0.02 秘密
「起きなさい! 起きなさい。起きてってば………」」
少女の声が聞こえてきた。
重い瞼を開けると、最初に白い光が目に入ってきてすごく眩しい。
だが、次の瞬間目の前には心配そうに見つめる少女の顔があった。
「一体何が………」
少女が笑顔になると、目覚めたばかりの俺の体に抱き着いてきた。
なにがなんだかわからず困惑する。
いつの間にか、見たことない布服を着ていた。
花のようないい匂いがする。
「あら、起きたの?」
少女の母親もこっちに近づいてくる。
「ええ、ご迷惑かけてすみません」
少女に抱き着かれたまま器用に首だけ下に下げる。
少女の母親は、俺の様子を見たのか俺の頭を撫でてきた。
撫でられるとなぜか体の力が抜け、安心してしまう。
「あとは、任せたわよ」
そういって少女の母親は、玄関の方へと行ってしまった。
どこかに行くのだろうか。
玄関の方をじっと見つめていると、寒気が襲ってくる。
そういえば、裸のままだった。
「はい、これパジャマ」
少女が白色のパジャマを渡してきた。
もふもふとした触感だが、柄は全くまるで羊の毛のようだ。
「ああ、すまん」
起き上がろうと、体を動かす。
すると、下半身にはパンツを履いていた。
いつ履いたのかわからず、困惑する。
エレラの母親がはかせてくれたのか、て、名前教えてもらうの忘れた………。
落ち込みながら、パジャマに着替える。
少しサイズが大きいが、なんとかなった。
「着替えた?」
風呂場の方へ行っていた少女が戻ってきた。
手には、風呂に入る前に来ていた服を持っていた。
「ああ、暖かいなこれ」
「そうでしょ。ままがどっからか買ってきたみたい」
「なるほどな」
ソファーに座り込み、パジャマも生地を触り続ける。
かなり高いものだろう、まるで伝説の存在であるフェンリルの毛で作られているような柔らかさだ。
すると、少女が俺の膝を枕にして寝転んでくる。
「気持ちぃ………」
「お前なぁ………」
俺の膝を枕代わりにしている少女の頭を撫でる。
いつまでもこうしていたいと思ってしまう。
一瞬少女と目が合う。
だが、目をそらされてしまい、気まずくなる。
「そういえば、エレラのお母さんてやっぱ有名な女神なのか?」
聞いてみると、少女の口が一瞬開くが少し閉じてしまう。
「ま、まぁね………」
少し控えめな回答だった。
なかなかに答えづらかったのかもしれない。
とりあえず誤っておこう。
「すまん。変なこと聞いて」
「いいの。というよりママが自分の名前とか言わない理由も大体予想着くけどね」
「とりあえず本人に聞くしかないか」
ソファーから立ち上がろうとすると、少女にパジャマの裾をクイクイっと引っ張られた。
膝を見ると、器用に上目遣いで少女がこっちをじっと見てきた。
う………だめだ、かわいすぎる。
顔を右手で少し隠す。
「聞かなくても、私が教えてあげるから腰下ろして」
「分かった」
とりあえずソファーに腰を下ろす。
「ママはね。この世界の大地母神であると同時に異世界の女神、アフロディーテて呼ばれていたの」
「大地母神て………。え? いやまてなんで異世界の女神が?」
「この世界で言うとこのファルナリア。それがママのこの世界の名前、異世界の女神なのは、元々ママはそっちの出身だからね。この家見ればそれはわかるでしょ?」
たしかに、この家には魔法という概念が使われていない。
なのに、火や水が出ており、部屋の中をあかるい照明が照らしている。
それらが異世界の技術だとしたら納得するしかなくなる。
「ああ、色々魔法では証明できないからな」
「うん。まぁ今はパパが他の女神に浮気して別居中だけどね」
はじめて知ったぞそれ………。
少女が瞼を閉じて何も言わなくなる。
そんな少女の頭をなでると嬉しそうに表情が崩れだし、気持ちよさそうにしている。
このままでいいや。
「ただいまぁ。あら、お邪魔だったかしら?」
透明な袋を両手に抱えながら玄関から少女の母親が入ってきた。
その袋から、見慣れない食材を机の上に並べる。
「そうそう、これあなたにあげるわ」
袋から取り出して手渡されたものを受け取る。
それは、透明な袋に入ったクッキーだった。
袋を開けようと苦戦するも、その様子を少女の頭の上でしていたせいか、少女が開けてくれた。
「美味しいぃ………」
器用に少女は、透明な袋から少し小さめのクッキーを取り出し、口の中に入れる。
その光景をじっと見つめていると、少女がこっちに空いた袋を近づけてくる。
俺は、その袋に手を入れクッキーを取り出し、食べる。
母さんが作ってくれたクッキーとは、甘さが格段に高く、一口で満足してしまう。
「なんだこれ………砂糖めっちゃ使ってないか?」
あまりの甘さに驚きが隠せずずっと口が開いてしまっていた。
そこへ少女がクッキーを入れ込み、再度クッキーの甘さが口の中に広がる。
なぜこれほど甘味を軽く渡してきたのだろう………。
「ふふふ、美味しいでしょ」
「ああ、でも甘すぎるな………」
「そお?」
少女がくびをすこしかしげる。
俺の膝の上でクッキーを口に頬張っていた。
一つ一つ丁寧に食べるしぐさが、まるで森に出てくるリスのように思えた。
「エレラ。そろそろ寝なさい、明日早いんでしょ?」
「あーそうだね」
少女は、天井を見ながら言う。
たしかに、少し眠気がある。
すると、少女が俺の膝から起き上がり、俺の目の前に立ちこっちに手を差し伸べる。
少女の小さな手を掴み、ソファーから立ち上がる。
すると、そのまま家の奥へと連れ去られてしまう。
暗い廊下を歩き、突き当りの部屋の前に少女が立ち止まる。
「ここか? てかあけないのか?」
「………」
少女がまた黙り込んでしまう。
なぜか、俺の手を掴んでいる手の力が弱くなってくる。
片手で扉を開け、中に入ってゆく。
そこは、女の子の部屋だった。
扉の前には、白いと机と椅子、そのしたにピンク色のカーペット、机の横に本棚が三個置かれており、その中にはびっしりと本が詰まっている。
本棚の横には、白い衣装棚が置かれており、その前には、白いシーツと布団、マットレスが引いてあるベッドが置かれていた。
少女は、そのベッドの方へと進んでゆく。
見る限りダブルベッドだった。
「もう寝るの?」
少女がこっちに振り返ってきいてきた。
うつろな瞳でこっちを見つめてくる。
だが、おれの眠気はピークに達していたのか、その瞬間大きなあくびをしてしまう。
「寝よっか」
一瞬表情が暗くなったかと思うとそれをきれいさっぱり忘れるかのような笑顔で少女はいう。
少女が先に布団の中に入り、そのあとに俺も入った。
お互い背中合わせでベッドに寝ころぶ。
「なぁ、どうしてここに連れてきたんだ?」
俺は不思議に思っていたことをそのまま聞いた。
さすがに勢いでここについてきたため、気になって仕方なかった。
それを聞いた途端、いきなり背中合わせではなくなり、少女が俺の背中に抱き着く。
「スキルの封印の手がかりのためかしら」
と少女が抱き着きながらいう。
鼓動がバクバクと聞こえるほどに跳ね上がっていく。
少女の話がまるで耳に入ってこなくなる気がした。
「それにパパを止まるためかな」
と最後に小さい声で少女が言う。
俺は、それをきかなかったことにして目を閉じる。
さっきまでの鼓動が嘘かのように落ち着きを取り戻しているものの、少女の暖かいぬくもりがずっと、背中に当たっているのがわかる。
これなら………安心して………ねれ………そう………。