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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

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熱波の魔女?

コルデオを出て、俺はアグリアスを涼しい場所へと運ぶ。


会場の熱気が嘘のように遠ざかり、現実が一気に押し寄せてくる。


「アグリアス!」

名前を呼んでも、彼女はぐったりしたまま反応がない。


「わたくしが癒しますから……あなた、もういなくていいですわ」

カサンドラの冷たい言葉が胸に深く刺さる。


アグリアスを心配する気持ちは同じなのに…

どうしてこうも拒絶される。


「お、俺……水をもらってくるよ!」

逃げるように井戸へ走り、桶いっぱいに水を汲んで戻る。


何かせずにはいられなかった。


アグリアスはすでに緑色の光に包まれ、治癒の魔法が施されていた。


カサンドラは目を合わせず、ぽつりと漏らす。

「ありがとう……でも、わたくし、あなたのことは嫌いですの」

その言葉は鋭い刃のように胸に刺さる。


怒鳴られるより、ずっと痛い。


「お姉様は、一度たりとも……わたくしですら部屋に招いてくれたことなんてありませんのよ。それなのに……あなたみたいな得体の知れない人を招き入れて……それに、あんな体勢で……」


そこでカサンドラの声が震え、涙が一粒こぼれ落ちた。


嫉妬と怒りと、独占欲。

どれも、否定できないほど正直な感情だ。


……確かに、あの部屋では誰も呼べない

——とは、口が裂けても言えなかった。


「王様からの命令だったから……仕方なかったんだよ」


カサンドラはキッと睨む。

「あなた、呼ばれてますわよ」

会場からメアリーの怒鳴り声が響く。


「行きなさい……あんな女に負けたら許しませんわよ!」


「……わかった。行ってくる」

カサンドラの叱咤に背中を押され、俺は拳を握りしめた。

 

アグリアスをここまで痛めつけられて、

怒らないほど人間できていない。



「ったく……遅いわよ。早くしなさいっての」

会場に入るなり、メアリーが開口一番、悪態をつく。


「すみません」

頭を下げると、目の前には全身赤ずくめの魔女――ミザリア。


にこりと作り笑いを浮かべ、手を振ってくる。


その笑顔の裏で、アグリアスが倒れた。

それだけで、十分だ。


胸の奥に残った言葉を、拳ごと握り潰した。


「それでは準決勝を始めます!

熱波の魔女ミザリア!

対するは……バルフォネアの変態!」


もう英雄の肩書きすら剥奪されている。

今さらどう呼ばれようと、関係ない。


「いざ、尋常に勝負!」

合図と同時にミザリアが宙へと浮き上がる。


「あなたの試合……見てましたけど。不気味ね」


「俺からしたら、あんたも充分不気味だよ」 

強がりだ。

正直、どう戦えばいいのか分からない。


「熱魔法・熱保管ヒートテック!」

地面が赤く輝き、結界内が一気にサウナ状態へと変貌する。

——アグリアスを追い詰めた魔法だ。


「あっ……あったかい……」

嫌なほど、身体が順応している。


なんだこれ……すごく気持ちいい。

温泉気分に浸ってると――。


「ひっ……!」

結界の外に逃げたメアリーが、俺の恍惚の表情を見て小さく悲鳴をあげた。


「…やっぱり、魔法が効かないのね?

気味が悪い男ね」

ミザリアは冷静に分析している。


効かない。

それが、彼女の神経を逆撫でしている。


「ならば――熱魔法ねつまほう上昇気流アップストーム!」


「うわっ!?」

熱風が吹き上がり、俺の体は空高く舞い上がる。

上空でミザリアと目が合った。


「物理攻撃ならどうかしら。死なないでね?」


殺す気だ。もう、勝負の範疇はんちゅうじゃない。

その笑顔と共に、俺は落下することになった。


「うわぁぁーーー!」

地面が迫る。

死ぬ……さすがに死ぬ……。


と思った次の瞬間。

――あっ、柔らかい。

石畳がまるで高級マットレスのように俺を優しく受け止めた。


……まただ。

俺の意思とは関係なく、都合のいい結果だけが残る。


だが、もし適応してなければ今頃俺は……。

足元の石畳を見てゾッとする。


「本当に気味が悪い……どうして無傷なの?」

ミザリアは顔を歪める。


「ならば……規格外の魔法を試してみようかしら?」

ミザリアは小悪魔的な笑みを浮かべる。


いやいや、それ大丈夫か?


「熱魔法・小太陽リトルサン


小さな太陽のような火球が結界上空に停滞し、灼熱の熱波が降り注ぐ。


結界の軋む音に、会場全体がざわついた。


……そして。

結界が、水飴みたいに溶け始めた。

さすがに、洒落にならない。


「ミザリアさん! それ以上はまずいです!」

メアリーの声が悲鳴に変わる。


観客が危ない……!

足元に落ちてた石を掴み、反射的に投げつけた。


狙っていない。ただ、止めたかった。


「……あっ、あぁぁん……!」

空から響く官能的な声。


狙った覚えはない。

だが、石は彼女の体勢を崩すには十分だったらしい。


狙った覚えもない。

ただ、手が勝手に動いただけだった。


直後、火球が消え、ミザリアが空から落下してきた。


「危ない!」

俺は飛び込み、彼女を全身で受け止める。

体を支えた瞬間、嫌な感触が手に残ったが――考える余裕はなかった。


状況を選べる力なんて、俺にはない。


「あなた……どうして……?」


「いや……死なれたら困るんで」

それだけだ。


怒りも、復讐も、既にそこにはない。

ミザリアは驚いたように目を見開き、そしてふっと笑った。


「あの高さから落ちたら、私もただではすまなかった……はぁ、降参よ。私の負けだわ」

その瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

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