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6 災厄発動・・・

「起きて………起きてください!」


 少女の声が聞こえ、目が覚める。

 少女の顔がかなり近く、頭の裏には柔らかい感触が二つほどある。

 どうやら膝枕されてるようだ。


「おはよう」

「おはようございます。よく眠れましたか?」


 さっきまで起きていた時は、日が昇っていたはずなのに、いつの間にか周りは、真っ暗になっていた。

 森の中で熟睡は、危険だが、なぜか安心して寝れてしまった。


「なにかおきなかったか?」


 と少女に聞いてみると、明後日の方向を向いていた。

 

「夜の森は危険ですから、城の中入って休みましょう」

「ああ、そうだな」

 

 城の中に戻りながら思う。

 そういえば、食欲がない。ここ数日何も食べていない。

 少女は、神だからわかるが、なぜ俺は何も食べずに平気なのだろう。

 城の中に入った途端、またあのアナウンスが頭の中に流れた。


『スキル【災厄】が発動しました』


 頭の中に流れ込んだアナウンス。

 その場で、俺はしゃがみ込み頭を両手で抑え震えだす。

 村のトラウマが映像のように頭の中に流れ始める。

 城の外から、数百を超えるモンスターの鳴き声が聞こえてくる。

 【災厄】によって引き寄せられたのだろう。

 考え込んでいるうちに、段々と眠気が押し寄せてくる。

 こんな時に………。


「ゆっくりとお休みになってください。私がどうにかしてきますから」


 という少女声がかすかに聞こえ、俺は声が聞こえてきた方へと右手を伸ばす。

 だが、冷たい床だけが感じられ、少女は既に出て行った後だった。そのあと俺は眠りにつく。冷たい床の上で。


 何時間ほど眠っていたのだろう。

昨夜、【災厄】に引き寄せられたモンスターの鳴き声が消えていた。

 脳裏に柔らかい感触がある。なんだろうと思いながら目を開けると、目の前には、少女の顔だった。

 柔らかいのは、少女の膝なのだろう。

 すぅすぅと息遣いが聞こえてくる。かなりつかれているのだろう。

そういえば、モンスターをどうにかするて言って外へ出でていったはず。

起き上がると少女が起きてしまうのではないかと思い、そのまま少女の寝顔を眺めていた。


「う、う~ん。えへへっもっと撫でてくださいおとうさまぁ」


 寝言を言っている。父親の夢でも見ているのだろうか。

 少女のほっぺを触れようと右手を伸ばす。

 すると、伸ばした手を少女が掴んできた

 起きているのではないかと思うが、まだ寝言を言いながら眠っている。

 無意識の少女は、俺の右手を自分の左のほほへと運んだ。


「やっぱり起きてるだろ」


 無意識に思ったことが、独り言で漏れてしまう。

 

「起きていませんよぉ」


 俺の独り言に、目をつむっている少女が返してくる。

 寝言のように見せかけているが、怪しい。


「夜は、その………助かった」


 俺が、昨夜のお礼を言った途端、少女は目を開けた。

 宝石のように美しく輝く黄色瞳がこちらをじっと見つめているのがわかる。


「気にしないでください」


 と笑顔になって少女は言う。

 膝から起き上がろうとすると、少女に体を膝に押さえつけられてしまう。


「今、動かないでください」


 顔を真っ赤にして、震えている少女が言う。

 両足がしびれたのだろう。


「わ、分った」

 

 と言って、再度赤くなった少女の顔を見つめる。


「そういえば、ここ最近、お腹がすくことがないんだ」


 さっき感じたことを話す。

 

「おかしくないか? 昨日あれだけ動いたはずなのに」


 俺が言うたびに、少女の表情が暗くなってゆく。

 何か知っているのだろう。


「知ってるよ、でも教えるとあなたが死にたくなるから言いたくない」


 死にたくなるほどまでの内容て、いったい何なんだろう。


「エレラがそばにいてくれるんだろ?」

「でも………」


 暗い表情の少女からひとつふたつとしずくが落ちてきた。

 泣いている。

 少女が泣いてしまうほどの内容なのだろう。


「教えてくれ、エレラがいる限り俺は、死なない。約束だ」

「ずるいよ………」


 暗い少女の顔に右手を伸ばして触れる。

 触れて途端、温かい体温とともに冷たい水が手に流れている。


「あなたは………【災厄】によってあらゆるステータスが強化されているの………それも【災厄】が発動するたびに。斧を振ったとき目の前の木じゃない木も切れたのは、あなたの力なの。私の斧を持てたのもそう」


 【災厄】によって強化されていたてことか。

 でも、お腹が空かないのはなんだ。


「ここから言いたくない………」


 と言って、少女は口を閉じてしまう。

 俺は、膝から起き上がり、少女を抱きしめる。


「なにがなんでも受け入れる! 教えてくれ」


 と少女にお願いすると、左肩の上で泣きながら少女は言った。


「あなたは、【災厄】を発動するごとに人間としての機能を失っていく。そしていつかは、【災厄】によってあなたの体がもたなくなって、命を落とす。それが【災厄】」


 これですべてが繋がった。

 食欲がないのは、【災厄】による代償というわけだ。

 胃が【災厄】の代償によって消えているのかもしれない。

 そう考えると、右足も【災厄】による代償で持ってかれたのだろう。

 

「ごめん………ごめんね」


 少女は俺に謝る。

 なぜなのかもわからないが、少女の頭を右手で撫でる。

 撫でた途端、少女は、泣き出した。

 溜まっていたものをあふれ出すかのように。

 俺は何もしゃべらずにただ少女の頭を撫でていた。

 こうしていれば、少女は、思ったことを全部言ってくれる気がした。


「私が………私が………あなたの………右足を………奪ったの………」


 この言葉に、怒りを覚えるも、すぐに引いてしまう。

 少女に、してもらった恩は、それを許せるほどのものだ。

 俺にとって少女は、心の安らぎでもある。

 あの時の、隕石は少女だったのだろう。

 何も言わず俺は、ずっと少女の頭を撫でた。


「話してくれて、ありがとな」


 お礼を言うと、さらに泣いてしまった。

 今度は、うれし泣きだろう。

 そういえば。これまで四回も【災厄】が発動している。

 その分ステータスは上がっているが、人間としての機能を失っているのだろう。

 だが、今までに自覚しているのは食欲がないことだけだった。

 他のどこが機能を失っているのかは、分っていない。日が経つにつれて変わるだろう。


「もう………大丈夫です」


 泣いていた少女がいう。

 少女の頭を撫でていた右手を放す。

 だが、少女はずっと抱き着いていたままだった。


「あ………あの………」


 黙り込んでしまっている少女。

 まだ、解放されないらしい。

 体勢が体勢だけに、あちこちがしびれてくる。

 

「まだですか………」


 少女に問いかけるも、口を貝のように閉じてしまっていた。

 何か言ってほしい一心で少女の頭を撫でる。

 一度ピクっと反応したが、そのまま動かなくなってしまった。

 困った………。


「すみません。退きますね」


 と言って俺から離れてくれた。

 泣いてた時とは、違い、いつものお嬢様に戻っていた。

 離れる時の動作も一つ一つ丁寧だ。

 やっと解放され、立ち上がろうとする。

 だが、猛烈な腰痛が俺を襲う。

 まるでハンマーにでも叩かれたような感じだ。


「大丈夫ですか?」


 少女が、心配して、俺の方へ、右手を伸ばす。

 数秒経ったらなんともなくなっていた。

 それよりも、昨夜のことが心配で仕方がなかった。


「いや、そっちこそ。昨夜は大丈夫だったのか?」

 

 と言いながら俺は、少女の右手を握り、立ち上がる。

 少女は、俺の質問には何も答えない。

 だが、その表情は夜のように暗い。


「見たほうが早いかもしれません」


 そういって、少女は城の扉を開けた。

 寝てた場所の目の前が、城の扉の前とか、どんだけ、無防備だったのだろう。

 少女に手を引っ張られたまま外へと出る。

 そこには、すべて真っ二つに切り捨てられた狼型のモンスターの死体があちこちに散らばっていた。

 少女がすべてやったのだろう。

 数百はいるであろうに。


「ふふふ、失望しました? 神でも殺生はするんですよ?」


 ほとんど、俺を守るためだろう。

 だが、これほどまでにきれいに真っ二つにされているのは初めて見る。

 それほどまでに、少女の剣の才能があるのだろう。

 もう、剣神でいいのではと思ってしまった。


「俺を守るためだよね……」


 というと、少女は赤くなって固まってしまった。

 これほどまでのモンスターの素材があれば、ベッドを作れるのではないかと思った。

 だが、少女は愛剣なしにどうやって戦ったのだろう。

 少女の愛剣は、今でも俺の右足になっているというのに。


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