東の空へ?
テウザ山、山頂に灰色のローブを着た三人の血徒が並ぶ。
直後に空からセピアを抱えたデュナンが降ってきた。
「やあみんな、お待たせ!」
相変わらずキザな奴だよ、まったく。
「まさか、魔法陣が崩されるとは……」
ウェーブがかった白髪の痩せた中年の男が先頭に歩み出る。
「俺の名は血冠の徒、第一位、赤雨のゼフォンだ」
「……」
その横に見覚えのある少女が立つ。
地面まで垂れている長い黒髪。
凛として整った顔立ち。
感情の窺えない赤い瞳。
忘れもしない。ダイダスとネリルを殺した、あの女だ。
「あいつ……!」
セピアが歯を食いしばりながら前に出る。
「セピア、待て!
俺も気持ちは同じだ。だが今は迂闊に手を出すな」
俺はセピアを片手で制す。
「ちょっとウリアナちゃん。俺も名乗りを上げたんだから、キミが続かないと恥ずかしいじゃん?
あれ、なんかあいつ一人だけカッコつけてね?
ってなるじゃん」
ゼフォンと名乗った男は突然、慌てふためく。
「……」
ウリアナはなおも無言で無表情だ。
「ああ、いいのっかなぁ。
おじさん傷ついちゃったなぁ……」
ゼフォンとかいう男、行動が読めない。
少し、不気味な男だ。
「ふふふ、まあまあ。落ち着きなさい。
ガーザック様が降臨なされた。
もう、我々の悲願は成就したも同然……」
真ん中に立つ宗教の教祖みたいな女が口を開く。
彼女は、目元が完全に隠れる深い被り物をしていた。灰色のローブと同じ色合いで、視線の行き先は一切わからない。
顔の上半分を覆われているはずなのに、
なぜか「見られている」と錯覚させる不気味さがある。
「少し、お話しませんか?」
真ん中の教祖みたいな女がこちらに話しかける。
「確か作戦では瞬殺した方がいいんですよね?」
ジェーンが女の言葉を無視して、アグリアスに尋ねる。
「ああ、行ってこい!」
次の瞬間、目の前のジェーンが消える。
直後、ジェーンの蹴りがウリアナの横腹を捉え、土煙と共に蹴り飛ばす。
あまりの速度にその場の誰一人反応できなかった。
ジェーンは教祖の女とゼフォンの隣で悠々と話す。
「私、一度あの子を逃がしてるから。私が倒すわ」
そう言ってジェーンは蹴り飛ばしたウリアナの元へ駆ける。
「ちょ、ちょっとなんなのよあの化け物?」
ゼフォンは目を見開きながら、こちらに尋ねる。
「俺の可愛い師匠だよ」
俺はゼフォンを睨む。
「私もジェーンさんのところに行きたいけど、我慢する」
セピアは退魔の剣を構える。
そうだ。復讐心よりも今はこいつらを倒すことに専念しよう。
「ねえ、ねえ? りょうか?
がーざっく……ここにいないよ?」
アリスがとんでもないことを口にする。
「えっ、どういうことだ?」
アグリアスはアリスに詰め寄る。
「あらあら。バレてしまったのね。その子目隠ししてるのに凄いわね。あと、やっぱりその男のせいで予知にズレが生じてるわね」
教祖の女は俺を指さす。
「もしかして、ガーザックは王都か?」
デュナンが鋭い声と共に教祖の女を睨む。
「だとしても、もう間に合わないわ。
王都まで寝ずに走っても三日はかかるわよ」
女の口元が歪む。
デュナンの深緑の瞳が黄緑色に発光する。
周囲の大気が渦巻き、風が吹き荒れる。
「わあお! すごいねそれ!」
ゼフォンは目を輝かせている。
「風精霊の神依ね……ゼフォン……気を抜くと殺されるわよ」
「ははは、それは願ったり叶ったりだよ」
ゼフォンが手をかざすと、アグリアスがクラリウスを構え先頭に立つ。
「邪魔はさせん!」
「セピアさん、アリスちゃんに退魔の剣を持たせて!」
デュナンからの指示が飛ぶ。
「え、どうしてですか?」
「いいから、時間がない!」
「わかりました。強引なデュナン様も素敵っ……」
セピアの目はこんな時でもハートになっている。
セピアは急いでアリスに退魔の剣を握らせる。
「リョウカくん、アリスちゃんを抱っこして!」
「え、ああ……」
俺も状況を飲み込めていないがアリスを抱き抱える。
「リョウカくんそのまま、東を向いて!」
本当によくわからないまま、デュナンの指示に従う。
「絶対、退魔の剣には触れないでくれ。
リョウカくんの加護が打ち消されたら死ぬよ?」
「え……なんか、さらっと怖いこと言ってないか?」
「アリスちゃん、しっかり剣を握っててね!
リョウカくんはアリスちゃんを離さないように!
じゃあ、いくよ!」
何だか嫌な予感がする。
「ちょっと待ってデュナン――っうわぁぁ」
背中に衝撃が走る。
俺の背中に高密度の風がまとわりつき東の空へ打ち上げられる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
まさかデュナンの奴、このまま王都まで俺とアリスを飛ばす気か?
いくらなんでも遠すぎるし、無茶苦茶だろ!
――東の空へ、二人の男女が駆けるのだった。




