Episode5 カレーなる陽動作戦
(……ひとまずステータスの確認から、かなぁ)
いったん冷静さを取り戻すためにそう考えたボクは、レベルが上がったことでどれだけステータスが上がったのか確認するためにステータス画面を開く。
【ステータス】
・芹川優璃 Lv.6 EXP:520(次のレベルまで:110)
・SP :60/120
・MP :2,395/2,873
・攻撃力:1,169(+196)
・防御力:1,213(+5)
・魔攻力:1,432(+280)
・魔防力:1,344
・素早さ:1,257(+179)
【装備】
・殲滅の大鎌『タナトス』(覚醒)(攻撃力:+196、魔攻力:+280、素早さ:+174)
・白波高等学校の制服(防御力:+5)
・ローファー(素早さ:+5)
(あれ? なんか少し武器も強くなってる?)
前の数値を正確に覚えているわけでは無いので断言はできないが、前の時は200くらいしかなかった素早さの半分程度、つまり100くらいの上昇値だった気がするのでボクのレベルが上がるのに合わせて武器が成長している気がする。
そうなると、わざわざ武器を新調しなくてもずっとこのままの武器で戦い続けることも可能なのだろうが、おそらく【天地創造】の力を使えばこの武器を一気に強化することも可能(既存の装備を作り変えることで能力を向上させたり新たな効果を付与できることを確認済みだ)だろうからMPに余裕があればぜひ試してみよう。
(全体的にステータスは初期値のほぼ六倍だから、今の基礎値と補正値だと大体1レベルでMP以外の各ステータスが200近く上がる計算かぁ……。さっきのちょっと強そうなゴブリンも一撃だったし、もしかしてボクのステータスって異常に高い? それとも見た目だけでこの世界の魔物が弱いだけ、とか? ……うーん、わかんないなぁ。それに、SPが一気に40上がったってことは1レベルに上昇する値は8ってことで良いのかな? それともレベルに応じて高くなっていくパターン? ……そこもまだよくわかんないけど、さしよりMPを少しでも上げるために【賢者】を習得しとこ)
『【賢者】を獲得しました』
そのアナウンスと同時にMPの最大値が3,219まで上昇する。
(これで良し、と。……さて、まずはお昼を済ませてしまお)
そう決断したボクは再びイス代わりに使っていた倒木に腰を下ろし、中断していた昼食を再開すべくスプーンを持ち上げる。
だが—―
「エサダ! エサ!」
「オンナ! オンナ!」
「ウバエ! オカセ! コロセ!」
再び私の昼食を邪魔するように3匹のゴブリン(装備は先ほどの2匹とあまり変わらないが、一匹だけ色が赤い)が現れた。
「……………」
もはやゴブリンなど敵ではないと認識していたボクは、そのまま無言でスプーンを口に運びながらこちらに向かって来る3匹のゴブリンへ低燃費の魔力弾(【極光の賢者】と【漆黒の賢者】のレベルを均等に上げたいので光と闇を同数)を適当に打ち込み、一瞬にして戦闘を終息させる。
『経験値を682獲得しました。レベルが9に上がりました』
そのアナウンスを聞きながら、もはやリアクションを取るのも面倒くさくなっていたボクは食事の手を止めることなく頭の中で念じることでステータス画面を開く。
【ステータス】
・芹川優璃 Lv.9 EXP:1,202(次のレベルまで:148)
・SP :54/144 90消費
・MP :4,261/4,829
・攻撃力:1,754(+244)
・防御力:1,819(+5)
・魔攻力:2,148(+340)
・魔防力:2,016
・素早さ:1,885(+221)
【装備】
・殲滅の大鎌『タナトス』(覚醒)(攻撃力:+244、魔攻力:+340、素早さ:+216)
・白波高等学校の制服(防御力:+5)
・ローファー(素早さ:+5)
(やっぱり武器の性能が上がってる。そうなってくると、だいぶMPも増えたし武器を強化したりアイテムを増やす前に防具をもっと充実させた方が良かとかなぁ。そう言えば、【極光の賢者】と【漆黒の賢者】のレベルが上がったことでちょっとだけ魔法を出すまでの時間と消費MPが下がった、ような気がする……。とりあえず、今のとこ消費MPとか関係なしにその属性に対応した魔法で熟練度が上がるみたいだし、低燃費の魔法弾は積極的に使った方がよかみたいね。あと、SPの上昇値はやっぱり8で間違いなかみたいだし、一気に強力なスキルが取れるようにしばらく取っておいた方がよかかもなぁ)
そんなことを考えながら食事を続けていると、先程までの小柄なゴブリンとは明らかに種類の違う足音が聞こえてくる。
そして、あと少しでカレーを全部食べ終わるかと言ったタイミングで2メートルほどの大きさを持ったゴブリンの上位種みたいなやつが姿を現した。
「オォォォォォォォォォ!! オレノ、ナカマ。ミナ、ニオイニツラレ、モドラヌ! オンナ! オマエ、ナカマコロシタ!!」
ボクの身長以上に大きい大剣を片手で振り上げながら、その大きなゴブリン(これがホブゴブリンとかオークとかいうやつなのだろうか?)は怒りの表情を浮かべながらもぐもぐと残りのカレーを口に頬張るボクを睨み付ける。
そして、その巨体から信じられないような速度でこちらへと突っ込んでくるのだが、迎撃のために放った無数の魔力弾を脅威と感じたのかすぐに回避の体制に入り、被弾しそうな数発を大剣で薙ぎ払いながら大きく後退することでボクとの距離を取る。
(おお! 初めてまともな異世界での戦闘っぽい!!)
そんな感動を覚えながら、ボクは最後に残った一口をよく噛んで飲み込むと容器を倒木に置き、すっと立ち上がる。
(でも、レベルが上がって素早さが上がったせいかそこまで驚異的な速さには感じないとよね。そうなるとたぶん、その攻撃力も……)
棒立ちで追撃を加えてこないボクを見て、MP切れだとでも判断したのか大ゴブリンは凄まじい速度でボクとの距離を詰め、そのまま振り上げていた大剣をボクに向けて振り下ろす。
だが、直感的にその攻撃が脅威と成り得ないことを悟っていたボクは軽く左手を上げてその大剣を掴み、そのまま一瞬で召還した『タナトス』を横一文字に振るうことでその胴体を二分する。
「バ、カナ!? マサ――」
大ゴブリンが何か言いかけるが、思いの外ドバっと青っぽい血が噴き出したのに驚いてボクは掴んでいた大剣ごと大ゴブリンの上半身を遠くへと投げ捨てる。
そして、『経験値を1,624獲得しました。レベルが13に上がりました』と言うアナウンスが頭の中に響いてきた。
(やっぱり序盤だからサクサクレベルが上がる感じなんかなぁ)
そんなことを考えながらボクはすぐにステータス画面を開いて現状を確認する。
【ステータス】
・芹川優璃 Lv.13 EXP:2,826(次のレベルまで:704)
・SP :126/216
・MP :6,382/6,975
・攻撃力:2,533(+308)
・防御力:2,628(+5)
・魔攻力:3,103(+420)
・魔防力:2,913
・素早さ:2,723(+277)
【装備】
・殲滅の大鎌『タナトス』(覚醒)(攻撃力:+308、魔攻力:+420、素早さ:+272)
・白波高等学校の制服(防御力:+5)
・ローファー(素早さ:+5)
順調に成長していることを確認し、SPが100を超えたのでそろそろ役立ちそうな新しいスキルでも獲得すべきかと意識を向けた直後、突然そのアナウンスはボクの脳裏に響いた。
『レベル10に到達した者が現れました。よって【クラス名簿】の項目が解放されます』
(え!? いったい何が—―)
混乱するボクなど関係なしにステータス画面の下部に【クラス名簿】と記載されたタブが追加されたかと思うと勝手に画面が切り替わって違うページが表示される。
【白波高等学校 1年1組 クラス名簿】
1 麻生涼子 女 Lv.2
2 伊嶋星斗 男 Lv.4
3 江藤隆盛 男 Lv.2
4 緒形紗栄子 女 Lv.1
5 加藤潤太 男 Lv.3
6 工藤彩子 女 Lv.3
7 古嶋綺蘭々 女 Lv.6
8 齋藤功 男 Lv.4
9 笹原泰十 男 Lv.3
10 紫藤亞梨子 女 Lv.8
11 須藤賴人 男 Lv.5
12 関根安司 男 Lv.4
13 芹川優璃 女 Lv.13
14 但馬亰華 女 Lv.3
15 田崎秀誠 男 Lv.8
16 津川凛太 男 Lv.1
17 手島彩香 女 Lv.3
18 仲島美来 女 Lv.7
19 西島暁斗 男 Lv.8
20 西山鈴音 女 Lv.2
21 二階堂聖哉 男 Lv.9
22 橋本奏 女 Lv.3
23 早川瑞希 女 Lv.2
24 藤本恭介 男 Lv.4
25 藤原亮太朗 男 Lv.3
26 間柴凛子 女 Lv.9
27 間島右京 男 Lv.3
28 間島左近 男 Lv.3
29 三ヶ島蓮華 女 Lv.5
30 武藤蓮斗 男 Lv.8
31 女島杏子 女 Lv.3
32 八十島惠美 女 Lv.2
33 吉田翔太 男 Lv.3
34 渡邊星 女 Lv.1
※それぞれのレベルはレベル10到達者が出現した時点のものとなります。
もはや状況に付いていけず、呆然とその名簿を眺めていたボクへ追い打ちをかけるように謎の声はアナウンスを続ける。
『これより1時間、【ポータル】の転移先に『芹川優璃』を選択できます。最も早く10レベルに達した彼女を殺し、強力なスキルを奪い取りましょう。また、最速で10レベルに達した芹川優璃には特典として【能力看破】Lv.10が進呈されます』
(ちょっと待って! ちょっと待って!! ちょっと待って!!! え? ええっ?? もしかしてこの世界、チートスキルを与えられたクラスメイト同士のバトルロワイアル系!!? そんなの聞いてないんだけど!??)
そんなボクの混乱などお構いなしに刻一刻と状況が変わろうとしていたことをボクはまだ知らない。
そして当然、クラスメイトの中で唯一【ポータル】のスキルを初期から与えられた少女、紫藤亞梨子が覚悟を決めてこちらに向かおうとしていることも知る由は無かった。