優勝?
熱魔法が解けたにも関わらず、コルデオの会場は熱気と歓声で満ちていた。
興奮だけが、場に居座っている。
「さぁ! 残るは決勝戦のみとなりました!
まず初めに、三試合すべて一撃で相手を沈めた謎の格闘家――ジェーン・リーヤ選手!
嘘か誠か、過去にドラゴンをワンパンしたという伝説が!」
観客席の空気が、今までとは明らかに違っていた。
期待ではない。“警戒”に近いざわめきだ。
「対するは……変態!
それでは最終試合、はじめッ!」
ただの変態呼びは聞かなかったことにした。
もはや訂正する気力もない。
それどころじゃない。
目の前の相手の“圧”が今までと桁違いに重い。
ホットパンツに黒髪のお団子。
あどけなさを残した顔立ちなのに、気配だけで分かる。
たぶん――今までのどの相手より強い。
身体が、無意識に距離を取ろうとしている。
ジェーンは開幕と同時に、すっと片手を上げた。
……なんだその構え。まさか秘奥義――。
「降参します!」
……はい?
会場全体がぴたりと固まる。
時間が、一拍遅れて止まった。
「えっ、ジェーンさん? 降参って負けって意味で合ってます?」
メアリーが素で聞き返す。
「はい。この人の戦い方……ずっと見てましたが……生理的に無理です。
触りたくも、触られたくもないです」
それだけ言って、颯爽とリングアウトした。
恐怖でも、怠慢でもない。
明確な“拒絶”だった。
「衝撃の展開ですが、優勝者は……変態野郎です!」
一瞬の静寂のあと、会場はブーイングの嵐。
いや俺悪くないよな!?
“生理的に無理”は普通に傷つくぞ!?
理屈じゃない分、いちばん効く。
なんだろう……なんでだ……勝ったのに負けた気がする。
✡
「優勝した変態野郎さんに、エアリー王女様よりトロフィーと“天頂の星”の称号が授けられます!」
メアリーの掛け声と共に、エアリー王女がスカートの端をつまみ、可愛らしく歩み寄ってくる。
「冒険者さん。またお会いしましたね」
上品な微笑みがまぶしい。
……か、可愛い……!!
疲れ切った精神に、直撃だった。
脳内で鐘が鳴った瞬間――
「貴様ァァァ! うちの娘に何かしてみろ……ぶっ殺すぞォ!」
王様、その言葉もう完全にフラグです。
「あっ――」
エアリーがメアリーからトロフィーを受け取り、こちらへ渡そうとした瞬間。
スカートの裾を踏み、前のめりに――
ふわりと甘い香り。
柔らかい衝撃が、唇に走る。
エアリー王女が俺を押し倒す形で――唇が重なった。
狙ってない。誓って、狙ってない。
王女は真っ赤になり、震えながら自分の口を押さえる。
「わ、わたし……っ」
そのまま走り去った。
静寂。
誰も、フォローしない。
そして王様の背後に立ち上るドス黒いオーラ。
終わった……俺の人生。
わりと本気で。
気付けば兵士に取り押さえられ、会場では即座に処刑台が組まれる。
誰も止めなかった。
それが、答えだった。
天頂トーナメント優勝者がそのまま死刑送りは前代未聞らしい。
「いや待ってください王様! 今の完全に事故でして――!」
「申し開き無用!
娘を傷物にしおって……万死に値するわ!
貴様には吊るし首と斬首の刑で二回死んでもらう!
せめてもの情けだ。“天頂の星”の称号だけは墓場まで持っていくといい!」
情けの方向性ズレてません!?
いや、情けはあるだけマシなのか?
案の定というか、予想通りというか――
吊るし首では縄が途中で千切れ、
斬首では“心地よい刺激”とともに刃が折れて飛んでいった。
いつものやつだ。そろそろ驚く気もなくなってきた。
一応は死刑執行済みとして俺は解放された。
また一人に戻った気がした。
✡
謎の喪失感を抱えながら、アグリアスの家へ帰る。
――アグリアス、大丈夫かな。
笑えない夜が、あとを引く。
「ただいまー……」
明かりのない部屋は静まり返っていた。
寝室……いやベッドそもそも無いからな、ここ。
「うにゃあん!」
うおっ! ネコショウが胸に飛び込んでくる。
生きててよかったと、心底思った。
「…お前、待っててくれたのか…。
アグリアスの居場所、わかる?」
「うにゃ!」
YESかNOかわからんが、ネコショウが家を飛び出して走り出す。
「ついていけってことか!」
少し走ると、こじんまりとした可愛らしい平屋が現れる。
緑の屋根に植物の飾り。
持ち主の趣向が窺える。
そのとき――
「ぐふふふふ……お姉様の下着姿……ぐふふふふ……」
開いた窓から卑しい声。
口調は異なるが聞き覚えがありすぎる。
誰かは察したが、念のためそっと覗く。
そこには、寝苦しそうに下着姿で寝ているアグリアス。
そして――
その胸元に頬ずりしながら、同じく下着姿のカサンドラ。
「何やってんのお前……」
ツッコミに反応してカサンドラがこちらを見る。
「きゃあああああああ!!」
町中に悲鳴が響き渡った。




