その十五:アレが目の前で停止したまま絶対神と話す
紅く光る宝石は、ミャウルの目前で停止した。
「これが……アレなのですね」
「ああ、アレだ」
余談だが、二人がソレをアレと呼ぶのは正式名称が決まっていないためである。
「で、このアレってどう使うんです」
「合体だ」
「あー、宝石が体内に吸収される的な。ま、よろしくお願いします」
「相変わらず躊躇ないなおい!」
「え、だって避けられないことだし」
「前説明したけど、合体したら貴様は女だけではなく男の特徴もその肉体に得ることに――」
「目的達成のために必要なら別に」
「躊躇ないなおい!」
余談だが、長い天界の歴史の中でここまで(軽いノリで)絶対神を驚かせたのはミャウルが初めてである。
「まあ、正直言うと、男の身体の特徴ってよくわかんないんでちょっとはビビッてますけど、戦闘の邪魔にはならないんですよね?」
「貴様の性格ならならんだろうな」
「それならあとは、魔界の住人ができるだけ悪人であってくれることを願うだけですよ。向こうからしたらこちらが異物。日常を壊す者ですからね」
「その点は安心しろ。どの魔界も、一部の特権階級が民を苦しめる悪国構造だ」
「昔からそう聞きますけど、そんな極端なものなんですかね。転生者の話を聞くと――」
ミャウルは思う、踏み込み過ぎたと。
「まあ、今の我の話は建前だ。事実、良き魔王もいるだろう。だが、それでも魔界を回収していかねば世界はもたん」
「そのあたりの話、詳しく教えてもらえます?」
「なあミャウル。なんで貴様転生局勤務なのにそのあたりの話知らねぇの?」
理由は二つ、勉強が嫌い&空腹の日が多すぎて学ぶ気になれないのである。
「どうしようもない理由があるってことはわかってますよ。今は子どもの身体ですけど、私、割り切りができないほどガキじゃないんで」
「はぁ……まあ、かいつまんで話すならば魔界は分解である」
「マカイハブンカイ?」
ミャウルの頭上に?マークが並ぶ。
「えっと……ほら、あのさ、魔界の数って増え続けてるでしょ? あれ、放置しておくと人間界にも天界にも影響して世界全体がバラバラになってしまう可能性が高いのである! という感じ……なんだけどわかるかなぁ」
「可能性が、高いんですね」
ミャウルはなんとなく納得する。
「ミャウル、可能性で動いていることに反感はあるか? 素直に答えよ」
「不快感はありますが、反感はないですよ」
「貴様らしい答えだな。正直、我は貴様を魔界に送ることを危惧している部分もある」
「え、なんでです?」
ミャウルには、心配される理由が全く分からない。
「貴様は根本的な部分で魔界を差別していない。他の者と違ってな」
「ああ、周り見てるとそういう感じはありますね」
「貴様は天界の民としては異端なのだ。だから貴様の送り込んだ転生者は魔王殺さずに付き合っちゃったりもするだろう」
「ああ……」
頭の中に、とある転生者の顔が思い浮かぶ。
「だが、我はそこにかけたい。世界を維持するために魔王を殺し続けなければならない世界は、致し方ないが正しいとは思えんのだ」
「絶対神も大変なんですね」
「良き世界をつくるのが我の務めだからな」
「まあ、もし魔界と天界が和解して、天界の人らが魔界の人らを嫌うなら私がしばきたおしてあげますよ。天界って、ムカつくやつばかりなので」
「そこに我も入ってる?」
「ノーコメントで」
「ふふ……ははははは! はははははは! ミャウル、やはり貴様が生まれたことには意味がある! 貴様は世界を変える鍵かもしれぬぞ!」
いきなりそんな大それたこと言われても……と思いつつ、ミャウルはニヤリと笑ってその場をやり過ごす。




