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第3話 電気のしくみ?


 ノックして入ってきたのは侍女マリンだ。ゼーマン様を連れてきてすぐに退出していたが、お茶をいれてきてくれたらしい。

 見れば、ドアの外にメイドが控えている。マリンがいない間は部下が控えているようだ。

 

「奥様。お茶をお持ち……しました……?」

「ありがとう、マリン」

 

 激しく燃え上がっているゼーマン様を見てマリンが目をぱちくりさせている。

 

 やる気のある人が近くにいると、こちらも嬉しくなってやる気が出てくるものである。

 嬉しくてニコニコしながら椅子に座り、お茶をいただくと、マリンは「……?」と首を傾げた。

 変なの、という顔である。でも最初の無機質な表情よりは、少し人間味があるかもしれない。

 

「ゼーマン様。コタツの熱部分にはどんな魔道具を使うべきでしょうか?」

「そうですね……」

 

 ゼーマン様は少し考え、眉間に皺を寄せた。

 

「炭や熱した石では駄目ということでしたよね」

「はい。足を入れたまま無防備に五時間は寝られるくらい安全でないとコタツとは言えませんから、温度調節できないものや、火傷するようなものはダメなのです」

「ふむ。つまり直火や炭ではなく、魔石が必要ですが……しかし利用しようとすればかなりの工夫がいるな。なんらかの不燃物質で火の魔石を二重に囲うか……? しかし木と布で囲うのだから不用心極まりないし、温度調節の問題を全くクリア出来ていない」

 

 ゼーマン様が悩み始める。

 私も力になれないかと、同じように悩む。

 思考を整理するためポツリと呟いた。

 

「ここでは電気を動力にするのは一般的ではないし、どうしたものかしら」

「──コゼット様、今なんと?」

「へ?」

 

 またゼーマン様の瞳がキランと輝いた。

 

「皇都のコタツは電気……雷の魔石が動力なのですね? どんな風に使われていたかは分かりますか?」

「え?え~~、ええっとぉ……?」

 

 突然、機械のしくみの話になってしまった。

 前世でもっと勉強しておくんだったと激しく後悔しつつ、しどろもどろでイメージを伝える。

 

「どういう仕組みなのかは知らないのですが、なぜ電気でモノを発熱させることが出来るのかは、分かります」

「!?」

「雷が落ちると、木が燃えますよね。つまり雷、電気には熱を生み出す力があります」

「……ええ、確かに。言われてみれば燃えますね」

 

 そういえば、という感じで頷かれる。

 

「寒い時期に金属を触ると、バチッとすることがありますよね」

「ええ」 

「あれも電気なのです。つまり、電気は物に溜まったり、あるいは放出することができます」

「……ふむ」

「なにより」

 

 私は人差し指をぴんと立てた。

 

「電気には、物の間を通り抜ける力があります。これを利用すれば、火がなくとも熱を発生させることが出来る……みたいな……そんな感じなのです!」

「…………ッ!」

 

 ゼーマン様がハッとした顔をした。

 そして製図用に用意していた羊皮紙と羽根ペンをかき集めるように手繰り寄せ、猛烈な勢いでなにかを書き始めた。

 間違ったところもありそうな杜撰な説明だったのだが、頭のいい人は違うらしい。

 話は聞いているようなので、わかる限りのことを伝える。

 

「電気はパッと散ってしまう扱いにくい力ですが、安定してちょろちょろと出力できるようになると万能なのです。鉄板を一定の温度にして料理をすることもできるし、動力源にして空気を冷やすことも、馬車を動かすこともできます」

「冷やすことも、動かすことも……!?」

「はい。ですがここは寒いローワンですから、まずはヒーター……熱発生装置を作りましょう。それを使ってこたつを模索していきましょう!」

 

 そう締めくくると、ゼーマン様は感動半分、悔しそう半分の実に楽しそうな顔をした。

 

「くうう……!! 電気、電気か。なぜ今まで可能性に気づかなかったのか。確かに電気には他には無い性質があり、未知だ。あまりに扱いが難しいとはいえ、無視するべきではなかった。皇都は私を置いて進んでいやがる……ッ」

「えっと……」


 本当はまだ電気機械はこの世界にないと思うんだけど、まぁ、希望に燃えているみたいだからいい……のかな?

 ワクワクするのは良い事よね。

 

「電気による熱発生装置について、どんなものだったか更に詳しくお聞きしてよろしいですか!? 形とか色とか、覚えている限りなんでも良いので!!」

「ウッ」

 

 まずい。

 うーん、知っていることといえば。

 

「聞いた話なのですが、秘訣は、“摩擦”なのだそうです」

「摩擦?」

「はい。電気が物体を通る時、物体を構成する細かい粒と摩擦を起こすから熱が発生するんだそうです」

 

 私はまず、手を擦って見せた。

 

「寒い時、手を擦り合わせますよね。すると表面が熱くなりますよね」

「ええ」

「これが摩擦熱です」

 

 次に私は、近くにあった長い花瓶を手に取った。

 

「この花瓶……単純に筒としましょう。筒の中に細かい砂がたっぷり詰まっていたとします」

「ええ」

「その砂の中に思いきり手を突っ込んだら、擦れて痛いだけでなく、砂と手が擦れた部分がサッと熱く感じるはずですよね」

「……確かに」

「さて、金属の塊も、目に見えない細かいツブツブが集まったものにすぎません。細かいツブツブの中に、電気を通す……つまり内部を雷の速さで摩擦すると、どうなりますか?」

 

 ゼーマン様は嬉しそうにポンと手を打った。

 

「激しい摩擦熱が生まれますね。電気を継続して通すことが出来れば、物体は内部から熱され続けて“ヒーター”の熱源になる……そうか、それが電気による熱なのですね……!」


 小学生レベルの理科とはいえうろ覚えなので、ふわっとした説明だったのだが、ゼーマン様は持ち前の頭脳でイメージが描けたらしい。

 

「なるほど、電気を通す丈夫な素材を、電気を通さない不燃物体で囲めば……熱だけを安全に利用することができるということか!」

 

 おお、それっぽい。

 私の頭の中にはオーブントースターが思い浮かんだ。

 あれも確か、熱線をガラス菅で包んで熱だけ利用している感じだったはず。

 

 そのはずですと伝えると、ゼーマンさんはキラッキラの笑顔で丁寧なお辞儀をした。

 

「奥様、ありがとうございます!」

「いえいえ」

 

 私が話したのはうろ覚えのなんちゃって知識だ。

 ちょっと騙しているし。

 そう思って頬をかくと、ゼーマン様が微笑んだ。

 

「──きっと奥様は、この領地に春をもたらして下さる」

 

 突然の季節の話に、ぽかんとした。

 

「春ですか?」

「そうです。この領地では場所柄、春を神格化して参りましたが、きっと奥様はその代名詞になられることでしょう」

 

 なにやらウンウンと嬉しそうに頷き、腕を組んでしみじみ頷いている。

 ゼーマン様の大好きな分野の情報を伝えたとはいえ、もの凄い絶賛だ。

 自分で研究して得た知識でもなければ、皇都でそんなものが流行っているという嘘までついているので若干ソワソワするが……まぁゼーマン様は楽しくて、私はコタツに一歩近づけてといい事ずくめなので、良しとしよう。

 

 ──こんなふうにゼーマン様と熱く話しているうちに、マリンがそっとお辞儀をして退出していたのだが、私はその意味を深く考えていなかった。

 

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