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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

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湿原の村?

日はとうに昇っているのに、霧のせいで肌寒い。

湿原を進めど進めど、村の影は見えない。


ソロボス村一帯は、霧の結界によって

昼間でも気温が上がりにくい土地だ。


足を止めれば、ここで終わる気がした。

だから誰も、立ち止まらない。


アグリアスが懐から鈴を取り出し、軽く振る。

――ちりん。

微かな音色が霧を払い、一本の道が浮かび上がった。

「霧がない道を真っ直ぐ行けば、村に着くわ」


「なんだその鈴?」

俺の問いにカサンドラが代わりに答える。


「ソロボス村に辿り着くには、魔女から預かった

“モルガンの鈴”が必要なのですわ」


この湿原では、外部の人間は結界によって正しい道を認識できないのか。


「……風が凪いでいる」

デュナンが険しい表情で辺りを見渡す。


霧の切れ間を抜けると、

藁葺きの家々がぽつりぽつりと並ぶ村が姿を現した。

色彩の薄い、侘しい景色だ。


なんで魔女って、こんな僻地へきちに住んでんだ?

     

一見、何も起きていない村。

それはそれで、胸の奥が落ち着かなかった。

何もなければ、俺たちはここに居る理由を失う。


村に足を踏み入れた途端、

暗い紫のローブを羽織った老婆が

よたよたと近づいてきた。


「いやはや、騎士様ではありませんか。

村に何か御用ですかな?」


「私はオルトロス騎士団、副団長アグリアスだ。

この村からの応援要請に応じて来たのだが――」


「応援要請……?」

老婆は眉をひそめた。


「ワシは村長のローザと申すが、

確かに先日トラブルはあったものの、

応援要請など出しておらぬはずで…」


なら、王都へ使い魔を送ったのは誰だ?


どういうことだ?

伝令ミスか? いや、もっとイヤな線が…。


もし勘違いなら、歓迎もされず、用もなく、帰るだけ。


「……焦げ臭い。

それに……血と肉の焼けた匂いが混じってる」

デュナンが鼻を擦り、不穏な声を漏らす。


「クンクン。そんな匂い感じませんわ」

カサンドラは鼻をひくつかせるだけ。


「俺にも分からん。

アグリアスから花の匂いがするだけだし」


「なっ……貴様!

私の匂いを嗅ぐなッ!」

アグリアスが顔を真っ赤にして睨んでくる。


部屋は汚かったくせに、いい匂いがするところが

余計に罪深い。


アグリアスは騎士として身だしなみに厳しく、香草を使った香袋を常に携帯している。


「お姉様、変態野郎だけ、ズルいですわ!」

カサンドラがアグリアスに頬ずりをする。


「こらッ…やめんか!」


「リョウカくん!

僕の匂いも嗅いでくれたまえ!」

デュナンが脇を俺の鼻先に差し出す。


「来るなぁぁぁぁあああ!!」

 

まったく騒がしいパーティーだ。

でも、…悪くない。


一通り戯れた後、カサンドラが尋ねる。

「ローザ村長、その“トラブル”というのは?」


「実はの……湿原の枯れ木が、広範囲に渡って焼き払われたのじゃ。あれらは霧の結界を維持する触媒。焼かれては困るのだよ」


「その魔女は?」

アグリアスが尋ねる。


「捕らえておる。本人は否定しておるが、この村だ

火属性を扱えるのは村で彼女だけでな」


「その人と話せるか?」

俺は妙な胸騒ぎを抑えられなかった。


差出人不明の応援要請。

焼き払われた枯木。

平和なのにどこが不穏な空気。


「……何か気付いたんだね?」

デュナンが小声で尋ねる。

俺は短く頷く。


使い魔を送った者は何となく想像はつく。

問題は枯木を焼き払った者だ。


「え、ええ。構わぬよ」

ローザ村長の案内で村外れの牢へ向かうことになった。


入り口には、そばかすの多い無口な女性が

無表情で立っていた。


牢は、魔女を隔離するため村の外れに設けられている。通路は暗く湿っていて、カビ臭さが鼻につく。


鉄格子の前に辿り着いたとき――

見覚えのある赤い装いが、

鎖に繋がれ座り込んでいた。


「あら……まさか皆さんがお見えになるとはね」


「お、おま……ミザリア!」

アグリアスが思わず後退る。


天頂トーナメントでも顔を合わせた

“熱波の魔女ミザリア”だ。


「湿原の枯れ木を焼いたのは、貴方ですの?」

カサンドラが問いかけると、

ミザリアは弱々しく首を振る。


「王都に使い魔を送ったのは君だろう?」

デュナンも俺と同じ結論に辿り着いたようだ。


「ええ……村で何か恐ろしい事が起ころうとしている」

声はかすれ、彼女の体は衰弱しきっている。


長期間拘束され、十分な栄養を受けていない状態だ。


「ミザリアさん。気付いたことを全部話してくれ。

俺も……嫌な予感が拭えない」


「あら、私を信用するの?」

かすれた笑みを見せるが、体は限界だ。


正直、完全に信用はしきれていない。

だが、彼女が今回の件の犯人とも思えない。

…単なる勘に過ぎないが。 


「信用するから――

お前も俺たちを信じろッ!」


ヒュ~……俺の言葉に、デュナンが吹けないくせに口笛を吹く。


「枯れ木を焼き払ったのが、

私じゃないなら誰かしら?」

ミザリアはイタズラっぽく尋ねる。


彼女は、別の“火を扱う存在”を示唆している。

そして。


――ドォォォン!!!

牢全体が揺れるほどの爆発音が、 

村の中心部から響き渡った。


(来た……!)


もう戻れない。

それでも、ここに居続ける理由は、はっきりした。

胸騒ぎは、最悪の形で現実になる。

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