デスボール?
早朝、クリステラの領主が王都の城門をくぐる。
「よう! デュナン、ステラ!」
二人と会うのは約一ヶ月ぶり――結婚式以来だ。
「出迎えありがとう。
リョウカくんもそろそろ僕の妻にならないか?」
「まったく、お前は相変わらずだな……」
「デュナン、正妻の前で、他の女……いや男を召し抱えようとするなんて。世界のルールが許しても私は許さないわよ」
デュナンの隣のステラが殺気を飛ばして睨んでいる。
「ははは……ステラ、冗談じゃないか……」
デュナンの笑顔が引きつっている。
「ステラ、俺は女の子が好きだから安心しろ」
懐かしいやりとりをしながらも城内へ向かう。
「あ、デュナンさん! ステラさん!
お久しぶりです!」
エアリー陛下は年相応の反応で二人に手を振る。
「エアリー陛下、しばらく見ないうちに大きくなったんじゃない?」
ステラは軽くお辞儀をする。
「エアリー陛下、お久しゅうございます。
この度はこのような会にお呼びいただき誠にありがとうございます」
デュナンはかしこまった貴族礼で深々と頭を下げる。
「ふふ、デュナンは相変わらず真面目ですね」
その後、騎士団長アグリアス、副団長セピア、魔女ミザリア、近衛兵ジェーン、女神タチアナ、魔王軍幹部アリスも続々と参加して、朝から宴会が始まった。
メイドのネコショウ、ハルカ、
そしてもう一人――ゆるふわ系の茶髪のメイドが次々と料理を運んでくる。
こうして一年ぶりに仲間全員と新たな顔ぶれも揃い宴会が始まった。
「こうして見ると随分大所帯になったな」
――ここにリザリー……
そして、カサンドラがいたらどれだけよかったか。
もう、二度と揃わない顔ぶれもある。
そんな当たり前の事実を、俺は一瞬だけ噛みしめた。
過去に想いを馳せていると、酒に酔ったミザリアが突然、大きな声をあげる。
「さてさて、皆さん宵も深まってきましたが、ここでデスボールを始めたいと思います!」
「「いえーい!」」
宵ってまだ朝だぞ……
なんか、勝手に盛り上がり出したな。
このノリ、料理当番決めをしたステラコラサスを彷彿とさせる。
ミザリアが人数分の一口大の丸い卵を持ってくる。
「この中に一つだけ当たりの激辛エッグが混ざっているわ。
さあ、みんな!一人一つずつ選んで食べて!
それと激辛の当たりを引いた人はなんと、
指名した人から、蜂蜜よりも甘いサテランジュースを口移しで飲ませてもらえるわよ!」
「「いえーい!」」
何故かみんな大盛り上がりだ。
なにが、そんなに楽しいんだよ。
デュナン以外の口移しなら嬉しいけど、
そもそも激辛エッグなんて食いたくねえよ。
俺は、少し距離をおいて物陰に隠れた。
正直今いるメンバーで勝手にやってくれ。
パクっ。
俺抜きでメイドも含めた全員がエッグを口にした。
「………」
誰もなにも反応がない。……嫌な予感がする。
「誰も……ひっく……激辛エッグに当たってないのか?」
既にベロベロのアグリアスが首をかしげる。
「あれ、でもここに一つ余ってますよ」
ハルカが最後のエッグを手に持った。
「あそこに食べてなさそうな人が隠れてます!」
っち、ネコショウ余計なことを……。
「者共、捕らえなさい!」
エアリー陛下もノリノリで指示を出す。
「や、やめてくれ……」
アグリアスが俺の背後に周り羽交い締めにする。
「ふふふ、リョウカ……逃さんぞ!」
「にがすなー!」
アリスも俺の足元に飛びつく。
「……仕方ないですね」
タチアナが最後のエッグを持って俺の口に無理やり押し込む。
「ぎゃあああああ!」
熱い、痛い、辛い!
喉が焼ける。視界が揺れる。
これ、本当に食べ物か?
拷問用の兵器じゃないのか?
今ならドラゴンにも負けないぐらい火を吹けそうだ。
あまりの辛さに俺は絨毯の上をのたうち回る。
「頼む……サテランジュースを口移しで……」
せっかく辛い思いをしたんだ。
ご褒美がないと割に合わん。
「私がやります!」
エアリー陛下が手を上げる。
「なにおう。私だって」
アグリアスも名乗りをあげる。
「私だって……リョウカさんに飲ませたいです!」
ネコショウも尻尾を上げる。
「わ、私たちも!」
ハルカともう一人のゆるふわ系のメイドも立候補する。
「ぼ、僕も――ッ!」
デュナンは挙手した瞬間にステラのヘッドロックによって落とされた。
「あらあら、リョウカさんモテモテね」
ミザリアが悶絶する俺の隣に屈んで耳打ちする。
「な、誰でもいいから、早く決めてくれ……辛すぎる……」
「みなさーん!
リョウカさんが誰でもいいって言ってますよー!」
ミザリア、余計なことを――。
「最低ね」
セピアがボソッと罵る。
「アグリアスさん。誰でもいいなんて言う人より、もっと素敵な殿方が見つかりますよ?」
「いえいえ、お言葉ですがエアリー陛下こそ、こんな薄汚い近衛兵よりも、諸侯の方が相応しいかと思いますが?」
エアリー陛下とアグリアスは謎の牽制を始めた。
お前らのやってることは毒に苦しむ仲間の前で、
誰が治療するかを言い争ってるのと同じだぞ。
そう、訴えたかったが、もはや声すら出なくなった。
「みなさん、さすがに飲ませないとリョウカさんが可哀想ですよ!
私は気持ち悪くて無理ですけど」
さすがジェーン、最後の言葉さえ無ければ天使だ。
「まったく、仕方ないですね……」
女神タチアナが、片手でサテランジュースの入ったグラスを口に運び、口いっぱいに含む。
タチアナはうつ伏せに倒れている俺の顎をくいっと上げる。
周囲の仲間もその光景に息を呑む。
――あ。
ゴクッ――。
次の瞬間、タチアナは口に含んだサテランジュースを自分の喉に流し込んでしまった。
「あ……。すみません、おいしかったので飲んでしまいました……」
俺は絶望と喉の辛さと共に目の前が真っ暗になった。




