第111話 英雄②?
更地になった王城で、アーサーとガーザック……そして女神タチアナが対峙する。
「ガーザック……どうして、その力を魔王討伐に役立てないのですか?」
「ハハハ、今さらなにを言うかと思えば……魔王などどうでもいいわ。俺が民を蹂躙できればそれでいい」
「狂っていますね……」
「それで、女神よ。俺を殺しに来たか?」
ガーザックが両手を広げ首を傾げる。
「私が介入するのは理に反します」
「ならば……なんのようだ?」
「――ただの時間稼ぎです……本当の英雄が到着するまで、ね……」
タチアナの視線の先から息を切らしながら一人の青年が少女を抱え走ってきた。
「リョウカ……」
エアリー陛下の目に希望が宿る。
「ようよう……ぜぇ、ぜぇ……よくも……ぜぇ……うちの……王様に……ぜぇ……手を出してくれたな……」
アリスを抱え全力疾走したせいか、リョウカは息を切らしながらガーザックに視線を向ける。
「まったく……少しはカッコつけられないのかしら……」
タチアナは呆れてため息を漏らす。
「キミは……あの時の少年か……」
「よく見たらアーサーじゃねえか!
お前、また王都を襲撃に来たのか!」
リョウカとアーサーの視線が交わる。
「とんちんかんなことを……」
タチアナはさらにため息をつく。
「リョウカ……アーサーは今は味方です!」
赤い枝に縛られたエアリー陛下の言葉で、ようやくリョウカは状況を飲み込む。
「なんで、こっち側についてんだよ……」
アーサーはフッと鼻で笑う。
「キミのせいで死にそびれたからだよ……」
「よくわからんが……足、引っ張るなよ!」
リョウカはアリスを後ろに立たせ、アーサーの隣に並ぶ。
「ではリョウカ……朝食がまだなので、早く片付けてしまいなさい……」
そう言って、女神タチアナは去っていった。
「好き勝手言いやがって……」
「わたしもー! たたかうー!」
「アリス、お前は退魔の剣を持って下がってろ!」
「ううー」
アリスは退魔の剣を大事そうに両手で抱え後ろに下がる。
「最初で最後の共闘だ!」
俺はガーザックへ突っ込む。
「赤枝……」
ガーザックが手をかざすと、地面から無数の赤い枝が生えてくる。
枝が瞬時にリョウカを絡め取る。
直後にアーサーが大剣を振るい、リョウカを縛る枝を取り払う。
「すまん……助かった……」
「いや、殺す気で切ったんだがな……やはり加護か……」
「他の奴らもそうだけど、とりあえずお試しで殺そうとするのをやめてほしい。ホントに死んだらどうするんだよ!」
「キミらやる気あるの?」
ガーザックが直剣を構える。
――なんだ?
突如、空から赤い腕輪が飛んでくる。
ガーザックの目の前に複数の赤い腕輪が浮かび、身につけている赤い鎧に吸い込まれていく。
「テウザ山の奴ら……死んだか……お陰で、こいつが使えるな」
ガーザックが天に手をかざすと空に魔法陣が浮かび上がる。
――再び、赤い雲が広がり、雨が降りだす。
「くそっ、またこの雨かよ……」
「まだまだ終わらんぞ……」
息つく間もなく、ガーザックは足元から赤い獣を複数出現させる。
――無数の赤い獣が王都に放たれる。
「更にダメ押しだ」
次は――上空の赤い雨が収束して、大量の剣の雨が王都全体に降り注ぐ。
王都上空では剣の雨が全域に狙いを定め、
城下町では赤い獣が民を食らっている。
「さあ英雄共、誰を救うか選ぶといい……」
「くっ……大気剣・十字星!」
アーサーが空に向け大剣を振るい十字を切る。
――赤い雲が十字に晴れ、青空が顔を出すと共に、上空の剣の雨が消し飛んだ。
一瞬、皆の視線が空に注がれる。
――隙を突かれ、ガーザックの赤い直剣がアーサーの腹部に突き刺さる。
「ぐっ……」
血を吐くアーサーにガーザックは掴んだ剣を深く押し込む。
「アーサー様!」
「アーサー」
枝に縛られたミレディとエアリー陛下が叫ぶ。
「無力な王よ。民は獣に蹂躙され、お前の騎士はここで死ぬ。民を守れなくしてなにが王だ!」
ガーザックはエアリー陛下に怒号を飛ばす。
「ぐっ……なら……貴様は誰を守れるという?」
アーサーは突き出されたガーザックの右腕を片手で掴む。
「なんだ……悪あがきか?」
――バキンッ!
「ぐっ……」
アーサーの握力により、ガーザックの右腕が鎧ごと砕かれる。
ガーザックの右腕はだらりと垂れ下がり、直剣はアーサーの腹部を貫いたままだ。
「やってくれるな。もう死ね!」
ボンッ!
ガーザックが左手を掲げるとアーサーの腹部に刺さった直剣が爆発する。
「アーサー様!」
ミレディの叫び声が爆発音にかき消された。
アーサーは丸焦げになり、その場に倒れる。
「くっ、血の回帰のスキルがあれば骨折などすぐ治せるのに……どっかの馬鹿な血徒が所持してるのだな……今度、見つけ出して殺してやる!」
「貴方に今度などありません」
冷たい声が響く。
リョウカは聞いたことのない威圧的な声に目を向けると、エアリー陛下の体から桜色の炎が漏れ出ていた。




