どっちが好き……?
魔法のiらんど『ありがとう またね、大好き』ショートストーリーコンテスト応募作品。
テーマ『浮気』
「俺と付き合ってくれ」
幼馴染の時也に告白されて、私は浮かれていた。
もちろん二つ返事でオッケーした。
時也は中、高時代はサッカー部のエースで、爽やかな黒髪短髪のイケメンだ。
今は同じ大学へ通っている。
――――その夜。
寝室で寝ていると、何やらゴソゴソと布団を弄る感触が。
「えっ!?」
見ると近所に住む三つ年上の慎也くんが、私の体の上に乗っかっていた。
「し、慎也くん!?」
「カオリ。愛してるよ」
慎也くんは甘い顔と声で、フェロモンを振り撒きながら誘惑してくる。
「ちょ、ちょっと駄目だよ! お父さんとお母さんに見つかっちゃう!」
「それがスリリングでいいんじゃない」
慎也くんの真ん中で分けた長い銀髪の前髪が私の額にかかってくすぐったい。
慎也くんは最近人気の出てきたバンドのヴォーカルをしていて、派手な顔立ちが人気のビジュメンでもある。
幼馴染の特権で時々ライブに招待してもらってたんだけど、最近は自分でチケットを買って参戦している。
人気が出てからは何だか遠い存在に感じる。近くで話したのなんて、もう随分前だ。
それが、何で今……?
わ。ヤバイ。慎也くんの顔が近付いてきて、私はそっと目を閉じて――――
ジリリリリリリリ
激しい目覚ましの音で、私はパッと目を覚ます。
「……え? 夢……?」
なんかちょっと惜しかったような……。いやいや! 私には時也がいるんだから、慎也くんのことなんか考えちゃ駄目!
気を取り直して、朝の支度をして家を出る。
「はよ」
「あ。おはよ」
時也が照れくさそうに、家の前で挨拶してくる。待ってくれていたみたい。
時也と並んで、駅までの道を幸せな気持ちで歩く。時也とは、たぶんずっと前から両思いだった。小学校、中学校、高校と全部同じで、すごく気が合っていたから。
意外と奥手な時也は、きっと今までに何度もチャンスを伺ってくれていたに違いない。
「や。カオリ」
突然後ろから声をかけられて、驚いて振り向く。その声が聞き覚えのある声だったから。
そこに立っていたのは慎也くんだった。
時也が警戒した表情で、歩道の真ん中に立つ慎也くんを見ている。
「俺も一緒していい?」
「駄目だ」
「なんで?」
「……何でもだ」
え〜、いいじゃーんと言って、慎也くんは無理矢理私たちの間に割り込んでくる。
今朝の夢といい、今日は慎也くんと縁のある日なのか。
慎也くんと時也は昔から気が合わないようで、仲が良いとは言えない。いつも私が間に挟まれて、バランスを取る役割を担っていた。
「慎也くん、何で」
「カオリ。明日のライブのチケット、あげる」
慎也くんはニヤリとして、時也を見る。
「時也も良かったらおいでよ」
二枚のライブチケットを差し出して、慎也くんは挑戦的な眼差しで時也を見ている。
「行かない。俺たち付き合うことになったから、もうカオリにちょっかい出すな」
時也は不機嫌そうに、チケットには見向きもせずに踵を返す。
「そ? 残念。じゃあね」
慎也くんは思いの外あっさりと引き下がって、私たちから離れた。
大学に着いて、時也と別れた後何気なしにバッグの中を見て、ギョッとした。
慎也くんのライブチケットが一枚、バッグのポケットに突っ込まれていたから。
(あの時……?)
慎也くんが別れ際に私のバッグに入れたのだろうか。わざわざ? そこまでしてライブに来て欲しいのか。
チケットを見ると、最前列の真ん中だ。
「嘘……」
私は思わず声を漏らす。こんなに良い席でライブを見れるなんて、これ以上の贅沢はない。
私は普通に慎也くんの所属するバンドの音楽が好きだ。だから、いけないと分かっていたけど、次の日、時也に内緒で一人、ライブに参加してしまった。
ライブが終わった後の楽屋。
まだ熱の抜けない体。
ステージで輝いていた慎也くんと体を重ねる私は、まだ夢の中にいるようで『この後目覚ましの音が聞こえますように』と願いながら、慎也くんの腕を掴む指に力を込めるのだった。