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Episode20.5

「ここまで離れればもう巻き込まれる心配はないと思う。それに、ここら辺の森に出てくる魔物はそれほど強くないから、あなた達だけでもなんとか安全な場所まで逃げ切れると思う」


 鬱蒼と木々が生い茂る森の入り口で漆黒のバトルドレスを身にまとい、身の丈ほどある簡素なデザインの槍を背負った薄紫の髪色をした少女、ティナは背後を振り返りながら先頭にいた30代くらいの女性にそう告げる。

 その先頭に立つ女性の他に10人ほど年若い男女が集まっており、その全員がティナと同じく尖った耳が特徴的なエルフと呼ばれる種族に属していた。


「あの……本当に私たちと一緒に逃げないのですか? あの集落から私たちを助け出してくれたことは感謝してるんですが……あの少年は、別に私達を助け出そうとしてくれていたのではなく、邪魔な賊を始末するのに障害ならないと判断した私達など眼中になかっただけ、としか思えません。その証拠に、隷属の首輪で無理やり戦わされていた同胞を…この子たちの親を何の躊躇いもなく……。もし、貴女が助けてくれなかったら今頃私達もあの賊や逃げ遅れた仲間たちと同じように……」


 その時の恐怖を思い出すように体を震わしながらそう告げる女性に、ティナは感情の薄い視線を向けたまま自身の首に付けられた首に手を当て、抑揚のない平坦な声色で「ティナは、既に彼の物だから」と淡白な答えを返した。


「しかし、あの男はただ殺戮を楽しむだけで貴女にそれほど関心がないのではありませんか? その証拠に、彼はあの神器の力を開放する時に貴女が巻き込まれる危険性を一切考慮していませんでしたし、貴女が生き残った私達を助け出してくださった時も目の前にいる獲物を狩るのに夢中で一切見向きもしていませんでした!」


「……確かに、レントはティナが逃げ出そうと気にも留めないと思う」


「だったら—―」


「それでも、ティナはレントの下へ戻る」


 その口調は先程までと変わらない抑揚のない平坦なものだったが、女性に向ける瞳の奥には確固たる決意の光が宿っていたため、どれだけ言葉を重ねたところで彼女の決意が変わることは無いのだと女性は瞬時に理解した。


「……残念だけど、説得は無理そうですね」


「ごめんなさい」


「謝らないでください。助けてもらったうえに我儘を言ったのはこちらの方です。正気、このまま最後まで貴女が付いて来てくれればどれほど心強いか」


 そう告げながら女性は背後で不安げな視線を向けながらも話の成り行きを見守っている少年少女に一瞬視線を向け、再びティナへと視線を戻しながら「だから、そういった打算もあっての提案なのでやはりこれは私の我儘です」と苦笑いを浮かべながら言葉を続けた。


「ううん、それでもべつに我儘だとは思ってない。確かにそういった打算もあるのだろうけど、それでもあなたが本心からティナの身を案じてくれたのは分かるから」


「……ありがとう。…………そしてこちらこそごめんなさい。こうやって助け出してくれたのに、何一つ貴女の力になれずに逃げ出すしかできないなんて……」


「それこそ気にしないで良い。あなたはあなたにできることを、その子たちを全力で守ってあげて欲しい」


「ええ、約束するわ。何があってもこの子たちは私が安全な場所まで逃がしてみせると。……だから、どうか貴女も無事で…お互い生きた状態でもう一度会いましょう」


「…………」


 女性の言葉にティナは返事を返すことなく視線を逸らし、そのまま今来た道を戻るように数歩歩みを進めながら、女生とすれ違う直前に「この森を獣道伝いに真っ直ぐ進んで行くと、エルフ狩りから逃れたエルフたちが新しく作り上げた村がある。だから、そこを目指して進んで」と声を掛け、その後は背後から聞こえた声にも一切反応を示すことなく遠くに煙が上がっているのが確認できる先程までいた集落がある地点を目指して歩き出すのだった。

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