理由?
――同時刻。
デュナンの前に、血徒の第一位ゼフォンと謎の女が不敵な笑みを浮かべている。
隣でアグリアスとセピアも臨戦体制に入る。
「あの……アグリアス騎士団長……。
リョウカさんに退魔の剣を渡したから、武器がなくて……」
セピアは言いづらそうにアグリアスの顔色を伺う。
「そうだったな。忘れてたよ」
アグリアスが聖剣クラリウスの柄に額をつけ、祈るように目をつむる。
「覇光斬・剣製……」
アグリアスの祈りと共に、セピアの手に金色に輝くレイピアが顕現する。
「それでしばらく戦ってくれ!」
セピアは光のレイピアに目を輝かせている。
「凄いです……軽いですよ!」
相手はこのやり取りの間も仕掛ける気配を見せない。
まるで、時間を稼ぐことそのものが目的のようだ。
「さあ、時間が惜しい……始めようか!」
デュナンの合図と共にゼフォンが手をかざす。
突如、デュナンたちを囲むように、血の棘が出現する。
棘同士が互いに結びつき、人一人はおろか、獣すら通れないほど密集していた。
「血の円卓」
血の棘は鋭さを増し、全方位からデュナンたちに襲いかかる。
――フッ。
一瞬、風が舞う。
次の瞬間には血の棘はかき消されていた。
デュナンの目の輝きは軌跡が残るほど輝きを増し、周囲の大気が纏わりついている。
まるでデュナンを中心に世界が渦巻いているようだ。
「ちょっと、総帥――あの化け物どうにかしてくださいよ」
「ゼフォン。私のために死んでくれ――」
「こんな状況で、そのノリは止めてくださいよぉ」
総帥の冗談とも本気とも取れる言葉にゼフォンは頭を抱える。
「ならば――」
ゼフォンが空に手をかざした。
「剣雨!」
直後、真っ赤な剣が雨のように空から降ってきた。
ザンッ!
しかし、デュナンの一薙ぎで降りしきる剣の雨をかき消す。
「ぎゃー! デュナン様、わ、私、キュン死してしまいます!」
「まったく、セピア……お前は欲望に従順なやつだな」
アグリアスは溜め息を漏らす。
「神依……加護者が自身の神や精霊を降ろす力……まさかここまでとは……」
総帥と呼ばれた女は感心したように声を漏らす。
「どうやら、私の出番はなさそうだな……」
アグリアスが前を見据えた瞬間――
デュナンが手を振る。
――鎌風と共に景色が両断される。
軌跡上にいた総帥とゼフォンも両断される。
「呆気なかったな……」
圧倒しているにも関わらず、デュナンの顔色が少し蒼白く、呼吸も浅くなっていた。
「油断大敵だねえ……」
突如、セピアの足元から無数の血の棘が噴出する。
「危ない――!」
アグリアスはセピアを庇うように押し飛ばす。
無数の棘がアグリアスの体を掠める。
「アグリアスさん!」
デュナンが背後に目を向ける。
「大丈夫だ……致命傷ではない……」
「すみません。アグリアス騎士団長……」
セピアも慌てふためく。
両断されたはずの総帥とゼフォンは血の液体となって、形が崩れる。
「血の分身か――器用だな」
デュナンは敵の位置を探る。
直後、デュナンの片耳の羽飾りが風向きと反して揺れる。
「アグリアスさん……どうやらステラがピンチのようだ。ここは任せてもいいかい?」
デュナンは心配そうにアグリアスを見る。
「ああ、まだ見せ場には足りてないとこだ」
アグリアスは自信満々に剣を構える。
「ええ、デュナン様、私たちは騎士です。守ることを優先してください!」
セピアも傷付いたアグリアスを支えるように立つ。
デュナンは一礼だけして、風のように消え去る。
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既に戦が始まってから、かなりの時間が経過している。
陽動部隊の西口の山道では、爆発音が轟く中、ステラとネコショウ(化け猫モード)、そして騎士たちが赤い血の獣と交戦していた。
「けけけ、俺の獣たちの力はどうだ?」
ステラたちの前方に、赤く尖った髪の青年が、尖った歯をむき出しにして一方的な虐殺を楽しんでいる。
ドンッ!
次の瞬間、戦場全体を呑み込む爆炎が弾ける。
「きゃあ!」
ステラの耳に、騎士たちの悲鳴が重なって届く。
「ったく、お前のやり方はまどろっこしいんだよ」
青年の隣に厳ついスキンヘッドの大男が立つ。
上裸で、綺麗な筋肉が存在を際立たせている。
「ったく。ガイアのおっさん。爆発なんてさせたらあっという間に楽しみが終わんだろ?」
「ほら、あそこならまだ遊べそうだぞ……」
ガイアと呼ばれた大男が地べたに這いつくばるステラを指さす。
「ハハハ、確かにあいつは食いがいがありそうだ!」
赤頭の青年はステラの前に跳んでくる。
「こいつは美味そうだ」
男はステラの腕を掴み舌舐めずりをしている。
「や、やめて……」
ステラは指先が震えるだけで、短剣を握れない。
もはや抵抗する力は残されていなかった。
「にゃおん……」
化け猫モードのネコショウや他の騎士たちも先ほどの爆発で既に虫の息だ。
「きゃああ!」
赤頭の男がステラの腕に噛みつく。
「ハハハ、いつ聞いても女が生きたまま食われる姿は興奮するね……その綺麗な顔も歯型で埋め尽くしてやるよ!」
「ひ、や、やめて……デュナン……助けて……」
ステラが涙をこぼす。
その瞬間、風が凪いだ。
無風にも関わらずステラの片耳についている羽飾りが揺れている。
まるで、対になるもう一方を呼ぶように。
――次の瞬間、赤頭の男が突風と共に吹き飛ばされる。




