7 これで、おしまい
「捌くの手伝ってもらっていいか?」
「え?」
固まっていた少女がやっと動いた。
だが、何かに呼ばれたのか、俺に背を向いてしまう。
少女の手を離して俺はモンスターの死体の前に寄り添う。
解体しようにも、刃物がないことを忘れてしまっていた。
すると、眼の前に白銀のナイフが現れる。
まるで、少女の愛剣の様だ。
ふと、右足を見ると、足の指先が無くなっていた。
「エレラ、ちょっといいか?」
俺に背を向けていた少女が反応してこっちに駆け寄ってきた。
俺の隣に来ると、目の前で浮いていたナイフを手に取り、一瞬で解体すべてのモンスター解体が終わってしまった。
「これでよろしかったでしょうか?」
少女が聞いて居てくる。
少女に、恐怖を抱きながらも俺は首を縦に振った。
解体した中には、かなり大きなモンスター毛皮があった。
まるで、羽のようにふわふわとしており、布団には最適なものだ。
「これて、まさかと思うけど………」
少女が別の方向を向いている。
知っていたらしい。
神獣と呼ばれるフェンリルがこのモンスター達を仕切っていたようだ。
明らか、それらしき骨や肉、牙があり確定的だった。
「神の使いだよね………」
「私には関係ないもん!」
眷属ではないので大丈夫なようだ。
大丈夫なのか………。
とりあえず、フェンリルの皮を布団に加工することにした。
まあ相変わらず少女の知り合いの幽霊さんたちのおかげで布団に俺が、かこうすることなく、ベッドが完成した。
なぜか、ダブルベッドである。
笑顔で少女は、空に向かって手を振っている。
作り直してほしいのだが………。
「どうかしましたか?」
少女が上目遣いで聞いてきた。
瞳が日光で輝いている。
「いや、他にスキルを封印する方法はないのかなて」
心の奥にしまっていたことをすんなりいってしまった。
普通の人間として暮らしたい。
人間の街に行きたい。
ただそれは、少女を悲しませるだけなのだろう。
「やっぱり死んでみますか?」
「なんでだよ!」
少女はクスクスと笑っていた。
いつでも殺せて、いつまでもスキルに縛られることなどない。
俺の理想かもしれない。
だが、まだ死ねない。
皆に生きてと言われてしまったからには、何としても生きるしかない。
『『スキル【災厄】が発動しました』』
いつものアナウンスが二つ同時に聞こえてきた。
俺は、身を回避するために、城に入ろうとする。
だが、俺の前にはなにもない。
そればかりか、後ろにいる少女以外何もない。
草原の真ん中に立っていた。
「ど、どこなんだよここは!」
その状況に混乱して言い放つ。
城から転移されたのだろう。
少女の右手を掴むが、手汗がすごく少女すら恐怖に陥っている。
「と………とりあえずここはどこなのか調査してみましょう」
俺が掴んだ少女の右手が握り返してくる。
恋人つなぎだったのは、あまり言わない方がいいだろう。
「そうだな。どこに転移させられたのか分からないし」
少女に右手を引っ張られた途端、俺は血反吐を地面に吐いた。
一体なんだと思い、胸に手を当てる。
すると、そこにはあるはずの音を感じなかった。
「持ってかれたか」
鼓動がない。
心臓を持ってかれたらしい。
だが、どうしてだろうか、全く苦しくない。
「いま………持ってかれたて………」
少女に右手を握られたまま、俺の胸に耳をくっつけてきた。
ふんわりと白銀の髪が揺れ、花のような香りが広がる。
だが、そんなのは一瞬だった。
少女は、俺から離れるとその場で泣き崩れてしまった。
聞いたのだろう。人にはあるはずのものがないことを。
「ど………して………どうして………」
少女が言い出した途端、背中に巨大な門が現れる。
その門は、死の門と呼んでもいほど、禍々しいオーラを放っていた。
突然、門は勝手に開き、中から人魂が次々と出てくる。
実際にその光景は、城で見ていたため、あまり驚かない。
だが、きれいだとは思ってしまった。
「もう………やだよ………こんな結末なんて………」
少女が立ち上がると、俺に抱き着いてきた。
「ちょ………」
「お願い、少しこのまま」
門から首無しの鎧が影の馬に乗って外に出てきた。
デュラハンだ。
彼らは、過去の英雄がモンスターとなって甦る。
だが、この門が特殊なのだろう。ほかにもデュラハンが出てきていた。
まるで、姫を迎えに来た騎士のように。
「この門は、なんだ」
俺がそういった途端、少女は小さな言葉で何か言っていた。
「いけ」
だが、どこの言葉かすらわからない。
現代の言葉ではないことがわかる。
その言葉に反応して、デュラハンが四方八方へ散らばってどこかへ行ってしまった。
「ごめんね」
『『『『スキル【災厄】がががががが』』』』
複数のアナウンスが脳内に流れ出す。
同時になったことで最後のほうは、よく聞き取れなかった。
すると、俺たちを中心に星があちこちに降り注ぐ。
これも、スキルの影響だろう。
「なんで、なんでこうなるんだよ!」
俺は少女抱きしめながら言い放つ。
恐怖と怒りが、溢れ出す。
この星降りは俺のせいだ。
これで何千何万の命が消える。
もう、俺に残されたのは、死ぬことしかないのだろう。
少女から手を離し、立ち上がろうとする。
だが、少女に止められてしまう。
「………どこ………行く………の?」
震えている口で少女は言う。
少女にとって恐れていたことなのだろう。
「俺を殺してくれ」
と俺が言った途端、少女の表情が暗くなる。
パン………。
気づくと、俺は少女にビンタされていた。
右頬が痛い………。
「馬鹿なこと言わないで! あなたは人間なの! 生きることが貴方達の役目だとなぜわからないの!」
光り輝く雫を瞳から出しながら少女は言い放った。
普段とはあり得ない大声でだ。
「ばか………ばか………」
と言い放って、少女は疲れたかのように俺に寄りかかって泣き出す。
泣いている少女を観ていたら、いつのまにか俺も泣いていた。
気付かなかった。自分が泣いていることに。なぜなのかすらわからない。
ただ、気づいたのは、涙が地面に落ちるとこが見えたからだ。
「ごめんな」
少女の頭を撫でながら言う。
いつの間にか、少女に抱き着かれており、身動きが取れなくなった。
すると、片目の視界がなくなった。
スキルの代償だろう。
「え? なんなんだよ! なんで左目が何も見えないんだ!」
俺は改めて代償の恐ろしさに恐怖する。
少女に深く抱きしめられても落ち着きを取り戻すことができなかった。
スキルが発動するたび身体の機能がもってかれていくのだと少女は言っていた。
まさしく、その通りだ。
もう俺は、キメラに近い存在なのかもしれない。
「なぁ、どうして俺を生かすんだ?」
聞いておきたかった。
少女が、ここまで俺に生きることを選ばせるのかを。
だが、少女は、黙り込んだまま何も言わない。
「どうしてなんだ?」
さっきまで泣いていた少女にこれを聞くのは酷なのかもしれない。
だが、少女は俺を生かそうとしている。
その理由がわからない。
「………」
少女は、やはり黙り込んだままだった。
何も言わない。貝のように口を閉じたままだった。
「どうして………ん⁉」
俺が聞こうとした途端、少女は自ら自分の唇を俺の唇に重ねた。
まるで、口封じをするかのように。
目を閉じたまま、そのままキスをする。
俺から唇を離す。だが、少女は再度俺の唇を奪ってしまった。
キスを重ねることで、俺の身体が、治っているようだった。
再度唇を奪われたとき、鼓動が戻り、全身に血が巡っているのがわかる。
これは、少女からの祝福なのだろう。
少女から唇を離すと、自分の舌で左手の人差し指を舐め、舐めた人差し指を俺の胸の中心に触れた。
「エレラ………どうして………」
と俺がいった途端、少女の横にいたデュラハンが俺に近づいてくる。
「これで、おしまい」