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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
八章 静養編

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作戦会議?

あれから王都には一度も陽の光が差していない。


たった数日で、赤い雨は洪水と疫病、飢饉をもたらした。

回復魔法の希少なこの世界ではもはや一刻の猶予も残されていなかった。


エアリー陛下からガーザック復活と討伐のお触れがバルフォネア王国全土に行き渡った。


「皆さん。罠だと分かっていても、行くしかありません……」


エアリー陛下は悲痛な面持ちで命令を下す。


ガーザック討伐に向けて、 

俺、アグリアス、デュナン、ネコショウ、ステラ、ジェーン、セピア、そしてなぜかアリスも加わることになった。

これに加えて、百名ほどの騎士団が俺たちの指揮下に入る。


「みんな気をつけてね……」

ミザリアは不安そうに手を振っている。


薬草学に明るいミザリアは王都に残り、疫病の患者への対処を担うことになった。



――五日後、俺たちはようやく、テウザ山脈の西口の麓まで到着した。


空には赤く輝く巨大な魔法陣が描かれていた。


赤い雨に体力を削られながらも、俺たちはなんとかたどり着いた。


そこから更に一日かけて、テントを建て、本格的な野営地を作り上げた。


――夜中、テントにて作戦会議を行う。


「やはり、風精霊シルフの加護がある僕でもあの雲は消せない。術者を討つしか、なさそうだね」

デュナンは濡れた髪を風魔法で乾かしながら溜め息をつく。


「どのみちガーザックは倒すしかないですけど、山の状況が少しでもわかれば、いいんですけど……」

ジェーンは顎に手を当てて考え込んでいる。


俺は口を開いて提案する。

「ジェーンさえよければ適任者がいるんだけど……」


「もしかして、捕食者ハウンドですか?」


俺はコクリと頷く。犬笛を吹けばあいつが来るはずだ。

あいつのことだ。テウザ山が占領されてても逃げ延びているはず……信頼はしてないが、狡猾さに関しては信用している。


「わかりました。今は私怨は心の内に秘めます」


「みんなも異存はないか?」


「ジェーンが堪えてるんだ。私らが反論する訳にもいくまい」

アグリアスに同意して皆、頷く。


俺は犬笛を懐から取り出し、吹こうと咥える。


「お呼びでしょうか?」

まとわりつくような声が背後から響く。


「う、うぉっ!?」


振り向くと、赤い痩身の人狼が卑しい笑みを湛えて立っていた。


「お前、まだ吹いてないだろうが!」


「そろそろお呼びがかかるのではと、頃合いを見て伺ったのですが?」


「五秒は早かったよ!」


「こいつが……捕食者ハウンド……」


俺とのやり取りを見て、セピアが声を漏らす。


「そっか、セピアは捕食者ハウンドに会うのは初めてだったね」

ステラは話を振りつつも、ジェーンの様子を窺っていた。


「これはこれは、麗しいお嬢さん。私は捕食者ハウンドと申します。以後、お見知り置きを……」


魔物とは思えないぐらい丁寧に挨拶をする。


ジェーンは怒りを押し殺そうと、必死に拳を握りしめている。


捕食者ハウンドさん。早速本題に入りたいんだけど?」

デュナンの言葉に捕食者ハウンドは頭を下げる。


「かしこまりました。レオンハート公。

まず、テウザ山の状況ですね。謎の赤黒い魔物が跋扈ばっこしているようです」


一呼吸おいて捕食者ハウンドは続ける。


「そして山頂には、血冠けっかんの徒の総帥と第一位、第二位……暴君ガーザックらしき者が拠点を構えています」


「らしき者? 随分歯切れの悪い説明だな」

俺もアグリアスと同じ点が引っかかった。


「なんと言いますか……赤い甲冑は確認したのですが、随分大人しいといいますか。ま、私の思い過ごしかもしれませんのでお気になさらず」


そう言われると、ますます気になるが……。


「おーい! 腹へったぞ! おーい!」

アリスが地面をゴロゴロ転がりながら飯を催促する。


「アリス、もう少し待てって……」

俺はアリスを抱き抱え膝の上に乗せる。


「ほほう、最恐のアリス……ですか。まさか魔王軍幹部まで手懐けているとは。これは、将来、良い父親になりそうですね」

捕食者ハウンドは斜め上の感想を述べる。


「リョウカ……」「リョウカ様……」

アグリアスとネコショウが何故か縋るようにこちらを見ている。


「リョウカくん……ぐっ!」

何故かデュナンもそこに加わるが、すぐにステラにお灸を据えられる。


「それで、作戦はどうしますか? 

テウザ山周囲から分断して攻めますか?」

ジェーンは緩い雰囲気に呑まれずに話を進める。


「それに関しては私から案があります」


「さすが捕食者ハウンド、用意周到だな」


「お褒めに預かり光栄です。戦力を二部隊に分けます。まずは、私の狼たちが、テウザ山の周囲を奇襲します。

本命ではありませんので、あくまで広く浅く撹乱します。

次に雑多な騎士たちを、あなたたちのうち二名ほどが率いて、西口の麓から頂上を目指します。

数が多いため、相手の目には、撹乱からの一点突破に見えるでしょう」


誰もここまでの説明で捕食者ハウンドに異議を唱えない。

それほど筋が通っていた。


一呼吸おいて、捕食者ハウンドは続ける。


「山の麓から山頂にかけて残りの血徒たちが点在しています。こいつらが西口の兵を意識しているうちに、レオンハート公の風魔法で、数名の主力メンバーと共に山頂の拠点まで、ひとっ飛びして、最短最速で、ガーザックを討ちましょう……血徒がどれだけ生きていようが彼さえ倒せば、ひとまず、我々の勝利です」


「山頂の襲撃が長引けば長引くほど、西口のメンバーが不利になるということだな」

アグリアスは作戦内容を理解して補足する。


「その通りです。皆さんの場合、その方が燃えるでしょう?」

捕食者ハウンドは全てを見透かしたように笑う。


「おなかー! すいたー!」

アリスが我慢できなくなり、膝の上で暴れ出す。


「まったく、お前はなんで、ついてきたんだよ……」


「さて、作戦は明朝。夜が明けてからにしましょう。暗闇では敵が有利すぎる」

捕食者ハウンドの指示のもと作戦が決まる。



捕食者ハウンドはガーザックを倒したいという点では利害が一致している。

彼も最善を尽くすだろう。


――日は沈み、俺たちは最後の戦いへ準備を始める。

一抹の不安を抱えながらも……。

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