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こちら天界、第十八転生局  作者: 板近 代
第一章『女神様、がんばる』
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その一:転生者を脅してみる

 ここは天界にある小規模空間の一つ。その名も、第十八転生局。


「まともに魔王倒してくれるやつはいねーのかよ!」

「お口が悪くなっていますよ、ミャウル様」


 一つしか存在しない天界に対し、複数存在する魔界。


「どいつもこいつもさぁ! 現地で女つくったり男つくったりさぁ! 両方つくったりさぁ!」

「ミャウル様、お口がとても悪くなっておりますよ」

「だってそうじゃん? 私が魔界に人間を転生させてるのはぁ! 魔王を倒すためであってさぁ!」


 転生局とは魔界に転生者を派遣し、各魔界に一人ずつ存在する魔王を討伐させることを目的として設立された部署。あまりにも魔界の数が多すぎるため、第十八、第十九、第二十………と部署の数も増えていったのである。


「恋愛くらいいいじゃないですか」

「あいつらすぐハーレム作って隠居しやがるじゃん! なにがスローライフだ! ぶっ殺すぞ!」


 褐色の肌に赤髪赤眼、炎の女神ミャウル・レ・ハトラリックはプライドを持ってこの仕事に就いていた。


「そういう恋愛もありますって」

「ねぇよ! しょっちゅう揉めて刺されてる転生者(ばか)がいるの知ってるだろ!」


 だがもう限界であった。


 現在、第十八転生局の管轄である百五十三の魔界のうちの五十四か所に転生者を派遣中…………だが……………………誰も魔王を倒せていない。その成果ゼロ期間は、本日で一年と三ヵ月と十六日。ミャウルは今年だけでもう四回も減給をくらっていた。

 

「でも、報酬がなければ人は動きません」

「では、人間以外を転生させてはどうでしょう? って、先週も言ったよね私ー!」

「ゼイラス様もその件は考えておくって言ってくれたじゃないですか」

「いーや、違うね! 許可とかじゃないね! ゼイラス様ができないからごまかしてるだけだって! はぁ、意外と全能じゃないよねぇあの人」


 ミャウルはもう、天界の最上位者である絶対神ゼイラスの文句を平気で言えてしまうくらいに限界なのである。


「それ、報告しますね」

「あー! やめて! やめて! ゼイラス様怒るとマジ怖いから! 見てよこの身体! 椅子に座るためにピョンって飛ばないといけないんだよ? しかも全く成長しない!」


 玉座のような大きく豪華な椅子に座るミャウルの脚は短く、床についていない。これはずいぶんと前に受けた罰のせい。ゼイラスを怒らせ、幼い子どもの姿に変えられてしまったのである。


「なら、口を慎んでください」

「ねぇ、レイサリスさあ。私の部下の癖に当たり強くない? 私は一応女神で、レイサリスは下級天使なんですけど!」


 金の髪と瞳に白い肌、大人びた肉体を持つレイサリスはミャウルの言う通り下級天使であった。だが、成績は群を抜いて優秀。通常、転生局を一つまわすには女神一人と中級天使五名以上は必要と言われるのだが、第十八転生局にはミャウルとレイサリスのみ。レイサリスは()()()()以外の全てを一人でこなす、スーパー下級天使なのである。


「パワハラで報告しますね」

「それ人間の価値観だから! 私たちは無償の愛を持つ者だから! 奉仕の心忘れちゃダメダメ!」

「転属願いだしていいです?」

「だめ! やめて! ごめんなさい!」


 人を使う能力に乏しいミャウルは、()()()()()()()()()()ため他に部下を持つことができない。つまり、レイサリスに転属されたら第十八転生局は確実に崩壊…………そんなことが起きれば、ミャウルは絶対神よりさらなる罰を受けてしまうことだろう。


「しかしさぁ、ほんと役に立たないよね転生者」

「そんなに文句言うなら、ミャウル様が直接魔界に行ったらどうですか?」

「え、魔界行ったら堕天しちゃうじゃん!」

「でしょう? 神も天使も魔界に降りると堕天してしまう。だから、人間に頼むしかないのです。ギブアンドテイク、持ちつ持たれつですよ」

「ギブとテイクのバランス悪くない? 天使のレイサリスにはわかんないかもしれないけどさぁ、転生者にスキル与えるのめっちゃしんどいんだからね」

「それがお仕事じゃないですか。あ、ほら、新しい魂さんが来たみたいですよ」

 

 ミャウルの目の前の床に、紅い魔法陣が現れた。


「はぁ、転生()()()()者さんのおでましか」

「…………」

「ねぇレイサリス。ギャグがわからなかったのか無視したのかどっち?」


 レイサリスはなにも答えなかった。


「レイサリスさ、もう少し上司に気をつか――」

「さ、ミャウル様。ご対応を。上司ぶるなら仕事はちゃんとしてください。うちに適正者まわしてもらうの、久しぶりなんですからね」

「はいはい」


 魔法陣が強い光を三度放つ。これは、転生に適正アリとされた魂が、魂管理局たまかんから送られてくる合図である。


「よく来た人間よ。我は炎の女神ミャウル・レ・ハトラリッ――――なんだおまえかよ」


 魂は多くの場合、生前の姿のままで現れる。そして、今回の魂はミャウルの顔見知りであった。


「てへへ、私、また死んじゃったみたいですね?」


 肩のあたりで切りそろえた黒髪に黒い瞳。彼女は元日本人であり、その後、魔界に二十回以上も転生しているベテランの勇者。その名を、ルイナ・レイトバーンという。


()()()によると、ルイナさんは今回も女性がらみの死因のようです」

「たはーっ! 今日も厳しいねレイサリスさん! そして可愛い! 私と付き合ってくれない?」

「いえ、私はミャウル様が好みですので」

「え、なにいきなり告白してんのおまえ。え? え?」

「だはは。取り乱すミャウルちゃん可愛いっ! ねぇ、付き合って」


 異常なまでの女好きであるルイナのこれまでの死因は全て、女性関連。毎度本人の浮気が原因で、殺されているのである。もちろん、日本人として死んだ時も含む。


「付き合うわけねぇだろ馬鹿。で、転生する?」

「もちろん! ほんと、魔界の女の子ってマジで可愛くて! あ、ミャウルちゃんのほうが可愛いけどね」

「相変わらず落ち着きのねぇ女だな。今度はちゃんと魔王倒してこいよ」

「はいはーい」

「はぁ……………………ん? あっ!」


 軽すぎるノリのルイナに、ミャウルはげっそり……………………した後に、何かを思いついたようである。


「なにミャウルちゃん。私の顔じーっと見て。付き合いたくなっちゃった?」

「いや、おまえ今度死んだら、転生なしな」

「え」

「記憶持ったままの転生は今回でおしまいな」


 それは、本気の脅しであった。


「え、待って。ちゃんと説明して?」

「次魔王倒さずに戻ってきたら全部リセットしてもらうから。完全な別人として生まれ変わってもらいます!」


 ルイナが倒した魔王の数は、十をこえる。だがそれも過去の話……最近は浮気して刺されて死んでばかりのトラブルメーカーでしかない。


「嫌だ! 私は私でいたいです!」

「だめ」

「待って待って待って! 別の人生になったら今まで付き合った女の子たちのこと忘れちゃうよ! それはとっても哀しいことだよ!」

「知るか」

「困るぅ。困るよミャウルちゃん! 私は思い出に生きる女なの!」


 焦るルイナが気の毒に見えてしまったミャウルは、小さくため息をつく。


「だから、魔王倒してくれたら大丈夫だから。おまえ、魔王倒したら死ななくても天界戻ってこれるの知ってるだろ? 何回もやってんだからさ」

「まあ、私強いですからねぇ!」

「そう、お前は強い。魔王倒して帰ってきてくれたら今の記憶のまま次の魔界に送り込んでやるし、()()()()()()の話もなしにしてあげるから」

「無理だよ!」

「なんでだよ!」

「恋愛と勇者の両立はすごくきついんだよ! 私から声かけるの我慢しても、告白されて断るとか可哀想すぎるよねぇ!」

「おまえ、勇者に転生したからモテてるだけなの忘れんなよ? 言うこと聞かねーとバッタとかに転生させるからなぁ!」


 どうでもいいことだが、ミャウルはバッタの見た目が意外と好きである。


「はい…………がんばります」

「おう、がんばれがんばれ。おまえ、実力はあるんだから、あちこち浮気せず魔王に集中すればすぐに攻略できるから」

「はい…………」

「よし! がんばれ勇者ルイナ!」


 ミャウルは満足げな顔でゴツい椅子からピョンとおりて、両手を床につき魔界への転生ゲートを開く。


「あ。スキルは前のままでいいよな? おまえのスキルは超つええんだから、それでいけるよな?」


 念を押すのは、新規でスキルを与えたくないから。()()()()の中で最も疲れるのは、新スキルの授与なのである。


「スキルはそのままでいいけどひとつだけお願い聞いて! ミャウルちゃん、私が魔王倒したら私と付き合――」

「嫌」


 そんなこんなで、ルイナは再び元いた魔界へと転生させられたのであった。



***



 それから、二か月後。観測局よりルイナが魔王の目前へと迫ったという報告が入る。


「な? 私の狙い通りだろ? な?」

「だといいんですけどね」


 ミャウルは上機嫌だが、レイサリスは懐疑的であった。


「そこは普通に称えろよ。へへー。これで久々にがっつりボーナスもらえるぞぉ」

「奉仕の心はどうしたんですか」

「ルイナにはだいぶ苦労させられてるんだからいいだろ別に!」


 それからさらに一か月後、ルイナはミャウルの元へと帰ってきた。


「ミャウルちゃんただいまー!」

「いや、なんで死んでんのおまえ」


 死者の……魂として………。


「観測局によると、魔王と出会って二日後にお付き合いを開始、その二週間後には部下四名に手を出したことがバレ、嫉妬に狂った魔王に後ろから――」

「おいルイナ。私は浮気せず魔王だけを攻略してこいって言ったよな」

「魔王様もちゃんと攻略しました!」

「そっちの攻略じゃねぇよ!」


 ミャウルの心は、泣きたい気持ちで一杯であった。


「ねぇ、ミャウルちゃん! 私の話を聞いてくれるかな!」

「なんだよぉ、もう話しかけないでくれよぉ」

「次は真面目にやるから転生させて! もう一回! もう一回だけ転生させてください!」


 ルイナ、頭で床を叩き割らんばかりの全力土下座。


「はぁ…………」

「お願いします! お願いします! 次は我慢しますから! 魔王倒すまで我慢しますから!」

「転生先、違う魔界でいいか? ()()()のところに転生させるわけにはいかないからな」

「ありがとうございます! ありがとうございます! ミャウルちゃん可愛い! 愛してる!」

「いや、愛するのはやめてくれ」


 ミャウルはなんだかんだ、人間に甘いのである。



***



 ルイナを別の魔界に転生させてから、約二時間後。定時に仕事を終えたにも関わらずげっそりとした顔をしているミャウルに、レイサリスが淹れたての珈琲を差し出した。


「おつかれさまでした」

「ほんと、つかれたよ」


 珈琲に角砂糖を四つ沈めたミャウルは、幼い少女の身体を持っているにもかかわらず、疲れが一晩でとれない中年のような表情をしていた。


「でもミャウル様、なかなか慈悲深くてかっこよかったですよ。あのルイナを赦すだなんて。さすが、女神様ですね」

「えへへ。そっかな」


 照れくさそうに、笑う。


「ええ。恋人の浮気を笑顔一つ見せられただけで赦し続けてしまう淑女ような慈悲深さがありました」

「おまえさぁ、私のこと舐めてるだろ!」

「お身体を舐めてみたいとは思いますが」

「ルイナみたいなこと言うんじゃねぇよ! 疲れてるんだからさぁ!」

「元気な時ならいいんですか?」

「ダメに決まってんだろ!」


 ミャウル、五つ目の角砂糖を投入。

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