4 エレラでいいから!!
「このダンジョン、崩壊し始めてませんか?」
と俺は焦った様子で、少女に尋ねる。
「ダンジョンは、崩壊と再生繰り返していますから大丈夫ですよ」
少女が言い切った途端、崩れたはずの天井が元に戻っていた。
これが、再生ということか。
元々、ダンジョンはモンスターを倒してもすぐに復活してしまう、
お宝も同じであり、取ったものはすぐ元に戻ってしまう。
それは、未知のシステムだと多くの学者が研究していた。
そんな話をしていた途端、地震が収まっていることに気づいた。
「もう大丈夫のようじゃの。災厄よ」
ドラゴンが座り込んでいた俺たちに顔を近づけて言う。
「そうですね」
俺は立ち上がろうとすると、少女に服を引っ張られた。
少女の手を握って一緒に立ち上がる。
「しかし、このままでは災厄によってここすら崩壊させるじゃろうな」
「そ、そんな………」
体に力が抜け、よろめく。
「外に出ましょう。気分転換するのにはいいかもしれないわ」
と少女は言う。
老婆と俺はそれに同意した。
俺たちは、ドラゴンがいた部屋の奥の扉を潜り抜け、外へと続く魔法陣の上に立つ。
魔法陣が突然光を放つ。
「転移魔法ですか!」
俺はダンジョンにあると言われている失われた古代魔法に興味津々だった。
「そうです。これぐらい魔法、私でもできますよ?」
少女は、むすっとほっぺを膨らませながら言った。
ではなぜ、使わなかったのだろう。
発動までには時間がかかるのか、もしくは、莫大な魔力を消費するからか。
よくわからない。
「お前さんに教えたのは、私じゃて」
老婆が、少女が言った言葉に反論する。
少女の師匠なのだろう。
「着きました」
少女が言うと、今までいたダンジョンから、自然豊かな森に転移していた。
村の近くの森も、自然豊かだったため懐かしく感じてしまう。
「ばあや、ありがと」
少女が、ぼーと立っていた俺の手を引っ張る。
少し転びそうになるも、何とか、転ばずにすんだ
「あ、ありがとうございました」
老婆の方に向かって、深くお辞儀する。
「はよいきんしゃい」
老婆は、早くいってほしいのか手を振っていた。
俺達も、手を振ってその場を後にする。
「結局、安全な場所見つかりませんでしたね」
「うん。だけどいい収穫」
収穫なんかあっただろうかと疑問に思いながら、草木に囲まれた道じゃない道を少女の前を先導して、先に進む。
森の真ん中なのか、左右木と草しかない。
「この辺にしましょうか」
と少女は言うと黒いもやから鞄の様な者を取り出した。
なにが入っているのだろうと、少女の方を見つめる。
すると、その中から、刃が光り輝く斧を取り出した。
「まさか、ここを開拓するつもりですか?」
「そうです。そのためにまずは、邪魔な木をどかさないといけません」
外界から離れたもりの中に家を作るつもりなのだろう。
確かに、俺のスキルとしては人は最低限の方がありがたい。
だが、以前のようにこの森も、肺にならないかと思って仕方なかった。
「封印のやり方がわかるまで大人しくしておいた方がいいです」
そういいながら、光り輝く斧を一生懸命振ろうとする。
だが、重いのか全く地面から上がっていない。
「俺がやりますよ」
少女の斧を握って言う。
握った途端少女は、斧から手を放す。
俺は軽く、斧を振る。
バキという音が何連か続く。
振った方向の木が、全て切り落とされていた。
さっきまでの暗かった森から、開けたもりに変化するほどだった。
あまりの驚きのあまり口を開けたまま固まってしまった。
「あとは家を建てるだけです」
少女の周りには、切り株と倒れた木が大量にあった。
どうやって少女がその場所に立っているのかわからないほどに。
「ちょっと待っててくださいね」
俺は光り輝く斧を、切り株に刺してほかの切り株に座り込む。
少女がいるに目を向けると、日光の光で何も見えない。
仕方なく、少女が呼びに来るまで待つことにした。
「いったいどうなっているんだ………」
今までは、斧を一振りで木を倒すことすらできなかった。
だが、今では、何百という木を一振りで倒してしまった。
この光り輝く斧の効果もあるだろう。
気になるものの、鑑定スキル持ちでなければしらべることすらできない。
そして、この俺の力も。
「お待たせしました」
少女が、倒れた木の壁を越えてこっちにやってきた。
「いや待て待て、早すぎませんか?」
「普通です」
普通………。
家を建てるのに、十分ほどしかたっていないのに。
もしや、木の棒と葉っぱで作った家だろう。
きっとそうに違いない。
「どうですか?」
少女は、自信満々にこっちを見つめている。
目の前には、城が立っていることに、衝撃を受け言葉が出なくなってしまった。
「もしかして、失格ですか?」
涙目でこっちを見つめてくる。
「いや、違う。ただ、目立つような気がして」
返事に困りながらも、思ったことを言ってしまう。
少女が、城の前で何かをつぶやくと、城が突如消えていた。
「は? え?」
突然のことで反応に困ってしまう。
いや、城があるはずなのに、そこには何もないのがおかしい。
「これでどうでしょう」
「い、いや城どこ行った………」
少女に手を引っ張られ、何か変な感覚を通る。
目の前には、少女が立てた城が立っていた。
隠蔽魔法か。
「どうですか?」
「す、すごすぎる」
言葉を失いすぎて、いつの間にか啓吾が無くなっていることに気付く。
「し、失礼しました」
少女を前にして頭を下げる。
「え? ちょ、ちょ、なんですかいきなり!」
今までのお嬢様感がいきなり崩壊した瞬間だった。
神様に啓吾を使わないのは失礼だと思ってしまった。
「もう頭上げてください! お願いですから!」
その声が森全体に響いた。
こんな声も出すのかと驚きながら、頭を挙げると、泣き顔の少女が目の前にいた。
慌てて俺は、少女を慰めようと努力するも何もできない。
「すみま………」
再度謝ろとすると、少女に両手でほっぺを押さえつけられる。少女の両手は、暖かくどこか落ち着く。
「ふぁにするんですか」
「離しませんからね」
「ふぇ?」
少女は、かなり必死に、俺のほっぺを押さえていた。そのおかげか、少しほっぺが痛くなってくる。
「私に、敬語はいりません。ですからあなたは、私のことをエレラと呼びなさい。分かりましたか?」
ただ、強引に命令され引き受けることにするもよくわからなかった。
少女にずっとほっぺを押さえつけられているため、あまりうまくしゃべることができない。
「ふぁかった」
その言葉を放った途端、少女がほっぺを押さえる力が弱まり、少女の腕は、腰の方へと降りて行った。
そのまま俺は、少女に抱きしめられてしまう。動くことすらできない。
ただ、思ったのだ。
俺達の関係は、一体なんだろうと。
「では、呼んでくださいな」
少女は、にっこりとしながらこっちを見つめる。
照れくさく、何も言えずに俺は黙り込んでしまう。
少女が呼んでいいと言っているのだからためらわらずに言おうと、するも声が止まってしまう。
「………エ………」
「エ?」
少女の顔が俺の方に近づいてくる。
「エレラ………さん」
名前を呼んだ途端一気に少女の顔が明るくなっていた。
あまりのうれしさなのか、抱きしめている力が増しているのがわかる。
少し痛い程度なため我慢ができる。
「さんは、いらない」
「え?」
「エレラでいいから」