表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちら天界、第十八転生局  作者: 板近 代
第二章『女神様、がんばれ』
7/18

その七:絶対神と交渉する

 小規模空間を二つ抜け、中規模空間を八つ抜け、大規模空間を一つ抜けた先にある規模という概念が存在しない空間にその神はいる。


 絶対神ゼイラス・ラハトス・レムリエルトラウス・セ・ス・ラトスト・ウィエイルヴィルギアトゥータス・レ・クリエイム。


 巨大な眼球が二、中程度の眼球が九十六、小型の――つまり、人間と同程度の大きさの眼球が九百六十八。高濃度圧縮のかかった立方体状の脳が一つ、天使よりも白く清らかで小鳥のように愛らしい翼が九十五万千二十八。それらが浮遊し、時折位置を入替えるその姿こそ天界の最上位存在である絶対神ゼイラスである。


「魔界を一つ手に入れたという書類が、届いている」

 

 下級天使レイサリスの書いた書類に不備はなく、一度の修正も食らわずにゼイラスのもとへと届いていた。


「はい、私が担当する転生者が魔王を倒しました」


 そのレイサリスの上司である女神ミャウル・レ・ハトラリックは、強い意志を持ってゼイラスの前に立っていた。必ず、()()を突破し、()()()()()()()()を持ち帰ってやると。


「ミャウル、(われ)の名を言ってみろ」


 ゼイラスの身体は巨大で口はどこにあるかわからないが、声は聞き取りやすい。


「はい。あなた様は()(しゅ)、ゼイラス・ラハトス・レムリエルトラウス・セ・ス…………」

「どうしたミャウル」


 ゼイラスは良い感じのハスキーボイスで、心配そうに尋ねた。


「いえ、なんでもありません。あなた様は我が主、ゼイラス・ラハトス・レ()リエルトラウス・セ・ス…………」

「まさか、我の名を忘れたのではあるまいな」

「いえっ――」


 長すぎて覚えられないだけです……と言いかけて、ミャウルは黙る。


「まあよい。貴様はここにボーナスをもらいに来たのだろう」

「はいっ! 担当している転生者が魔王を倒した場合、()()()の給料三か月分をボーナスとしていただけるという約束……でしたよね?」


 ゼイラスから手渡しでボーナスを受け取ることができる者は、天界でもごく僅か。つまりは、特別扱い中の特別扱いであるのだが…………ミャウルの場合は局長を務める第十八転生局の成績が悪すぎるせいで、お説教つきでないと渡せないという悪い意味での特別扱いであった。


「約束、ねぇ。そう言う貴様は我との約束守ってるのかな? ここに来た後、成果出しますって毎回約束して帰るよねぇ。で、どんだけぶり? 魔王倒したの、どんだけぶり?」

「ぐっ…………」


 絶対神のくせにラフなしゃべり方しやがってと、ミャウルは少し苛立つ。


「ねぇミャウル。約束守れない女神との約束って、守る必要あると思う? 我はないと思うなぁ」

「そ、そんなこと言ったらゼイラス様だって私との約束守ってないじゃないですか!」


 しまった……と思った時には、すでに遅し。ゼイラスの立方体状の脳が展開し、中からミャウルと全く同じ姿をした少女が現れていた。


 この術は非常に危険――――。


 ゼイラスが作り出した()()()()()()()()()()を要求したら、全てを入れ替えられ奪われてしまうのだ。


「約束? もしかしてアレのことか?」

 

 ミャウルの頬を撫でながら、全く同じ顔で絶対神が問う。


「は……はい。約束のアレの開発は、進んでいるんですか? もう、随分と経ちますが」


 ミャウルは冷や汗をかきながら、全く同じ顔の絶対神に言い返す。


「進んでいるよ。だから、我は貴様との約束はやぶっていない。そうだろう?」

「それは……もう……しわけありませんでした」


 足が震え、手が震え、声も震える。これが、絶対神の威圧。


「ところでミャウル、貴様はなぜそう魔界に行きたがる」


 その質問が、ミャウルの震えを止めた。


「転生者の多くは、魔界に行ってはじめて殺しを経験します。でも、私は違います」


 ミャウルは凛として、まっすぐに、本当にまっすぐにそう答えたのだ。


「魔界はいまだ増え続けている。仮に、貴様が堕ちずして魔界に降りれたとて、人間の手を借りずに済むことは――」

「それでも、です」

「我の話を遮ったな。十パーセント減給だ」

「あ、ちょっと待って! すみません!」


 時、すでに遅し。ゼイラスはその絶対なる力で、ミャウルの減給を天界の理の中に組み込んでしまったのである。


「ともあれ、わかってくれミャウルよ。全世界の崩壊を防ぐには、我々は割り切るしかないのだ」

「大丈夫です。割り切るのは、得意ですから」


 なにがともあれだと思いつつ、ミャウルはこれ以上減給されないよう丁寧に答える。


「貴様のような考えを持った神が増えてくれれば、我も楽なのだけどな」

「絶対神がぼやきですか? まぁ、心配しないでください。アレができたら私が――」

「我に対しぼやきと言ったな? 今回のボーナスはなしだ」

「え? 待って」

「待てぬ」

「ま、待ってください! えっと、えっと満額じゃなくても良いですからなんとかなりませんか!」


 炎の女神ミャウル・レ・ハトラリック、絶対神ゼイラス・ラハトス・レムリエルトラウス・セ・ス・ラトスト・ウィエイルヴィルギアトゥータス・レ・クリエイム相手に交渉を開始する。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ