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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
八章 静養編

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友?

体術においてジェーンの右に出るものはいない。


――テウザ山。

かつてはバルフォネアの魔窟とまで呼ばれ、古くから罪人の流刑地とされてきた。


龍災とも呼ばれたテウザ山の主、スケイルドラゴンを討伐すれば、罪人の罪は贖われるとのことだ。


当時は罪人がただ送られ、死にゆく場所となっていたが、ジェーンの高祖父がテウザ山に拠点を築き、流刑者を助け一つのコミュニティを形成した。


彼らの目的はただ一つ。スケイルドラゴンを討伐して、晴れて自由の身になること。


しかし、そんな目的とは裏腹に、バルフォネア王国は流刑地に送られた罪人の把握はしていなかった。

なぜなら流刑地から生きて逃げ延びた者がいなかったからだ。


テウザ山で生まれたジェーンは幼少期から魔物との戦場に身を置いていた。


魔物を殺し、魔物を喰らう。

彼らに求められるのは純粋な力だけである。


仲間が、家族が日常的に死にゆく環境で、

彼女の心は死に対して動じなくなっていった。


テウザ山で育ってきたジェーンは王都の民とは根本的に価値観が違うのだ。



「ジェーンちゃん! 今日も修行なの?」


王都の中庭で型の練習をしているとミザリアが声を掛ける。


「あっ、ミザリアさん! 

はい、修行以外にすることなんてないですから……」


「そう……」

快活に返事をするジェーンとは逆に、ミザリアは少し歯切れの悪い返事をする。


「ジェーンちゃん! 

お昼ご飯でも食べに行かない?」


「えっ、いいんですか!」


「ええ、行きましょ!」

ミザリアはジェーンの腕に絡みつき楽しそうに引っ張っていく。


ジェーンにとって、同年代の友と呼べる存在はステラだけだった。

ただ、ステラも一年前の戦争後はクリステラに滞在しており、ジェーンと会う機会も減っていった。


二人の関係は、ステラがテウザ山の近くで魔物に襲われていたところをジェーンが助けたところから始まる。


初めてできた同年代の友達。

ジェーンは言葉にこそしなかったが、

ステラと出会ってから笑顔が増えた。



王都の中央通りから一本外れた場所に、そのカフェはあった。

白い石壁と木枠の窓。派手な看板はなく、硝子越しに見える柔らかな灯りが目印だ。


扉を開けると、甘い蜂蜜の香りがふわりと鼻をくすぐる。

木製の丸テーブルが等間隔に並び、午後の客たちは皆、どこか穏やかな表情をしていた。


「ミザリアさん! 

これ、めちゃくちゃ美味しいです!」


ジェーンは王都で有名な蜂蜜パフェを頬張る。

背の高い硝子器に、軽く焼いたビスケット、生クリーム、季節の果実。その上から、とろりと黄金色の蜂蜜が惜しげもなくかけられている。


「ふふっ、喜んでもらえてよかったわ。最近、みんなで集まることって減ってきたじゃない。

だから、私も少し寂しいのよね……」

ミザリアは頬杖をついて、ガラス窓から通り行く人々を見る。


「そうですね。私もステラと会えなくなってから、顔を合わせるといえば、あのリョウカさんぐらいですから……」


「そういえば、ジェーンってなんでリョウカに触れると気分が悪くなるのかしら?」


「それが、私もよくわからないんですよね……」


ジェーンがリョウカを生理的に受け付けないのは明確な理由がある。


テウザ山では法やルールなんて存在しなかった。

そのため、性に関しても奔放であった。


ジェーンは幼少期からそのことを目にしていたせいか、嫌悪感を覚えている。


ラッキースケベの加護を得ているリョウカは、

性の権化そのもの。

また、彼の時折垣間見せる言動がジェーンは基本的に体が受け付けないのだ。


ただ、ジェーンはリョウカのことを友だと思っている。

体は拒絶反応を示しているが、心は許しているという非常に稀有な例だろう。


「ま、仲間同士でも適度な距離感って必要だから――無理に解決する必要もないと思うわ」

ミザリアはパフェを頬張りながら、恍惚な表情を浮かべている。


「そうですね。必ずしもそばにいることが、仲間とも限りませんからね。離れていても心は通じ合ってますから!」


「ふふ、ジェーンちゃんって男前ね。惚れてしまいそうだわ。

――あの変態にもジェーンちゃんの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいわ」


「爪の垢を煎じて飲ませる……

王都にはそのような男女の、その……交流があるのですね」

ジェーンは言葉を選びながら喉を鳴らす。


解釈違いをしているジェーンを見てミザリアは再び笑みをこぼす。


「ふふ、そうよ。世の中広いからね。

いろんな人がいるのよ」


そこから二人はパフェを頬張りしばし、沈黙が続く。


一通り食べ終わるとミザリアが口を開く。


「仲間が死ぬのって、つらいわよね……」

更に一拍おいて続ける。

「――でも、本当につらいのは、失うことに慣れてしまうこと……」


ジェーンにはその言葉の意味がよくわかる。

カサンドラが戦死した時にジェーンは何も感じなかった。


彼女は仲間だ。でも、今まで多くの死を経験してきたジェーンからすれば、仲間の死など日常だった。


「ミザリアさんも多くの死を経験してきたのですね」


「ふふ、ごめんなさいね。暗い話になって……」



日差しが照り返すなか二人は帰路につく。


「ミザリアさん今日はお誘いいただきありがとうございました!」

ジェーンは黒髪ボブヘアーを大きく揺らしながら手を振る。


「ふふ、またね」

ミザリアも癖のある赤黒い髪を肩にかけながら、

軽く手を振った。



――この残酷な世界で仲間との距離が確かに存在していると知った。

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