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Episode28 エピローグ

~Side武藤蓮人~


「—————……………っ!」


 背中に感じるベッドの柔らかい感覚と、胸元に感じる温かな重みで目を覚ました俺は目に入って来た見知った天井で自分たちが拠点としているティナの家まで戻っていることを理解し、そっと視線を下げて胸元に感じていた重みの正体がベッドサイドに置かれた椅子に座ったまま俺にもたれかかるように眠っているティナの体であることを把握する。


(……助けられたうえに見逃された、ってことか。つうことは、あいつら本気で俺を仲間に引き入れようと話し合いに来ただけ、ってことかよ)


 【憤怒】による精神汚染があったとはいえ話をまともに聞こうとしなかった俺をいつでも倒せたくせに手加減し、あまつさえ命を救うという意味の分からない行動した芹川の意図を探ろうと少しだけ思考に没入してみるが、どう考えても最初から紫藤達を下がらせて芹川が戦えばあっという間に戦闘など終わっただろうにそうしなかったどころか頑なに実力を隠すような動きに徹していた理由などさっぱり分からなかった。

 そして、しばらくしたところでそんな無駄な思考に時間を割くのも馬鹿らしいと考えて思考を打ち切った直後、俺はある違和感に気付く。


(そういや、普通なら【憤怒】の影響で答えが出ない思考に苛立ちを覚えるはずだが、何か妙に思考が落ち着いてねえか? まさか、俺の力を削ぐために【憤怒】を封印した、とか何らかの細工をされたか?)


 そう考えた俺は自身のステータスを確認してみるが、スキルが封じられていたり新たなスキルが増えたりなどの変化はないが、俺の名前の横に(改)という謎の文字が増えているのとなぜかステータスが上がっていることに気付いた。


(………なんか、真面目に考えるのが馬鹿らしくなってくるな。まあ、とりあえず余計な厄介ごとに巻き込まれないよう、今後も芹川とやりあうのは避けた方が無難ってことだろうな)


 軽いため息を吐き出しながらそう結論付けたところで、俺はティナが目を覚ました気配を察してそちらへ視線を向けた。

 するとそこには、俺が起きていることに気付いて一気に眠気が覚めたのか両目に今にも零れ落ちそうな涙を浮かべながら言葉を失い固まるティナの姿があった。


「レン…ト?」


「……世話、かけたみてぇだな」


 そう俺が声を掛けた直後、ティナはボロボロと両目から涙を零しながら勢いよく俺に抱き着いてきた。


「良かった! 良かったよ! 目を、覚ましてくれて!!」


 ティナにどう返事を返せばよいか分からず、俺は無意識に彼女の頭をなでながら俺は彼女の奇妙な関係について思考を向ける。


 そもそも利用されたとはいえティナ一家の平穏な日常を奪ったのは俺だ。

 そんな俺になぜここまでティナが心を許してくれるのか分からない。

 だが、ティナが俺を直接責めることは無かったとしても俺は迂闊な正義感で最悪の結果を生み出した俺のことを許せるわけがないし、だからこそ再びティナの日常に平穏を取り戻すため、そしてこれ以上ティナと同じような悲しみを背負うやつが出ない世界を実現するためにもこれから先もこの手を血で染める続けるだろう。

 そんな俺がこのままティナと一緒にいても良いのだろうかと迷うこともあるが、家族を失って行く場所が無いティナをこのまま一人で放り出すこともできないのでこの関係がズルズルと続くことになってしまった。


(結局、俺はティナを守れるように一刻も早く強くなる必要がある、か。……それこそ、今後本気で芹川が敵に回ったとしても命を懸けてティナだけでも逃がせるだけの力を、手に入れて見せる)


 静かに心中でそんな決意を固めながら、俺はティナが落ち着くまでぎこちないながらも優しくティナの頭を撫で続けるのだった。


――――――――――


~Side紫藤亞梨子~


 結局私が目を覚ましたのは全てが終わった後だった。


 目を覚まし、事の顛末を聞かされた私はしばらく一人で考えたいと拠点として芹川さんが創り出してくれたロッジから出ると、近くにある月明かりで照らし出される湖畔の側で私は仰向けに倒れ、星空を見上げながら私は自身の不甲斐なさを痛感しながら芹川さんから聞いた今回の結末について思考を向ける。


 結局、私達は武藤くんを説得することはおろかまともに話を聞いてもらうこともできずに戦闘になり、そしてあっさりと敗北してしまった。

 そして、私達が気を失った後に一人残された芹川さんは何とか武藤くんの猛攻を耐えながら先日作り出した使い捨ての転移魔道具で逃げ出す隙を狙い続けたのだという。

 だが、なかなかそんな隙を与えてくれるどころか気を抜けば一撃でやられてしまう極限状態で追い詰められ、かなり危ない状況に陥ってしまったのだと芹川さんは語っていた。


(もし、私にもっと力があれば芹川さん一人にそんな危険な戦いを任せる必要も無かったはず……。私は、【勇者】としての力を与えられたことでどこかで自分は特別なんだという驕りがあったのかも知れない……。だけど本当は【勇者】だの【魔王】だの特別な力を与えられていたわけでもない武藤くんの方がよっぽど強かったっていうのに)


 思わずぐっと拳に力を込めながら、私は瞼を閉じて頬を撫でる風の涼しさを感じることでどうにか感情を押さえる。

 そして、再び瞼を開いた私は闇夜に煌めく無数の星々を見上げながら改めて強い決意を胸に刻み込むようにあえて浮かんだ思いを声に出すことにした。


「今回の戦い、芹川さんの話によれば偶然第三者の乱入があったことで逃げる隙を確保できた、つまり芹川さんの運の良さに助けられただけ。そうなると、次もこんな幸運に恵まれる保証なんて当然ない。だから、次こそ私が芹川さんを守れるくらい強くならないと」


 誰かに誓いを立てたわけでは無いが、私は自然と右手を天へとかざして無数に散らばる星々を手に入れるように拳を握りこむ。

 そして、しばらくの間己の決意を胸に刻みこむように天へと拳を掲げ続けるのだった。


――――――――――


~Side芹川優璃~


 無事に今回は同級生を手にかけることもなく、有耶無耶の内に戦いを終わらせることができた。

 それに、今回問答無用で戦闘になったことでこれから先、他の同級生のところに転移できるタイミングでも今回の事例を挙げて慎重に行くことを、上手くいけば行かないように説得できるだけの経験を手に入れることができたのだ。


(なんか、リリーナさんはボクの実力に薄々気付いているっぽいんだけど、紫藤さんは完全にボクの実力を誤解したままっぽいからこれか先もできる限り誤解したままにしときたいんよね。だから、極力めんどくさいイベントは避けながらこうやってボクの実力を誤魔化せるイベントは挟む必要があるとよね)


 自室のベッドに身を投げ出しながらそんなことを考え、ボクは窓の外に見える満天の星に視線を向ける。


(ああ、それにしてもなんでボクがこんな面倒くさいチートスキルばっか押し付けられたんかなぁ。できれば誰かに代わって欲しかけど……無理、だろうなぁ。でも、どうにかめんどか運命を振り切ってボクは戦いとは無縁の異世界ほのぼのスローライフを実現して見せる! ……まあ、異世界スローライフものって大抵『スローライフとは?』と突っ込みたくなる作品ばっかだし、そんな未来は実現できる気がせんとだけどね)


 乾いた笑いを漏らしながら、ボクはこの意味の分からない生活へのストレスやこれからも襲ってくるだろう波乱万丈な日々から逃げるように微睡の底へと意識を進めるのだった。




 こうして彼女たちの物語は少しずつ、しかし確実に世界へと影響を与えながら紡がれていく。

 その先に何が待つのか、どんな結末を迎えるかなど当然分からいまま、今を精一杯生きるために。

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