表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/31

Episode17 そしてボクは考えることを止めた

「我が身命。全てを御身がために」


 震える声でそう告げながら頭を下げるリリーナさんを見ながら、ボクは正直全てがめんどくさくなって考えることを放棄したくなっていたが、それでもこの意味不明な状況を少しでも改善すべく最後の足掻きとして必死に思考を回転させる。


(そもそも、なんでボクの意思とは関係なくリリーナさんがパーティーメンバーに加わっただけで眷属化すると? こういうの、普通【魔王】であるボクの意思が優先されて『○○を【眷属化】しますか?』とか聞いてくるもんよね? てかこの世界、ヘルプによるとゲーム的な要素が強いから通常はパーティーメンバーに人数制限があって、一般的なRPG基準で4人ってなっとっとに既に半数がボクの眷属っておかしくない? しかもヘルプにある『パーティー』の項目では『パーティーの解散について』って項目でステータス画面で表示される名前の横に出てくる『パーティーから追放する』ってコマンドを実行すればいいって書いとるとに、どこ探してもそんなコマンドとかなかし、下手すると眷属はパーティーメンバーから外せないとか余計な機能が付いとるよね!?)


 本当は頭を抱えてその場に蹲ってしまいたいくらいだが、流石に頭を下げるリリーナさんと困惑の表情を浮かべる紫藤さんの前でボクまでそんな奇行を取れば収拾がつかなくなるだろうからぐっと我慢する。


 だがそこで、今度こそボクの思考が追い付かないレベルのとんでもない問題が発生してしまう。


『【現人神】の称号を得ました。【信仰Lv.1】のスキルを習得しました』


 その宣言を皮切りに、思考が追い付かず言葉を発するどころか表情を動かすこともできずに固まってしまったボクなどお構いなしに次々と事態は進行していく。


「なっ!?」「これ…は?」


 突然頭の中に鳴り響いた鐘の音がボクだけに聞こえているわけでは無いことを証明するように紫藤さんが戸惑いの声を上げながら周囲に視線を巡らせ、今迄ボクの目の前で頭を下げっぱなしだったリリーナさんが驚きの表情を浮かべながら天へ視線を向けるのを確認したところでその声が脳内に響き渡る。


『我が名はエネル。この世界、エネルギアを創造せし神の一柱なり。此度は、この世界に生きる全ての知性ある者へ新たな神への信仰がこの世界に誕生したことを伝える。信仰の対象たる【現人神】の名は『芹川優璃』。この世界に存在する数多の信仰に、我と同じく神たる資格を有した新たな存在が名を連ねることに祝福の言葉を。そして、この新たな信仰を許容できぬ者達にも救いの言葉を。【現人神】とは現代に生きる神と人の狭間を揺蕩う者。故に、未だ人の身である彼女の存在を穢し、ただの人として堕とすことが出来ればこの信仰は容易に砕け散るだろう。……さあ、芹川優璃よ! これは我からの試練である。無事、この世界で信仰を集め、再び我の前に戻ってくるがよい!! その時こそ、我が真なる力の全てを其方に――』


 なんか後半の方は妙に感情的に語っているように聞こえたが、突然マイクの電源を切られたかのようにエネルと名乗る神の放送は終わりを迎える。

 そして、『これはいったいどういうことだ?』と言いたげな視線を向けてポカンと口を開けたまま固まる紫藤さんと、「ああ、やはり貴女は!」と感激の涙を流しながら祈るように手を組むリリーナさんの視線を受けつつ、『絶対これで終わりじゃない』と告げるボクの勘が当たらないことを祈りながら状況を見守っていると、案の定次の異変が起こる。


『信者の数が10名を超えたので、【信仰Lv.2】に上がりました。これにより、信者の中から1名【使徒】を選択できるようになりました。神託を与える信者を選択してください』


 そう告げられ、ボクの目の前に11名の名前が表示される。

 その大半は当然ながら全然知らない名前だったのだが、その中に3つほど知った名前を見つけて思わずボクは顔をしかめる。


(うわ。やっぱりリリーナさんの名前がある。それに、変態と……なんで三ヶ島さん? 彼女は確かに中学は一緒だったけど、ろくに話した覚えもないのに……。てか、あいつが一番上に名前が来てて次に三ヶ島さん、それにリリーナさんの順で名前が出てるってことはもしかしてボクと関りが深い順で名前が表示されとるのかな? というか、神託を与えるってことはこれでこの中の誰かと話ができる、とか? うーん、そうなるとあの変態は論外として三ヶ島さんもまともに話せる気がしないから、目の前にいるリリーナさんを選択するのが一番無難な気がするけど……なんか、この状態でリリーナさんを【使途】に任命するとろくでもない結果にしかならないような気がして――)


 そんなことを考えながら迷っていると、突然『スキルの干渉によって、『二階堂聖哉』が強制的に【使徒】へ任命されました』というとんでもないアナウンスが響き、ボクの意識があの変態と繋がる感覚を覚える。


『ああ、我が愛しの天使! いや、神よ! 僕が絶対、君のすばらしさをこの世界全てに広めてみせる! そして、幼き日の約束通り夫婦となってこの世界を共に見守っていこうじゃないか!』


『ちょっと待って! これってボクの神託よね!? なんでいきなり聖哉からこっちに話掛けとっと!? おかしくない?? てか、ボク達は確かに小さい時から隣どうしで幼馴染だけど、別に結婚の約束とかした覚えないからね!!?』


 そんなボクの必死のツッコミもあの変態には届いていないのか、『ああっ! しばらく聞けてなかった天上の美声が脳内に! ~~~~ッ、ヒャッホウ!!』と叫ぶ声が聞こえたのを最後に変態との繋がりが途絶えたのを感じ取った。


「…………」


 言葉を失い、2人の視線を受けながら呆然と立ち尽くすボクはひとまず現実逃避で自身と他2人のステータスを確認し、自身に【現人神】の称号と【信仰Lv.2】のスキル、リリーナさんに【狂信者】の称号と【信仰Lv.2】のスキルがそれぞれ付与されステータスが大幅に上昇しているのを確認してそっと視線を出口に向け、死んだ魚のような眼をしたまま口を開いた。


「それじゃあ、いい加減ダンジョンから…出ましょうか」


「えっ!? さっきのアナウンスに関するリアクションとかはないの!!?」


「いや……うん。なんというか、考えるだけ無駄…かなぁと思った、ので」


「いやいやいや、スルー出来るような内容じゃなかったよね!? それにあの声…あれって間違いなく私達をこの世界に送り込んだヤツと同じ声だったよね!?」


 そう言われても、ボクはおそらくみんながそいつから話を聞いてる時に爆睡していたので、その人物(神?)の声を聞いたことが無いので何とも反応できない。


「落ち着いて、アリス。ユーリ様が困っておられるでしょ」


「……様?」


 思わずそうツッコんでしまったが、リリーナさんはニッコリと笑顔を浮かべながら「どうかなさいましたか?」と尋ねて来たので、思わず反射的に「いえ、何でも」と引き下がってしまう。

 そしてそう返事を受けたリリーナさんは満面の笑みを浮かべながら「そうですか。では、御用があれば遠慮なく何なりとわたしにお命じください」と返し、再び呆気にとらた表情を浮かべて固まる紫藤さんに視線を戻すと言葉を続けた。


「聡明で慈悲深いユーリ様が何も語らないと言うことは、現時点で語るべきことは何もない、ということではないかしら? だからこそ、我々信徒は大人しく次の神託が下るまで祈り待つしかないのよ」


 紫藤さんが困惑と恐怖をその瞳に宿しながらこちらに視線を送ってくるが、もはや意味の分からない状況に思考を放棄したボクはそっと視線を逸らしながら「そういう、ことらしい…です」と投げやりな返事を返す。


 こうしてボク達の初ダンジョン攻略は、新たに【ダンジョン攻略者】の称号と仲間を得て無事に終わりを迎える。

 そしてそれから数日は(リリーナさんの奇行以外)特に問題が起こることもなく穏やかな日々が続くこととなり(紫藤さんはボクへの信仰を推薦してくるリリーナさんにちょっとぐったりした感じだったが)、大きくボク達の運命が動くこととなったのはそれから5日後の昼過ぎ、レベル50への到達者が現れたことを知らせるアナウンスが鳴り響いたことがきっかけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ