その十六:アレとともに落ちる
ゼイラスとミャウルは、真剣な面持ちで話を続けた。
「ミャウル、貴様本当にその手で魔王を殺す気か」
「転生者、いや、人間にやらせといて女神がやらないなんて道理が通らないじゃないですか…………と、かっこつけるのはここまでにしてはっきり言わせていただきますが、殺りますよ。そのために魔界に行くんですから」
「嫌ではないか?」
「ナーバスになりすぎですよ。私たち女神は、絶対神ゼイラス・ラハトス・レムリエルトラ……ゼイラス様の駒ですからもっとどーんと構えてくれないと」
ミャウルは、ゼイラスの長すぎる名前を覚えきれていないのである。
「駒……か」
「駒を駒と扱う孤独がゼイラス様が背負うべきの責任なのかもしれませんね……と、今の話は生意気過ぎましたね、すみません」
「ミャウル。最後に一つだけ聞く」
「なんですか」
「貴様はいろいろ知らん知らんと無知を装っているが、本当はそれなりに把握しているのだろう?」
「たしかに、三割くらいは知らないふりしてますが、七割はガチで知らないです。まあ、馬鹿のふりしてる馬鹿ですね」
「そうか…………」
絶対神はため息をつく。
「さて、そろそろアレと私を合体させてくれません? これでも一応緊張してるんで、さっさと終わらせてほしいんですよね」
「せめてもの気遣いとして、魔界に落としながら合体させてやる。そうすれば、覚悟も鈍らんだろう」
「さすが絶対神、優しいですね。じゃあ、行ってきます」
「必ず帰ってこい」
「はい、必ず」
ミャウルの足元に、魔界へと転移させるための複雑な魔法陣が現れた。
「では、頼むぞミャウル」
「は――はぁああああ!???」
急速落下。返事を完了する前にミャウルは魔法陣の中へと吸い込まれていった。まるで、落とし穴にでも落ちたかのように。
「うわあああああああ……っと、焦ってる場合じゃない!」
冷静さを取り戻し、自分と同じ速度で落下していくアレを見つめる。
「…………」
まだ、下には何も見えず暗闇があるだけ。
「…………」
まだ、下には何も見えず暗闇があるだけ。
「…………」
まだ、下には何も見えず暗闇があるだけ。
「…………」
まだ、下には何も見えず暗闇があるだけ。
「…………」
なんとなくぼんやりと下の景色が見えた。
「…………」
それらが生い茂った木々であることがわかるくらいに近づいた。
「おい! いつ合体するんだよ!」
ミャウルが叫んだ瞬間、アレが強く発光した。実はアレは速い速度での落下と「合体」という言葉がトリガーとなり発動する仕掛けであったのだが、ゼイラスは伝え忘れていたのである。