3 エンシェントドラゴン
「こっちから入ったんか、お前さんらしいのぉ」
少女の後ろから声が聞こえてきた。
口調からして女性で老人だろう。
「すまん。お邪魔だったかい?」
少女の顔を見上げると、顔一面真っ赤になっていた。
抱きしめていた手を放そうとすると少女が俺を抱きしめている手の力が強くなった。
「ばあや………彼のスキルについて何か教えて頂戴」
「分かったよ。入んな」
【特殊な場所に入ったため『災厄』を一時解除します】
脳内にアナウンスが流れ込む。
すると周りの風景が全く異なっていた。
俺は、抱き着きついていた手を緩め左右を見渡す。
「はよこんかい!」
遠くの方の丘から大きな声で先ほどの声が聞こえてきた。
少女は、抱きしめていた手を恥ずかしそうに外す。
「さぁ、行きますか」
少女は、俺の右手を取ると、そのまま宙に浮いた。
地面から突然離れたため俺は慌てる。
「ちょ………ま………まって」
地面があるかのように足をバタバタと動かす。
だが、少女は、離そうとしない。
「さっきこんな声が聞こえまして………」
俺はこの世界に入ってから脳内に流れたアナウンスの事を話す。
その話を、少女は驚くことなくうなずきながら聞いていた。
「その理由は、この世界の成り立ちと関係しているかもしれないわ」
と少女は言うとこっちを見つめていた。
この世界の成り立ち………どういうことだろうか。
「まだまだじゃ。もう少し努力せい!」
丘の上についたのか老人の声が聞こえてきた。
「そうですか………」
丘の上に降り立つが、少女の表情が暗い。
師弟子関係なのだろうか。
「入りなさい」
ログハウスの正面玄関の扉を老人は開ける。
扉の向こう側は、黒い液ようなもので全く見えない。
立ち止まっていると背中を少女押される。
「え? いやここどこだあああああ」
押されてはいってしまった先は、ありえない世界が広がっていた。
そこは、まるでダンジョンのようだった。
壁、床、天井はレンガを積み上げたかのようなものが奥のほうまで続いているのがわかる。
「ダンジョンだよなここ」
あたりを見渡す俺。
「そうじゃ」
と老婆は答えた。
ばあやてこの人のことなのか。
「お待たせしました」
背中から少女の声が聞こえ、後ろを振り返る。
そこにいたのは、いつもの少女だった。
「なぜダンジョンに………」
「秘密じゃ」
老婆は、左側の壁を軽くける。
すると、機械音が壁のあちこちから聞こえてくる。
「着いてきな。はぐれるんじゃないよ!」
蹴った壁は、扉にように開き、その奥は、暗い下り階段が続いていた。
「ばあや。どこ行くの?」
少女も知らないのかきょとんとしている。
「お前さんでも教えてやんないよ」
階段を一段一段下る中、何もしゃべってくれない老婆の背中を着いていった。
「ここだ」
ついた先には、両扉にまがまがしいレリーフが刻まれた部屋の前だった。
いや、これボス部屋………。
この先のボスを倒せば、金銀財宝が手に入るといわれている魔の口だ。
生還率は一割も満たないと聞く。
「入るよ」
老婆はそういうと、ボス部屋の扉を開け中へと入っていく。
俺達もそのあとを追い中へと入る。
「ほう、賢者か。久しのう」
賢者、老婆がそうなのか?
部屋に入った途端、その声とともに、悪寒を感じ、寒くなる。
冷や汗が止まらず、何もすることままならない状況だ。
上を見上げると、そこには神に匹敵する古代の竜王・エンシェントドラゴンが目の前で座っていた。
「え、エンシェントドラゴン………」
とっさに言葉が出てしまう。
避けられない殺気を放たれながらとっさに、言葉がでてしまった。
「その名を知っているのか。災厄よ」
ドラゴンは、ぶっどい声で言う。
「はい。母から俺がいた国、エフェルド王国の建国に立ち会った竜王がいたと聞いています」
「懐かしい名前よな、その名をまた聞くことになろうとは」
ほんとに懐かしいのか、ドラゴンの大きな瞳から一粒の涙が流れていた。
「エンは、相変わらずの泣き虫だよね」
少女は、あだ名でドラゴンの名前を言う。
すると、それに反発しあうかのように、ドラゴンはいう。
「姉さんには、悲しみがわからないだけじゃないですか!」
「わ………わかるし………」
少女のことを、ドラゴンは姉さんと呼んでいた。
年上なのかぁ。
「ほんとですかぁ?」
「ほ、ほんとだもん!」
だもんてつけてる少女がかわいい。
まるで姉をからかう妹と妹にからかわれてる姉のようだ。
「それぐらいにおしい」
老婆が、言い争っている間に入り、二人の話を止める。
「姉さんが【災厄】を連れてきたてことは、始める予定なんですね」
「ええ、その通りです」
俺がなにかのキーなのだろうか。
「あ、あの………【災厄】を消す方法てないんですか?」
と俺はドラゴンに質問する。
俺にとっては一番大切なことだ。
元の日常に戻りたい。
大切な人たちをこれ以上失いたくなかった。
「そうですね。あるにはあります。ですが途方にもない年月がかかることでしょう」
消す方法があるのはありがたい。
こんなスキルとは、早くさらばしたい。
「途方にもない年月とはいったいどれぐらいなのでしょう?」
「万単位と言っておきましょう」
やっと見つけた方法が実現不可能と分かり、俺は落ち込む。
このまま、このスキルと一生付き合っていくのかと思うと、嫌気がさしてきた。
深いため息をつきながら、部屋の端で座り込む。
「ずっとここにいたい………」
俺は、全くスキルが発動しないこの空間が心のよりどころになってしまった。
だが………。
【スキル『災厄』が発動しました】
脳内にアナウンスが流れた途端、地震が発生した。
本来別世界に存在するはずのダンジョン内で地震が発生するのは前代未聞のことだ。
俺は、頭を隠す。
「もう発動したみたいだね」
老婆が、ダンジョン自体が揺れたので察したのだろう。
少女が、俺のほうへ近づき、肩が触れる距離で隣に座ってきた。
「大丈夫ですか?」
心配そうに地震が発生している中少女は俺を見つめ、聞いてくる。
「地震が起きただけですからまだ平気です」
「そうですか」
そのまま話が続かない。
だが、なぜか少女が隣にいるだけで地震の中落ち着いている。
何か話題を言おうと思うも、何も思いつかない。
ドーンという爆発音とともに、天井がドラゴンの上に落ちていた。
びくともせず、ドラゴンは、老婆と何か話していた。




