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Episode16 神はここにいませり

 わたし、リリーナ・エル・フェルブランド・ラル・ラ・イ・ジナチミル・エメラルダは耳長族(エルフ)の一部族、ジナチミルの首都フェルブランドを治める王族の生まれだった。

 幼き頃より王となるべく様々な教育を受けて来たわたしは常に外敵を退ける剣であり、そして民を守る盾として戦い続け、そんな姿を見て民たちは戦姫として、そして次代の王としてそれなりに信頼と愛情を向けてくれていたいたように思う。


 だが、結局わたしは最後まで民と国をこの手で守ることはできなかった。

 ある年、人族(ノーマル)魔族(デーモン)が手を組んで連合軍を結成し、わたしたち耳長族(エルフ)だけでなく獣人(ビースト)土人(ドワーフ)などと言った亜人の国へ次々に侵略を開始し、そしてわたしたちの国も奮闘虚しく窮地に陥ることとなってしまった。

 話によると異世界よりやって来た【魔王】の力添えを受けた影響だと言われているが、結局戦場にそれらしい人物が出てくることは無かったのでその真偽についてはハッキリとしない。

 それでも圧倒的な力と数で攻め入って来た連合軍を相手にわたしたちジナチミルの民は手も足も出ずに敗北した事実は覆らないのだからその真偽はそれほど重要な問題でもないのだろう。

 結局、あの戦いの最後は一人でも多くの民を逃がすために最もレベルが高かったわたしと近衛の数名で都市に残って戦いを続け、最後はこの禁忌の地であるこのダンジョンに逃げ込むことで王族の生き残りであるわたしを捕えたい敵兵を足止めする程度の抵抗がやっと言ったところだったのだから。

 だが、この最下層に辿り着いた時の記憶などほとんど残ってはいないのだが結局わたしは力及ばず時間稼ぎをするどころかこのダンジョンの主の手駒として良いように使われだけに終わってしまったようだが。

 それに、ダンジョンの外でどれ程の年月が経過しているのかは不明だが、外にフェルブランドの都市が存在せず、これまでわたしを助けに来る者も現れなかったということはジナチミルの民が生き残っている可能性も極めて低くなっていると考えざるを得ず、つまりはわたしの決死の覚悟も無駄に終わってしまったのだと言うことなのだろう。

 そうなると、今のわたしはただのエメラルダ家に産まれたリリーナという一人の女に過ぎず、こんな危険はダンジョンに挑んでわざわざ敵の手に落ちたわたしを殺さずに助けてくれた2人に報いるにはこの身命全てを捧げるしかないと感じていた。


 しかし—―


『芹川優璃と紫藤亞梨子がパーティーに加わりましました。【勇者一行】、【魔王眷属】の称号を得ました』


「なっ!?」


 突如頭に響いた天の声に思考を乱されたわたしは、状況が飲み込めないまま反射的にステータス画面を開いていた。



【ステータス】

・リリーナ・エメラルダ Lv.76 EXP:578,997(次のレベルまで:14,463)

・SP :0/240

・MP :1,809/15,808

・攻撃力:9,576(+1,980)

・防御力:9,120(+2,100)

・魔攻力:9,424(+1,840)

・魔防力:9,880(+2,020)

・素早さ:10,260(+1,580)

【装備】

・エルフの聖剣(攻撃力:+1,980、素早さ:+1,160)

・エルフの聖盾(防御力:+1,540、魔攻力:+1,840、魔防力:+1,540)

・普通の服★2(防御力:+560、魔防力:+480)

・普通の靴★2(素早さ:+420)

【獲得称号】

・勇者一行

・魔王眷属

・王族に連なりし者

・姫騎士

・穢されし乙女

・救われし姫君

【習得スキル】

(基礎能力向上系)

・無し

(ステータス補正値向上系)

・MP上昇(小)(獲得時消費SP:5)

・MP上昇(中)(獲得時消費SP:10)

・MP上昇(大)(獲得時消費SP:15)

・MP上昇(極)(獲得時消費SP:20)

・賢者 (獲得時消費SP:30)

・防御力上昇(小)(獲得時消費SP:5)

・防御力上昇(中)(獲得時消費SP:10)

・防御力上昇(大)(獲得時消費SP:15)

・防御力上昇(極)(獲得時消費SP:20)

・堅牢 (獲得時消費SP:30)

・魔防力上昇(小)(獲得時消費SP:5)

・魔防力上昇(中)(獲得時消費SP:10)

・魔防力上昇(大)(獲得時消費SP:15)

・魔防力上昇(極)(獲得時消費SP:20)

・魔の極意(防) (獲得時消費SP:30)

(効果及び技能習得系)

・無し

(特殊系)

・エルフの姫騎士(獲得時消費SP:―)

【パーティーメンバー】

・芹川優璃★ Lv.37 MP:2,496/ 21,989

・紫藤亞梨子 Lv.36 MP:502/4,996



(これが…本当に、わたしのステータスなの? それに、魔王…眷属? ちょっと待って! アリスが【勇者】だと言うことは、つまりユーリは【魔王】だと言うの!? そんな……ではなぜユーリから【魔王】特有の嫌悪感を感じなの? そもそも、【勇者】と【魔王】という相反する属性に覚醒した者がパーティーを組むなど神の定めたこの世界のルールによって不可能なはず! まさか、世界すら騙すと言われる【偽る者(プリテンダー)】のスキルを? ……いいえ、あのスキルを持っているのならば最初からわたしに警戒されないように同族だと誤認させることも可能だったはずだからそれも違うはず。……そもそも、【魔王】に覚醒しているということは大罪のいずれかに覚醒し、スキルと【魔王】の相乗効果で対応する感情が大幅に増大しているはずだからこんな普通に会話を交わすなんて不可能なはずなのに! 考えられる可能性としては【虚無】を取得している場合だけど……あのスキルもあくまで大罪による精神汚染を軽減するだけだから、通常であればほぼ影響が出ない範囲まで抑えられるとしても【魔王】の覚醒によって増大している精神汚染の全てを無効化するなんて不可能なはずで、こんな普通に会話が成立するなんて不自然よ! それに、眷属を従えることが出来ると言うことは【虚無】を取得したうえで全ての大罪を獲得し、【七大罪】の称号を得ている『真なる魔王』であると言うこと! だったら、わざわざわたしを助けるためにこのダンジョンの主を倒したりせずにそのまま操られたわたしごと支配下に置けたはずなのにどうしてこんな回りくどいやり方を!?)


 本来、【魔王】に覚醒した者は同時に覚醒した大罪によって【憤怒の魔王】とか【傲慢の魔王】などと呼ばれることが多い。

 そして、それぞれの感情によって人類に対する脅威の方向性が異なっており、【色欲】はその欲で性別問わず己の肉欲を満たす道具と変え、【憤怒】はその怒りで人類に牙を剝き、【暴食】はあらゆるものを自身の糧として見境なく喰らい、【嫉妬】はその執着によって人類に果てしない苦痛を与え、【怠惰】は手足として多数の魔物を操ることで人類を脅かし、【傲慢】は他者を己の所有物として逆らう者を許さず、【強欲】はこの世全ての物を欲して略奪限りを尽くす、と言った感じで例外なく人類の脅威となる宿命を背負っている。

 それら大罪の影響は凄まじく、異世界人である【魔王覚醒者】の前の人格を知っている人物でさえも同一人物だと認めることが出来ないほど対応する感情が膨れ上がり、それを満たすためならばどのような非道や悪行すらも厭わない化物へと変じてしまうのだ。

 ただ幸いなことに一つの大罪で凄まじい精神への負荷がかかるため、【魔王】に覚醒する前の影響が少ない時点ならまだしも覚醒後に他の大罪を獲得することは不可能であり、仮に複数の大罪に覚醒した状態で【魔王】として目覚めたとしてもその強大な負荷に精神が耐えられずにもはや人の形をした魔物へと堕ちるので脅威度は一気に下がることになるのだが。

 だが、稀に【虚無】に覚醒することでそれらの大罪を制御して『本能』ではなく『知性』を持って活動することで複数の大罪を獲得する者が現れることがあり、そのような者を通常の【魔王】と区別するために『真なる魔王』と称する。

 そして今迄例外なくこの『真なる魔王』として認められた者はその圧倒的な力を持って【勇者】に討たれるまでの間支配者として世界に君臨したと言われており、全ての欲を我が者としたことで生物が持つ欲に付け入り自身の眷属と化す力を得るとも言われている。


(でも、眷属化したしたことで【魔王】から流れ込んでくるはずの大罪による悪しき感情への汚染が感じられないのはなぜ? 言い伝えでは、眷属化した者は例外なく大罪による精神への汚染で人としての感情を失い、魔へ堕ちる宿命だと聞いていたのに……もしかして、ただの言い伝えで真実は違ったというの?)


 何も分からない状況に困惑し、どう対応するのが正解なのか判断できず黙っていると目の前のメガネをかけた黒髪の少女、ユーリは軽く息を吐いた後に突然こちらに話掛けて来た。


「とりあえず、いったんお茶でも飲んで、落ち着いて話をしません、か?」


 そして次の瞬間、わたしは有り得ない現象を目の当たりにする。

 なんと彼女は何もない空間へ魔力を放ったかと思えば、そこに何の素材や触媒も用いずにテーブルと3脚のイス、それにティーセットを創り出してしまったのだ。


「ばか…な――」


 思わずそう言葉を漏らしながらわたしはその場に膝をつき、そして気付けば自然と目の前にいるお方に頭を下げていた。


 そう、このお方は決して【魔王】などではないからこそ嫌悪感も感じなければ大罪による精神汚染もないのだ。

 そして、相応しいスキルが無いからこそわたしを【魔王眷属】という肩書でその傘下に加えて下さったのだろう。


「我が身命。全てを御身がために」


 自然とわたしの口からそのような言葉漏れ出すと同時に、もはや滅びに瀕した都市からダンジョンへ逃げ込む際に思わず考えてしまった存在が本当に目の前に現れたことで自分の奮闘が報われたような気がして自然と両の眼から雫が地面へと零れ落ちる。


(無から有を創り出す奇跡を成せるスキルはこの世界に存在しない。そんなことが出来るとするば、それはこの世界を創った創造神のみ。つまり、彼女…ユーリ様こそ滅びの運命にあったわたし達エルフを救うために神が遣わされた天使、もしくは神そのものであると言うこと!)


 ユーリ様はわたしをこのダンジョンの主から救い出してくださっただけでなく、そうとは知らず剣を向けたわたしにも寛大な心で許しを与え、今も平伏するわたしに頭を上げて欲しいと慈悲に溢れる言葉を下さっている。


(ああ、わたしに再び立ち上がるチャンスと力を下さったばかりか、このような言葉まで。神とはこの世界に災いを持ち込むだけの存在だと思っていたのだけど、長老たちが語ったように慈愛に溢れた救いの神が存在すると言う伝承は本当だったのね。やはり、高々324年程度しか生きていない若輩のわたしが見て来た世界など、ほんの一握りの狭い世界でしかなかった。それにどうやらユーリ様は自身の正体についてアリスには語っていないようだし、きっと何らかの使命があってこの世界に降り立ち、それを他者に悟らせるわけにはいかないから異世界人の姿を借りて誤魔化すような態度を取っておられるのね。……決めたわ! ならばその秘密をわたしが必ずや守り通し、ユーリ様が使命を遂行できるようユーリ様の剣となり、そして盾となることでこの大恩を必ずや返してみせる、と!)



 こうして誕生した狂信者、リリーナ・エメラルダが勘違いをしたまま優璃の配下に加わることとなるのだった。

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