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2 封印するために

「そう、貴女も認めたのね」

 

 杖代わりに触れた白銀の剣が、黒く染めあがる。

 気味が悪く、一度剣を離そうとする。


「な、何なんだこの剣!」

「ふふふ………」


 無理やり右腕から外そうとする俺を少女は笑いながら眺めていた。

 笑った顔がかわいい。

 だが、どんなに離そうとしても外れることがない。

 次第に剣のことが怖くなってきた。


「その剣は魔剣。魔を宿し、聖に対抗するために作られた災厄の剣」

「聖に対抗………まさか、勇者が持っていた聖剣の事ですか?」


 というと、少女は驚いたのか、少し表情が変わった。


「正解。だけど不正解ともいえる」

「不正解?」


 少女は、白い月に手を伸ばしながら言う。


「聖はね、創造神の事。魔は、それ以外の神の事」

 

俺は思い出した。

 小さいころから村の教会で、神像が一つしかないことを。

 聖の教会だから、創造神の神像しかなかったのだろう。


「聖剣と創造神の関係とは一体?」

「それはね………」


【スキル『災厄』が発動しました】


 頭に中にスキルのアナウンスが流れる。

「っ………」

 アナウンスが聞こえていないはずの少女が俺の側に来る。

 俺が持っていた剣を奪い去るようにとる。


「宇賀嗚呼あ嗚呼ああああ」


 木炭となった森の方から声が聞こえた。

 今までの人生で聞いたことがない声だった。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 とブツブツと言いながら灰の地面にしゃがみ込む。


「安心しなさい。貴方は私が守ってあげるから」


 と言って少女は、声が聞こえた森へと走っていった。

 あの声は、この森に生息している物とはわけが違う。

 だが、今の状態では、何もすることすらできない。

 

「これは………さすがというべきでしょうか」

 

 少女は、血が口周りについている猿のような人間の様な、得体の知れない怪物を片手で地面に引きずりながらこちらに戻ってきた。


「これは、いわゆるキメラです」

「え………待ってください。それてつまり」


 人間の形をしているため、原材料に使われたのは、人間だろう。

 人間に、サルを融合させたのだろう。


「想像にお任せします」

 

 と少女はいうと、奪い取った剣を俺の前に置く。

 すると剣は、形状を液体へと変化させ、失った右足を元に戻すかのように、足の形を作り、すぐに固まった。


「これで当分は、大丈夫でしょう」

 

 形状を変化させる剣聞いたことがない。

 しかも、結合された際の痛みすらないが、神経が通っているのか、かかとで灰の地面に触れているのがわかる。


「あ、ありがとうございます。本当に助かりました」

「いえ、貴女には死んでもらうには早すぎますから」


 少し少女の頬が赤い。

 たくましく美しいが、俺には死んでほしくないのだろう。


「あの、この足に変わった剣は、本当に魔剣ですか?」

「そう。まぁ私の愛剣ですから知らなくて当然ですけど」


 その言葉を聞いた途端、右足から剣を外そうとする。

 だが、取れない、


「すみません」

「何を謝っているの?」


 なにを口に出そうか考え込む。

 だが、神であるエレラーノ様の剣を今すぐに返さないといけないと思ってしまった。

 冷や汗が体中からあふれ出す。


「いえ、エレラーノ様が大切にしていた剣………ですよね?」


 恐る恐る、聞く。


「そうですね」

 

 少女は、俺の前でしゃがみ込む。

 白い手で、右足となった剣を嬉しそうに触っている。


「ですが、この子は貴方を選びました。ですから安心して使いなさい」

「しかし………」


 遠慮しようとすると、少女にほっぺをつねられる。


「貴方は人を………私を頼るべきです」


 少女は、すねるかのようにそっぽを向く。


「すみません」

「そ………それに………その足………わたしのせいなのに………」

 

 少女は、俺に背を向いて小声で何かを言う。

 よく聞き取れなかった。

 俺は思い切って、立ち上がろうと決意する。


「よし!」


 まずは、左足から出す。

 ここまでは順調に進んでいる。

 右足を出そうとした途端、地面へと倒れそうになった。


「全く………練習するなら一言言ってください」


 倒れそうになった俺を少女が受け止めてくれた。

 ほんのり暖かく柔らかい。


「すみません」

「いいから、少し座ってください」


 俺は少女の言うとおりに灰の地面に座り込む。

 すると、少女は俺の前でしゃがみ込むと魔剣が形状を変えた右足に魔法の様な者をっ掛けていた。

 その光景は、あまりにも美しく、まるで聖女の様だった。


「これでよくなったと思います」


 再度立ち上がろうと左足をだし、右足を前に出す。

 すると、倒れることなく立ち上がることができた。

 再度立ち上がることができたことに涙を流す。


「大丈夫そうですね」


 少女は、その場から立ち上がる。

 やはり小柄なのだろうか、身長が俺の胸辺りで止まっている。


「何を考えているのですか?」

 

 むすっとした顔でこっちを見つめる。

 あわてて何も考えなかったように振る舞う。


「右足軽くなったと思いまして」


 話題をそらし、最初に立ち上がろうとしていたときに感じていた。

 最初は、まるで右足におもりをつけてかのようだった。

 だが、今回はそんな感じはなく素足のようだった。


「そう。ならよかったわ」

「俺は………このスキルを封印したいです!」

 

 少女の前ではっきりという。

 すると、

「そうね………」


 少女は、地面の灰を見て黙り込む。

 またスキルが発動しない間に、どこか安全な場所に行きたい。

 だが、どこにそんな安全な場所があるというのだろう。

 すると、少女は、何かしら小さな声でぶつぶつとつぶやく。


「あっちに行きましょ」

 

 焼けた森の方を指差していた。

 たしかあの森は、かなり危険であり、A級モンスターがうようよ徘徊している。

 父さんは、そんな中のA級モンスターを狩っていた。


「そっちは………」

「平気です。あなたは私が守るから安心して付いてきてください。それにこんなに視界が広いんですから大丈夫ですよ?」


 少女は、ずかずかと焼け落ちた森へ入っていった。

 そのあとを恐る恐る俺はついていくことにした。

 まだ歩くことに慣れていない右足が少し痛み出す。

 進みながら辺りを見渡すが、木炭となった木と地面には大量の灰しかなかった。


「この辺かしら」


 少女は、歩くのをやめ辺りを見渡す。

 だが、その周りは先ほどとほとんど変わらない。

 変わっているのは、A級のオークキングの骨があることぐらいだ。


「あの、これなんですけど」

 

 オークキングのことを教えようと近くにいる少女を呼ぶ。


「あ! これよ!」

 

 少女は、オークキングの骨を見るやなやどこかに消えてしまった。


「え?」


 冷や汗と嘔吐が止まらなくなる。

 少女が俺の前から消えた途端これだ。

 恐怖のあまり、その場で耳をふさぎしゃがみ込む。

 そのまま俺はずっとその場でしゃがみ込んでいた。


「お待たせ」


 革袋を持った少女が目の前に現れる。

 俺は、一人でいた恐怖心のあまり少女を抱きしめる。

 

「………………もう………おいてか………ないで」

 

 俺は必死に言葉を出す。

 少女はそんな俺を、しっかり抱きしめる。


「大丈夫。もうどこもいかないから」


 抱きしめられたまま、俺は涙を流していた。


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