これは? 種……か?」


「効果が発揮されないことを祈ります」

嫌な予感しかしないが、今は考えないことにする。


「よくわからんけど……ありがとな。じゃあな」

軽く手を振ろうとしたその瞬間――


「ふふ……そういえば、自己紹介がまだでしたね。

私は女神タチアナ。あなたには期――」

女神エアリアは足をもつれさせ、その場で盛大に転んだ。


「きゃっ!?」

「うわっ!?」

モフッ。

柔らかい衝撃が顔一面を包む。


「(ぐっ……嬉しい……が……苦しい……息が……)」

理不尽だが、もう慣れた。


「まったく……なんて下劣なチートスキルなんでしょう。女神にまで作用するなんて……

このまま胸で窒息死させて差し上げましょうか?」


「もがっ……もがっ……!」

(それはそれで、幸せな死に方だけど……く、苦しい!)


本気で死ぬ未来が一瞬よぎった。


「ちょ、ちょっと! 口を動かさないでくださいっ……! もう……さっさと行ってください!」

女神は床に空いた空間をぱかりと開き、

俺をそこへ押し込むように放り投げた。


光が弾け、視界は闇に落ちた。

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