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せっかく授かったラッキースケベが思ってたのと違う〜授かった瞬間に裏切られた〜  作者: 那須 儒一
一章 王都編

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念願叶い?

第一部 居場所を作る物語

どうやら俺は、死んだらしい。

――ただし、人生が終わったとは限らない。

そう理解するまでに、少し時間がかかった。


「コフク・リョウカ様。お待ちしておりました」

名前を呼ばれた瞬間、意識がゆっくり浮上する。


無機質な白い空間。

その中央に、胸元が大胆に開いた白いドレスを着た──女神様そのまんまな女性が立っていた。


エメラルドグリーンの瞳。

髪と同じ色合いのウェーブがふわりと揺れている。


「……俺は、死んだのか?」

この状況で生きている可能性を考えるほど、俺は楽観的じゃなかった。


どうせ俺の人生なんて、最後はこんなものだろう──そんな諦めの方が先に立った。


「左様でございます」

女神は貼りつけたような笑顔で、無機質に告げた。


「……それで?」

正直、驚きはなかった。

どうせこの流れは、そういう話だろう。

驚かない自分に、少しだけ安心しているのが分かった。


「ここは転生の場となります。

転生先の世界は魔王が支配中。

生存率を上げるため、あなたの望む能力を一つ授けましょう。くれぐれも前世のような無様な死を繰り返さぬよう」


無様って……言い方ひどくない?

女神の言葉と同時に、前世の記憶が嫌でも蘇る。



前世の俺は、少年時代に読んだラッキースケベ漫画に人生を狂わされた。


不可抗力を盾に女子へ触れ合い、絶対領域に侵入するあの主人公像。


あれに本気で憧れ、思春期をまっすぐ歪んで育った。今思えば、歪まないわけがない。


正面から好意を向ける勇気も、拒絶される覚悟もなかった。

だから、不可抗力は——俺にとって唯一許された逃げ道だった。


そんな俺は高校生活で──とうとうやらかした。

ある日、階段を上っていると、

上から憧れの女子生徒が下りてくるのが見えた。

スカート。

白い太もも。

その奥にかすかに見える白の三角地帯。


思春期全盛期だった俺は、一世一代の大勝負に出た。

わざと滑ったふりで、彼女の目の前で背中から階段を転げ落ちたのだ。

視線はスカートから一瞬たりとも外さない。

ほんの数秒だけ見えた純白を──脳の奥に焼き付けながら。


あの瞬間だけは、世界が俺を許してくれた気がした。


……そして、そこで意識が途切れた。

まさか、それが最後に見る光景になるとは思わなかった。



回想に沈む俺を、女神様はゴミを見るような目で眺めていた。


「……で、あなたの望む能力は?」


「ラッキースケベを授けて下さい!」


迷いはなかった。

これだけは、はっきりしている。

後悔はしても、憧れまで否定したくはなかった。


胸を張って断言した俺に、女神様は本気で軽蔑するような目を向けてきた。


直後、眩い光が弾け、視界は真っ白に染まる。

光が収まったが、特に変化なし。


……そうだ! 発動確認だ!

女神様も立派な女性だ。これは決してやましい意図じゃない。あくまでスキルの確認だ。


そう自分に言い聞かせる。


俺は女神様へ飛び込んだ。

しかし、その行動を完全に読んでいた女神様が手をかざすと、見えない力にぶん投げられた。


「いってぇ!」

土煙の中で目を開ける。


視界に飛び込んできたのは白い三角地帯。

そこから伸びる、太く逞しい筋肉質の脚――。

上を見上げると、ひげ面のオッサン。


……あれ? これ……ラッキースケベ?


「うわっ!」

状況を理解した瞬間、俺は跳ね起きた。


そこにはブリーフ姿で着替え中のオッサン。

俺に押し倒され、頬を赤らめている。


「ぎゃああああぁ!」

全速力で逃げ出した。


その後も、あらゆる人間にラッキースケベが発動。

老若男女、全年齢、全性別、対象外なし。常時強制発動。


この時点で、俺は理解した。

これは祝福じゃない——呪いだ。


望んだはずの力が、ここまで俺を拒絶するとは思っていなかった。


まともに交流すらできず、俺はいつの間にか人を避けるようになっていた。



誰とも会話できず、ただ途方に暮れる日々。


パンを咥えた美少女から中年男性まで、角から出てくる人は全て脅威。


FPSのクリアリングさながら、建物の角を一つひとつ慎重に確認する生活が始まった。


足音が聞こえただけで、思考が止まる。

顔を見る前に、体が拒否していた。


「……誰か助けてください」

嘆いても誰も助けてはくれない。


——生き延びるには、自分で何とかするしかない。


飢えた俺は、一日歩き回って拾ったなけなしの小銭を握り、酒場へと向かった。


丸二日、何も食っていない。

胃と背中が接触しそうだ。


そこへ、バニー姿のウェイトレスが近付く。


「止まれ! それ以上近付くな!」


「えっ?」

俺の言葉に完全にビビったウェイトレスが固まる。


「ど、どうされました……?」

距離を保ちながら、不審そうにこちらを見ている。

この距離なら発動はしない……はず。


「お嬢さん。それ以上近付いたら……怪我するぜ」


「は、はい……」

バニーガールは完全にドン引きしている。


今は、羞恥心よりも食欲だ。

空腹は、欲望よりもずっと正直だった。


ここで問題を起こせば、飯にありつけない。

それだけは避けたい。


「アップルパイで!」

距離を保ったまま注文する。


——しばらくして、ようやく飯にありつけると思った、その時――。


料理を運んできたバニーガールが、俺の前で躓いた。


皿を離れたアップルパイが、ゆっくりと宙に舞う。

――待ってくれ。俺のアップルパイ。


落下するパイを目で追う。

だが、俺の顔に迫ってきたのは別のパイ。

二つのたわわに実ったパイが、俺の顔面へ飛び込んできた。


……嬉しい。そりゃ嬉しい。

だが今は違うんだ。俺は飯が食いたいんだ……!

床に無惨に叩きつけられるアップルパイ。


横目で見ながら、俺は別のパイの柔らかさを味わう羽目となった。


それでも俺は、生きていた。

この呪いと共に生きるしかない以上、

俺は誰にも触れずに生き延びる方法を見つけるしかない。


それが、俺の異世界生活の始まりだった。

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