0.8 家?
「この先か?」
少女が石を巨大な扉に加工された門の前で歩みを止めた。
俺も同時に歩みを止める。
すると、石の門に刻印が浮かび上がる。
少女が門に触れた途端、ギギギと地面を引きずる音が聞こえて門が開いた。
「ええ、ではいきましょうか」
少女がそういうと門の奥へと歩き出した。
そのあとを続いて門をくぐる。
その先は、地下へと続く階段だった。
白く薄い幽霊たちが俺達の前を歩いている。
最初のとことの幽霊の色が違う。
「疲れたぁ」
少女が階段を降り切った途端俺に抱き着いてきた。
さっきまでとは全くの別人化のように。
俺は、少女の頭を撫でながら周りを見つめる。
そこは、岩に囲まれ真ん中に宮殿があり、その前に噴水や鉄製のゲートが置かれていた。
人間の貴族の屋敷の様だ。
鉄製のゲートの前には、先ほどの白い幽霊たちが一列に並んでいた。
「お前の屋敷か?」
「ん? あーあれ役所みたいなとこだから違うよ?」
鉄製のゲートを見ていると白い幽霊野一人が屋敷に入っていく。
すると、入っていった幽霊が天へと向かって消えていった。
「おつかれさまでした」
少女は消えていった幽霊を見て言う。
その幽霊に語りかけているかのように。
さすがに恥ずかしくなったのか少女は俺から離れてくれた。
「と、とりあえず休憩しましょ!」
と少女は言いだすとその場でしゃがみ込み地面に触れる。
触れた地面が突然光出し目の前が明るくなる。
あまりの眩しさに右腕で目を覆う。
光が徐々に薄くなっていき、目を覆うのをやめる。
すると、目の前はこじんまりしたキッチンが目の前にあった。
「あら、お帰りなさい」
目の前に少女とよく似ているが、少女よりも大人びた人が台所の前に立っていた。
その人を見つめていると、少女にほっぺをつねられた。
「むー」
少女がほっぺを膨らませて俺のことを見つめる。
その光景を見ていたのか少女とよく似ていた人がくすっと笑っていた。
よく似た人は、ダイニング置かれている机に作っていた料理を並べる。
「そんなとこに立ってないで、こっちで座って!」
並べ終わった途端よく似た人はそういった。
少女は俺のほっぺをつねるのをやめ、席に座る。
俺も少女の隣の席に座る。
目の前の料理がどこか懐かしい。
「それでなんで帰ってきたの?」
よく似た人が少女の方を観て聞いた。
「パパに呼ばれたからだけど………聞いてないの?」
よく似た人は首を横に振る。
少女が持っていたナイフを机に刺し、負のオーラが伝わってきた。
「あの人の事なんて放っておいていいわ。それより貴方のことが聞きたいわ。エレラ教えてくれる?」
「いいけど、ママならなんとなくわかるでしょ」
「まぁね。災厄持ちの人間であり、自ら世界を新たに創造した存在」
なにを言っているのかわからず、思わず食事の手が止まる。
懐かしい味付けでずっと食べていたいと思っていた。
「俺が世界を新たに創造した? なんのことだ?」
少女の母親が首をかしげる。
一方少女は、正面を向いておらず、俺が座っていない方向を向いていた。
その光景を見ていた少女の母親は、食事の手を止め、少女の頭を鷲掴みにされ、強制的に正面へ振り向かされていた。
「ちょっとぉ? これはどういうことかしら? エレラ」
「え、えっと………」
俺の方に少女が視線を向けてくる。
仕方ない。
「あの~」
声をかけようとした途端、少女の母親が俺の方を向く。
「ほんとにそんなことした記憶がなくて………」
「そうなの。なら確定ね」
ギャーという悲鳴が少女があげる。
「痛い! 痛いからぁ!」
と大声で少女が叫ぶ
少女の母親は、少女の頭を掴んでいる手の力を上げたのだろう。
「ふふふ」
と少女の母親が笑いながらずっと掴んでいる。
さすがにこれ以上やると少女がまずいと思い、声が出た。
「と、とりあえず料理食べませんか? せっかく用意してもらったのに覚めてしまいます」
と俺が言うと、少女の母親は少女の頭を離してれた。
「それもそうね。お仕置きは食事後にしましょう」
と言って両手を合わせながら少女の母親は言う。
すると、少女が小声で「ありがとね」と言っていた。
「借り一つな」
と俺は小さな声で言う。
そんな光景を少女の母親はじっと見つめていたのは言うまでもない。
「なかよしね~」
笑顔で少女の母親が言う。
仲良しなのは認めるが、なんか少女の母親の顔が一瞬笑っていないように見えた。
気のせいと思い、少し冷めた料理を食べる。
その後、会話は弾むことなく終える。
食事を終えて、皿をシンクへ置き、布巾で汚れを落とす。
「そんなことやってもらわなくていいのに」
少女の母親が俺の近くにやってきた。
自分の分を持って俺と同じように洗い始める。
「いえ、いつもしていたので」
「そうなの? 貴方のお母さん喜んでいたでしょ」
「ま、まぁ………そうですね」
家族のことを思い出してしまい、皿を洗う手が止まる。
すると、シンクに少女が皿を持ってくると俺から布巾を奪い取るかのように取り、自分の皿を洗い始める。
いつも見ない光景に困惑し、少女の背中に回り、少女の手を握ってやり方を教える。
「それだと、汚れ取れないぞ」
「こ、こう?」
皿から汚れが落ちることを確認し、少女の左手で水を掛け汚れを流す。
乾かすためにシンクの外へと置き、なんとか割らずに済む。
少女の手から自分の手を離すと、逆に少女から手を掴まれる。
「あとは?」
聞いてくるが、他にやることがない。
「いや何もないぞ」
「そう」
素っ気ない返事と共に俺の手を掴んでいた少女の手が離れていく。
すると、隣にいた少女の母親の方へ行き、さっきの説教を受けたいという。
その意気込みに驚いている少女の母親。
少女の手を掴み、キッチン以外の部屋へと行ってしまった。
「それでも!」
「いけません! だいたい貴女てこは………」
別の部屋から少女を怒鳴りつける声が聞こえてくる。
やることがなく、何かしようとソファーに座り込む。
「な、なんだこれ………めっちゃやわらかい………」
あまりにも柔らかいソファーに感動する。
柔らかいソファーに座りながら、魔法陣を手のひらに浮かべ、眺める。
さっきシンクで勝手に出てきた水の魔方陣である。
かなり精密に作られており、近くに手があると勝手に流れる仕組みになっており、その水には石鹸などが入っている。
「やばいな………」
少女には劣るものの、魔王だった時に魔法を勉強していたためなんとか魔方陣を理解することができている。
大体は、基礎となる魔方陣からできている。ただこの魔方陣は、その基礎という概念が存在しておらず、全く異なるものだ。
「さてと、お風呂先に入ってきてくださいな」
魔方陣を見ていた俺に少女の母親が声をかけてきた。
風呂、そんなものまであるのかよ。
「え、いや、お風呂なんてめっそうもない。もう充分です」
いつも近くの川で水浴びだったために降ろなんて入ったことすらなかった。
そもそも、少女とあって以降も、水浴びをしていたため、風呂自体がわからない。
「いいからいいから」
強引に脱衣所に押し込まれてしまう。




