表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/21

0.1 魔王と冥府の神

俺は、長い夢を見ていた。

 スキルで、村を焼き、ある少女と出会い、逃亡生活のような日常を送った。

 なぜだろう。

 どこか懐かしい。


「おはようございます。 魔王様」


 メイド服を着たエルフが挨拶をして部屋に入ってきた。

 スキル【災厄】

 このスキルは、代々魔王がもつスキルだ。

 このスキルの代償は、身体の機能を明け渡す代わりに、災厄を呼び起こすことが可能になる。


「魔王様? どうかなされたのですか?」


 メイドが心配して俺に近寄る。

 ふと、枕を見ると枕が濡れていた。

 俺の目から涙がこぼれている。

 ここ数年泣いたことすらなかったのに。


「大丈夫ですか? 魔王様」

「………ああ、すまない。大丈夫だ」


 あの夢、いったい何だったんだ。


「では、準備が整いましたらお呼びください」

「ああ、分った」

「失礼します」

 

 メイドが、部屋から出て行った。

 俺を起こすために彼女は、この部屋に来ている。

 いつものことだ。

 いつ、勇者が攻めてくるのかすらわからないためでもある。


「ギール。おはよう」


 知らない声が俺の背後から聞こえてきた。

 後ろを振り返ると、そこには夢に出てきた少女が立っていた。


「お前は、何者だ。なぜ俺の名を!」

「何者て………知ってるくせに………」


 少女は、俺に近づき左手の人差し指を俺の胸の中心に当てる。

 まるで、夢で見た光景と全く同じだった。


「知るわけがない! お前など」


 どこか懐かしい。だが、この少女は夢にしか出てこない。

 俺が知るはずがないんだ。

 少女は、頬を膨らませる。


「おいで、デュラハン」


 少女の後ろに禍々しい門が開き、首無し騎士が一人現れる。

 その光景は、まさしく、夢に出てきた光景と一緒だった。


「これでもだめ? もうしょうがないんだから」


 少女はデュラハンをその場から消し去ると俺に近づいてきた。

 俺は、次元魔法に仮想空間に入れていた魔剣を構える。

 だが、魔剣は俺の言うことを聞かず、勝手に床に落ちる。


「ダメでしょ? こんな危ないもの持ってちゃ」

 

 室内だが、仕方ない!。

 俺は、魔法を使い部屋を地獄の業火に包み込む。

 熱い。だが、これなら少女は………


「もう‼ お洋服焦げちゃったじゃない。悪い子にはお仕置きしないと」


 にやりと笑った表情で少女は、抱き着く。

 一瞬で俺抱き着いたため、反撃すらできなかった。


「思い出させてあげる」


 そのまま、少女は、俺の唇を奪う。

 すると、夢で見た、少女の視線の俺が映っていた。

 あれは、現実だった。

 俺は、災厄の代償として記憶と少女を失った。

 無の空間で、俺は魔王として再構成された。


「エレラ………?」


 唇を離して、最初に出たのは、少女の名前だった。

 冥府の神エレラーノ。彼女が自分でつけたあだ名だった。

 

「そうです。私エレラです」


 いつもの口調に戻っていた。

 相変わらずどこぞの姫と思うような口調で。


「エレラ、どうやって俺を見つけた? あの時俺とお前は創造神によって切り離されただろ」


 聞いてみたが、少女はその場で黙り込む。

 相変わらず小さい。

 だが、それがいいといえる。


「パパを殺しただけですけど文句ありますか?」


 少し照れながら少女は言った。

 少女の父である創造神を殺したことを


『スキル【災厄】b2729818ue9-e99wahd0asdpjahdpiahihciaposj0u29-j@ad0ja』


 脳内にアナウンスが流れる。

 頭が割れそうだ。

 

「嗚呼ああ…ああああああああ!」


 あまりの痛さに叫んでしまう。

 まるで、少女に殺された創造神の断末魔のようにきこえる。

 恐怖に包み込まれ、冷や汗が体中からあふれ出す。

 

「もう、仕方ないわね」


 少女がそう言っているのが聞こえてきた。

 だが、俺はまだ叫んでいた。ずっとアナウンスがバグっている。

 フローラルの香りと共に、暖かい感触が背中全体に広がる。

 知っている懐かしい感触だった。

 数秒が立つと、いつの間にか叫ばなくなっていた。

 だがおかしい。これだけ叫んだのにだれ一人として部屋に来ないなんて。


「悪い、助かった」


 後ろにいるはずの少女に言う。

 すると、左の耳もと少女がつぶやいた。


「大丈夫よ。あなたがおかしくなったのも私のせいなのだから」


 と少女が誤ってきた。

 すると、城内が慌ただしくなる。

 止まった時間が元に戻っていくかのように。


「魔王様………」


 部屋に入ってきたエルフのメイドが背中にいる少女を観て口が固まる。

 少女が俺の横でメイドに向かって手を振るとエルフのメイドが部屋から飛び出ていった。


「絶対誤解してるよね」

「だろうな。俺しかいないはずの部屋に一人身元不明な人が俺の横にいたらそうなるわ」


 と俺は言う。

 その時、少女は地面に転がった魔剣をじっと見つめていた。


「足、治ったの?」


 少女が聞いてきた。

 右足の代わりとなっていた魔剣が床に転がっていたからだろう。


「まぁな」


 俺は右足のズボンの裾を少し見えるように裾をまくる。


「………治ってないじゃん」


 治っている右足を見て少女は反対の言葉を言う。

 その通りだ。

 実際には、剣を取り出すために義足を作りそれを魔法で人間の足のように見せているだけに過ぎない。


「治ったて言えるだろ?」

「まぁね。でも魔剣を取り外すなんて命知らずね。大量出血で死にかけるわよ普通」


 頬を少し赤くなっている少女が言う。

 心配してくれたようだ。


「魔法で止血はしてたからな。その辺は問題ない、ただ………」


 これを言っていいのかと思ってしまった。

 少女にまた心配をかけるのではないのかと。


「ただ?」


 きょとんとした顔で俺を見つめてくる。


「魔剣がずっと足にへばりついててな、すげぇ痛かった」


 そのことを話す。


「あははははははははは」


 すると、少女は笑い出す。

 なにも変なことは言っていないはずなのに。


「な、なんだよ………」


 笑っている少女をじっと見つめる。

 笑い終わったのか少し左目から涙を流しながら少女は言った。


「そんなの魔剣だからに決まっているでしょ? 魔王になってもまだわからないなんてあの時の少年の時のままね。あなたもわたしも」


 はっと昔起きたことを思い出した。

 一度触れた魔剣が二度と離れないことを。

 なんで忘れていたのだろう。


「エレラ。お前だってな………」


 笑い話のように話している俺達。

 お互いに身を寄り添ったあの時。

 どうして俺は、忘れていたのだろう。

 そんな大事な記憶を。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ